左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

健康情報で体験談は信用できるか(左巻健男)

○架空の体験談もある

 法の華三法行 (ほうのはなさんぽうぎょう) という教団を設立して、「最高ですか〜!」というスローガンを叫び、「足裏診断」で健康状態などを診断できるとする福永法源という教組がいました。信者が公称10万人。結局、足裏診断で不安を煽り、多額のお金を巻き上げた詐欺罪で福永法源は、2000年に逮捕され、教団は2001年に破産しました。


 福永法源は、米国のインチキ学位販売業者(名前は大学)から博士号を買っています。ハワイホノルル大学の「地球環境哲学博士号」、パシフィックウエスタン大学の「芸術学士号」「哲学博士号」です。
それで権威付けをして宣伝に利用しました。加えて体験談満載の本の発行です。


 すべてゴーストライター(裏で本の著者の代わりに原稿を書く人)が、ありもしない体験談をつくって本にしたのでした。
 こうしたウソの体験談によって教団を信じた人も多いことでしょう。
 この場合は、ウソの体験談だったことが後でわかったのですが、今でもチラシや雑誌、本の体験談のなかには架空の体験談もかなりあることでしょう。


○テレビの「実験」の問題点

 各種の健康に関するテレビ番組で、「実験」と称することがよくやられています。少人数の被験者に1週間くらいの短期間に何らかの食品をとらせるとか健康法をやらせるとかして「実験」前と「実験」後を比べるのです。
 この「実験」と称するものは、
・統計的な判定ができるほどの十分な人数ではない
・対照が設けられていない
・期間が短期すぎる
 という問題点をもっています。


 「対照を設ける」とは、たとえば「○○水は△△にいい」ということを調べるには、人数を2つに分けて、一方にはふつうの水を、もう一方には○○水を同量ずつ与え、他の条件はできるだけ同じにするということです。対照(コントロール)を的確に設定しないと、何が効いているかがわからないのです。人間ですからまったく同じ人を揃えることはできません。そこである程度の人数が必要になります。


 期間も重要です。短期には健康によいデータになったとしても、長期に続けたら病気になってもおかしくない「実験」もあります。


○体験談に医学的な根拠はない

 実際に○○を食べて健康になったという人がいたとしましょう。それは、○○が健康にいいという証明になるでしょうか。


 実は、そういう人が何十人いても、健康にいいという証明になりません。
 なぜなら、健康になったという人は、○○を食べなくても健康になったかもしれません。健康になった原因は別にあるかも知れません。
 もう一つ、○○を食べて健康が悪くなった人がいるかも知れません。


 医学的に根拠のあるようにするには、先ほどのテレビでよくやる「実験」とは違って、
・統計的な判定ができるほどの十分な人数で行う
・対照(コントロール)を設ける
・期間を十分とる
 ことが必要です。


 さらに、プラセボ効果に注意する必要があります。プラセボ効果とは、薬理作用のないもので病気がよくなったり、悪くなったりするなど、薬理作用ににもとづかない効果のことです。薬理学的にまったく不活性な薬物(プラセボ)を薬と思わせて患者に与え、有効な作用が現れた場合をプラセボ効果があったといいます。「気休め薬」「ニセ薬」ともいわれます。慢性疾患や精神状態に影響を受けやすい病気では、プラセボの投与で、かなりの効果が現れます。
 体験談で、本当によくなったというものであっても多分にプラセボ効果による可能性があります。一般にプラセボ効果でよくなる人の割合は、約3割くらいあるといわれています。


 そこで、きちんとした医学的な臨床事例の検討は、一重盲検法や二重盲検法という方法を使います。
 ここで“二重”とは、その薬を投与する医者にも投与される患者にも自分のものが本物かニセ薬かわからない方法で、“一重”は医者は分かっている場合ですから“二重”のほうがレベルが高い方法です。
 対照(コントロール)はプラセボ効果をキャンセルするためにも必要です。


 一重盲検法、二重盲検法のデータが一番医学的な根拠があるのですが、たとえばがんで抗ガンサプリメントで効くといえるのはわずかしかありません。


 「よくなった」という体験談がいくらあっても、「これは…によく効くよ」という言葉の暗示が効果をもった可能性があります。もちろん、名医といわれる医者はプラセボ効果もうまく活用して治療していることでしょう。