左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

左巻健男『あの元素は何の役に立っているのか? 』(宝島社新書)12/9

左巻健男『あの元素は何の役に立っているのか? 』(宝島社新書)
アマゾン→ http://p.tl/d_at ¥840 12/9発売

【まえがき】


 ときどき、周期表をもとにした元素入門講座を開くと、元素好きの大人や子どもが集まってきます。子どもで、昆虫少年少女や恐竜少年少女などがいるように、最近は元素少年少女に出会います。「乾燥空気中で3番目に多い元素は?」「ふつうの温度で液体の金属は水銀ですが、その次に融けやすくて体温で融ける金属は?」などと質問すると、そんな子どもがぱっと答えます。


 今から何千年前の古代から、たとえば古代ギリシャの自然哲学者には「世の中のあらゆる物は根本的には何からできているか」が問題でした。それが元素という考えでした。


 万物が原子からできていることがわかり、今では元素は原子の種類のことになっています。数えきれないほどたくさんの種類の物質がすべて、およそ百種類ほどの元素からできているのです。現在発見されている元素は、「周期表」という表にまとめられています。周期表を眺めながら1つ1つの元素のことに興味をかき立てられた元素少年少女のすがたは、古代ギリシャの自然哲学者と重なるところがあるように思います。


 自然界に(天然に)存在する元素は、一般に原子番号92番のウランまでとされています。92番以内でも、43番のテクネチウム、61番のプロメチウムは人工的に合成されて発見されたのですが、その後天然にも確認されています。


 天然に存在せず、人工的方法(核反応)によってのみ作り出される元素を人工元素といいます。93番のネプツニウム以降の元素は人工的につくられたものです。すべて放射性をもち、放射線を出しながら崩壊していきます。ネプツニウムとと94番のプルトニウム、例外的にウラン238の崩壊生成物として、微量ながらウラン鉱石中に存在することが分かっています。


 これらの人工元素は、ほとんど研究のためにつくられた原子であり、今のところ私たちの生活に利用されている・利用されようとしているのは、核燃料として発電へのプルトニウムと煙探知器や厚さ計・水分計に利用のアメリシウムくらいです。それでも新しい元素の合成が続けられています。原子や素粒子の世界の未知への探究の面白さがそんな努力を支えているのでしょう。


 元素の種類はたった約百種類でも、その組み合わせは無数にあり、物質の種類がたくさんあります。さらに、これらの物質は地球上の生物のはたらきや自然象の中で絶えず移り変わっています。今、私の体をつくっている炭素の一部は、以前は別の人や別の生物の体や空気中の二酸化炭素の中の炭素だったかもしれません。


 水素とヘリウム以外の元素は、星の内部の核融合原子核が複数融合して大きな重い原子核になる核反応)でつくられました。太陽や夜空に輝く星の内部では今この瞬間にもさまざまな元素ができています。また、私たちの銀河の中で100年〜200年に1回程度おきていると考えられている超新星爆発で金などの重い元素ができています。地球は、これらの元素からできたガスやちりなどの星屑からできました。


 地球そのものが、恒星の中でつくられた元素でできていたのです。そして人も、宇宙で生まれ、地球をつくった元素から体がつくられています。人は星屑からできた星の子なのです。


 人類は、地球上の自然界だけではなく、あまりにも巨大な存在である宇宙の不思議までも探究し、一つ一つの事実と論理を組み立てて謎に迫っています。あなたも私も、そんな知的能力をもった人類の仲間なのです。


     2013年11月6日 編著者 左巻 健男
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【あとがき】


 私が原稿を執筆する部屋や大学の研究室には、「RikaTan周期表」が張ってあります。
 RikaTan周期表は、新聞を広げた大きさです。「結晶美術館」サイトをやっている田中陵二さんが撮影した、各元素の結晶写真が並んでいる、とても美しい周期表です。


 今回、その周期表を眺めながら本書を執筆したのです。
 その周期表は、雑誌の付録です。未だその雑誌のバックナンバー(『理科の探検(RikaTan)』誌2012夏号)がありますので、その周期表がほしい人は申し込むといいでしょう。品切れになると入手できなくなります。入手法は、私の「samakitaの今日もガハハ 左巻健男/SAMA企画」ブログ(http://d.hatena.ne.jp/samakita/)をご覧ください。「ガハハ 左巻健男」「ガハハ samakita」などで検索すると一番目に出てくると思います。


 私は、元素の本をすでに監修と共著で2冊出しています。ですから、新たに元素の新書を執筆するにはためらいがありました。
 でも、その2冊のようなビジュアルな写真が中心ではなく、各元素の性質や使われかたをやさしく紹介するという本もあってもいいと思い、引き受けました。


 一緒に本書を執筆したメンバーは、大人の理科好きのための季刊雑誌『理科の探検(RikaTan)』誌の委員有志です。その創刊号(2012夏号)で、「元素周期表の世界」を特集しました。付録には、大判の写真のとてもきれいな周期表をつけました。そのときに特集に各元素の解説をコンパクトに入れたりしました。本書は、そのときの執筆者を中心にした有志によるのです。
 本書では、そのときの各元素解説をもっとわかりやすく、もっと面白くしようと考えて、努力したつもりです。
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