左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

元素新書本(宝島社)の「まえがき」と「あとがき」を書いた。

 左巻健男です。


 いま『理科の探検(RikaTan)』誌委員有志と一緒に書いている元素の新書(宝島新書)のまえがきとあとがきを書いたところです。 
 

───────────────────────────

 まえがき


 ときどき、周期表をもとにした元素入門講座を開くと、元素好きの大人や子ど
もが集まってきます。子どもで、昆虫少年少女や恐竜少年少女などがいるよう
に、最近は元素少年少女に出会います。「乾燥空気中で3番目に多い元素は?」
「ふつうの温度で液体の金属は水銀ですが、その次に融けやすくて体温で融ける
金属は?」などと質問すると、そんな子どもがぱっと答えます。


 今から何千年前の古代から、たとえば古代ギリシャの自然哲学者には「世の中
のあらゆる物は根本的には何からできているか」が問題でした。それが元素とい
う考えでした。
 万物が原子からできていることがわかり、今では元素は原子の種類のこと意味
します。数えきれないほどたくさんの種類の物質がすべて、およそ百種類ほどの
元素からできているのです。現在発見されている元素は、「周期表」という表に
まとめられています。周期表を眺めながら1つ1つの元素のことに興味をかき立
てられた元素少年少女のすがたは、古代ギリシャの自然哲学者と重なるところが
あるように思います。


 自然界に(天然に)存在する元素は、一般に原子番号92番のウランまでとさ
れています。92番以内でも、43番のテクネチウム、61番のプロメチウム
人工的に合成されて発見されたのですが、その後天然にも確認されています。
 天然に存在せず、人工的方法(核反応)によってのみ作り出される元素を人工元
素といいます。93番のネプツニウム以降の元素は人工的につくられたもので
す。すべて放射性をもち、放射線を出しながら崩壊していきます。ネプツニウム
と94番のプルトニウム、例外的にウラン238の崩壊生成物として、微量ながら
ウラン鉱石中に存在することが分かっています。
 これらの人工元素は、ほとんど研究のためにつくられた原子であり、今のとこ
ろ私たちの生活に利用されている・利用されようとしているのは、核燃料として
発電へのプルトニウムと煙探知器や厚さ計・水分計に利用のアメリシウムくらい
です。それでも新しい元素の合成が続けられています。原子や素粒子の世界の未
知への探究の面白さがそんな努力を支えているのでしょう。


 元素の種類はたった約百種類でも、その組み合わせは無数にあり、物質の種類
がたくさんあります。さらに、これらの物質は地球上の生物のはたらきや自然現
象の中で絶えず移り変わっています。今、私の体をつくっている炭素の一部は、
以前は別の人や別の生物の体や空気中の二酸化炭素の中の炭素だったかもしれま
せん。


 水素とヘリウム以外の元素は、星の内部の核融合原子核が複数融合して大き
な重い原子核になる核反応)でつくられました。太陽や夜空に輝く星の内部では
今この瞬間にもさまざまな元素ができています。また、私たちの銀河の中で100
年〜200年に1回程度おきていると考えられている超新星爆発で金などの重い元素
ができています。地球は、これらの元素からできたガスやちりなどの星屑からで
きました。
 地球そのものが、恒星の中でつくられた元素でできていたのです。そして人
も、宇宙で生まれ、地球をつくった元素から体がつくられています。人は星屑か
らできた星の子なのです。
 人類は、地球上の自然界だけではなく、あまりにも巨大な存在である宇宙の不
思議までも探究し、一つ一つの事実と論理を組み立てて謎に迫っています。あな
たも私も、そんな知的能力をもった人類の仲間なのです。


     2013年11月6日 編著者 左巻 健男

───────────────────────────

 あとがき


 私が原稿を執筆する部屋や大学の研究室には、「RikaTan周期表」が張ってあ
ります。
 RikaTan周期表は、新聞を広げた大きさです。「結晶美術館」サイトを運営し
ている田中陵二さんが撮影した、各元素の結晶写真が並んでいる、とても美しい
周期表です。
 今回、その周期表を眺めながら本書を執筆したのです。


 その周期表は、雑誌の付録です。未だその雑誌のバックナンバー(『理科の探
検(RikaTan)』誌2012夏号)がありますので、その周期表がほしい人は申
し込むといいでしょう。品切れになると入手できなくなります。入手法は、私の
「samakitaの今日もガハハ 左巻健男/SAMA企画」ブログ(http:
//d.hatena.ne.jp/samakita/)をご覧ください。「ガハハ 左巻健男」「ガハハ
 samakita」などで検索すると一番目に出てくると思います。あるいは
「samakikaku@rika.org」へ問い合わせてください。


 私は、元素の本をすでに監修と共著で2冊出しています。ですから、新たに元
素の新書を執筆するにはためらいがありました。
 でも、その2冊のようなビジュアルな写真が中心ではなく、各元素の性質や使
われかたをやさしく紹介するという本もあってもいいと思い、引き受けました。


 一緒に本書を執筆したメンバーは、大人の理科好きのための季刊雑誌『理科の
探検(RikaTan)』誌の委員有志です。その創刊号(2012夏号)で、「元素
周期表の世界」を特集しました。付録には、大判の写真のとてもきれいな周期表
をつけました。そのときに特集に各元素の解説をコンパクトに入れたりしまし
た。本書は、そのときの執筆者を中心にした有志によるのです。
 本書では、そのときの各元素解説をもっとわかりやすく、もっと面白くしよう
と考えて、努力したつもりです。