左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

『地球環境の教科書10講』2005の予測!

左巻健男・平山明彦・九里徳泰編著『地球環境の教科書10講』東京書籍 2005年4月初版 2010年9月 10刷

 本書で小林昭三さん(当時 新潟大学教授)は、

 原発信頼崩壊による日本の全原発停止という異常事態が何時起きても
不思議はな」い
 
 と述べている。
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(4)原子炉一斉停止で知れ渡った家庭電力消費の真相 
 2004年長崎原爆の日(8月9日)に、美浜原発3号機事故が発生して、日本
原発史上最多の死傷者11人(死者5人)を出した。この事故の深刻さにより、
関西電力原子力発電所の全号機(11基、03年の発電量中の56%)は、8月13
日から数基ごとに運転を停止して点検に入った。これは、2002年の夏に東京電
力の原子力発電所において一連の前代未聞の損傷隠しが発覚した時の全号機停
止を想起させる。
沸騰水型原発の損傷隠しの背景には、深刻なステンレス配管
の応力腐食割れ (張力、圧力、熱、放射線の過酷な作用と化学腐食とが相乗的
に作用) がほとんどの溶接部で続出したが未だに解決の目処が立たない。


 昨年の2003年4月15日からは、東電原発全号機(17基は02年の東電発電
量の33%を占める)は一斉に運転を停止した。
電力不足の回避のため、電力消
費の内訳の詳細が必要とされたこの時期に「夏の電力消費の昼のピークは家庭
でエアコンをつけながら高校野球を見るため」というまことしやかな「作り話」
が、全く反することが新聞で報道されて広く知れ渡った。何故なら、夏場の日
中のピーク時には、家庭消費電力は実は谷底だったからである。

図6(略)1日における家庭の電力消費

 前述の図5(略)は総電力消費が昼の12時から15時ごろにピークとなる一般
的傾向を示す。だが、財団法人・生協総合研究所(生協総研)が24時間の家庭
の電力消費の変化を調査した図6の結果では午後18〜22時と朝がピークとなっ
た。従って、図5の12時から15時ごろの最大電力消費ピークは、むしろ工場
の操業やオフィスビルの空調・照明の利用ピークと一致する。しかも、家庭の
電力消費は、どの月のどの時間帯でも、冬(12月)の方が夏(8月)よりもが
多く、常に深夜(2時から4時)と昼(10時〜15時)が低い谷底だったので
ある。
 そもそも、年間の電力消費量に占める割合は、工場・オフィス・店舗の大口
需要家が7割で一般家庭が3割なのだから家庭主因説には無理があった。
昼は
不在で電力を使わない実感とも矛盾した。さらに当時は東電が「電気予報」と
いうものをウェブ上で出したので、24時間の総電力消費量(kWh)のカーブを
誰でも見ることが出来た。そこで、家庭でエアコンをつけて高校野球を見る土
曜や日曜日の「一日の電力消費量のカーブ」の実際はどうかを調べると、休日
の電気予報も実態を知るには重要なのに「電力消費は少ないので休日の電気予
報はお休みです」とのみ表示されていた。休日には休みとなる工場・オフィス
の影響で電力消費は激減し、実は、余裕が有り過ぎたのが真相なのだ。


 東京電力原発17基の停止で生じた電力不足を解消するため、昼間のオフィ
スの節電、電力に余裕がある夜間の生産、東電区域外の工場における生産、他
の電力会社からの電力の融通、等を東京電力は要請した。冬眠させていた多数
の火力発電を復活し、点検が終わった原発運転の再開を執拗に要請したが、万
全な点検と修理による安全性の確保なしには住民の納得は得られなかった。


 エネルギー問題が「原発損傷隠しで全原発停止」という形でこのように鋭く
問われることを誰が予想できただろうか。原発信頼崩壊による日本の全原発
止という異常事態が何時起きても不思議はなく、今回は「原子力が3割を超え
るエネルギー供給構造は巨大な潜在的不安定性を免れない」という現実を実体
験したのだ。この重大な不安定性を解消するには、省エネルギー、電力資源の
多様化・分散化、原子力に頼らない社会構造への転換、等が強く望まれよう。

 最後に、日本は極めて低いエネルギー自給率主要先進国(G7)の中で最低
であることを指摘しよう。水力(4%)以外では石油、石炭、天然ガス等のエ
ネルギー資源は日本にはほとんどない。太陽光、風力、マイクロ水力、等の再
生可能な多様なエネルギー資源の開発とその普及を強力に進める必要があろう。