左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

東大寺の大仏は金めっきされていた(水銀アマルガムの利用)

 ツイッターで水銀が話題になったので、『ものづくりの化学が一番わかる : 身近な工業製品から化学がわかる』左巻健男 編著 技術評論社 2013 (しくみ図解 ; 033)に書いたことを紹介しておきます。


【水銀】
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 アマルガムギリシャ語の「やわらかい物質」に由来します。水銀は元々常温で液体なので、加熱しなくても金、銀、銅、亜鉛カドミウム、鉛などの融点が低い金属を溶かし込んでアマルガムとなります。アマルガムはやわらかい糊状で、少しの加熱で軟化するので加工しやすいのです。


 東大寺の大仏の金めっきは、アマルガムを加熱すると水銀だけが気化するという性質を利用しました。「東大寺大仏記」によれば、水銀5万8620両(約50トン)、金1万446両(約9トン)を用いたとあります。膨大な量の水銀が蒸気になって奈良盆地を覆ったかもしれません。日本化学会編「化学防災指針」によると水銀蒸気の吸入は気管支炎や肺炎を引き起こし、腎細尿管障害、むくみ、場合によって尿毒症も発生し、全身のだるさ、手のふるえ、運動失調などをひき起こします。環境科学が専門の白須賀公平氏は、そのときの水銀蒸気で平城京の人々は水銀中毒になり、平城京は遷都せざるを得なかったのではないかと述べています(日本経済新聞2004年5月7日〈文化欄〉。


 似たような話は、砂金の採掘でも見られます。砂金を水銀でアマルガムにすると砂金の不純物の多くは水銀に溶け込まないので、アマルガムを加熱すると金を精錬できるからです。
 ブラジル、アマゾン川流域では、1970年代の終わり頃から川底やジャングルの堆積土中の砂金採掘が盛んに行われ、 金の精練に使用されている水銀による汚染が深刻化しています。タンザニア、フィリピン、インドネシア、中国等の国々でも同様な汚染が起きています。