左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

生きているだけ丸もうけ

左巻健男が教育雑誌に書いた文章の一部です。


■あなた方はラッキーだった!


 読者のあなた方が受精から始まって誕生まで、いかにリスキーな中をくぐり抜けてきたかを見ておきましょう。

 成熟した女性は月に一度1回だけ卵巣から排卵をします。この卵の受精可能期間は2〜3日です。一方、精子は、一度に1億個以上が男性の精巣からとび出してくるのですが、卵の近くまで到達できるものは約50〜100個、また卵と合体(受精)できるのはたった1個にすぎません。生命はこの受精したときから始まります。

 父親が生涯に作り出す精子は数兆にのぼります。母親の卵巣には60万個の一次卵母細胞(卵になるもとの細胞)がありますが、受精可能な卵は約30年間に約500個を放出します。数兆のうちの1個、500個のうちの1個から誕生まで行くのです。

 ヒトの受精卵の大きさはせいぜい直径0.2ミリメートルです。3週間で4ミリメートル、8週間頃には3.5センチメートルに成長しています。目、耳、口、などがはっきりして、指やつま先、骨ができて、心臓が鼓動を始めています。ここまでくると、胎児と呼んでもらえるようになります。 そして40週で誕生です。
 受精卵は分裂する度に細胞が2個、4個、8個、16個、32個と増えていきます。ここまでが受精してから4日目で、32個になるのは4回目の分裂です。ここまでこられない受精卵が15%あります。さらに、5回目の分裂をしても子宮にたどりつけないものが15%、たどり着いても着床できないものが4分の1もあります。結局、受精卵のうち55%は着床までに脱落してしまいます。着床して妊娠してもその4分の1は子宮から消えて流産してしまいます。結局、正常に誕生までいくのは、受精卵の3分の1ほどです。

■生きているだけ丸もうけ


 ぼくは著書『理科の基礎・基本 おもしろ授業入門』(明治図書2002)に「教師のための精神衛生法」という項を書きました。その項の最後の言葉は、地球の誕生、そこでの生物の誕生と進化、人類の誕生、自分の誕生といった宇宙史の中に自分の生を位置づけて、渋谷治美さんの言葉を紹介しました。落ちこみそうなとき、思い起こすとよい言葉だと思います。そして、この言葉を実感できるような教育をすすめていくことが理科教育の立場に立った生命尊重の教育として大切だと思うのです。

 その言葉とは、「生まれてきたのは丸もうけ、これまで生きてきたのも丸もうけ、これから生きる分は、なおさら丸もうけ。」です。