左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

昭和46年(1971年)の検定中学校理科教科書の放射線の内容

Ⅱ 原子の構造と放射線


 いまから70年ほど前まで、原子というものは、もうそれ以上こまかく分けることのできない、物質のいちばん小さな単位だとおもわれていた。原子は目で見ることはできないが、現代の科学者は、いろいろな現象を通じて、原子がもっと小さな多くの粒子からなりたっていることをあきらかにした。原子力放射能などは、みな、原子の世界での粒子のふるまいがもとになっているものである。


1 原子の大きさと構造


 現在知られている原子の種類は約100種ほどである。それらの原子はすべて、その中心にある原子核と、そのまわりにある何個かの電子とからできている。まわりの電子の数10は、原子の種類によってちがい、たとえば、水素は1個、ヘリウムは2個、炭素は6個、酸素は8個である。また、原子核は正電気をもち、電子は負電気をもっていて、原子全体としては電気的に中性となっている。したがって、電子2個をもつヘリウム原子の原子核は、水素原子核の2倍の正電気もち、電子を6個もつ炭素原子の原子核は、水素原子核の6倍の正電気をもっている。

 原子は、おおよそ1億分の1 cm程度の大きさであるが、中心にある原子核の大きさは、さらにその10万分の1程度の大きさである。まわりにある電子は、ひじょうに小さく、量で考えると、水素原子核の約1800分の1ほどである。したがって、原子の質量は、ほとんど原子核の質量と考えてよい。


2 原子核


 水素の原子核を陽子という。陽子は正電気をもっており、 陽子1個のもつ正電気の量と電子1個のもつ負電気の量とは等しい。いっぱんの原子核は、陽子と、それとほとんど等しい質量で電気をもっていない中性子とからできている。*
───────────────────────────
* 陽子、中性子1個の質量は、おおよそ1.7×10^−24gである。


 ふつうの原子では、原子核がもっている陽子の数と、まわりにある電子の数とは等しい。原子核の中にある陽子の数で原子の種類を表わすことができるので、この数を原子番号といっている。たとえば、ヘリウムの原子番号は2、炭素は6、酸素は8である。(原子の周期表については、297ページ参照。)
 原子核の質量は、陽子の数と中性子の数とによってきまる。
 陽子の数と中性子の数との和を質量数 という。質量数は、原子の質量を比較するときのめやすになる。

 ところで、原子番号は同じでも、質量数のちがう原子がある。それは、中性子の数がちがうからである。このような原子は質量はちがっていても、電子の数が同じであり、化学的な性質は変わらない。これらを同位体という。たとえば、ふつう、水素原子核は陽子1個であるが、このほか、陽子1個、中性子1個からできている水素原子核もある(この原子を重水素という)。これらは水素の同位体である。同位体をはっきり示すには、酸素16、酸素18、ウラン235ウラン238などというように、質量数をつけてよぶ。


3 放射能


 黒い紙で包んだ写真乾板の上にウランをふくんだ化合物をのせておくと、写真乾板は感光する。これは、ウランから黒い紙を透過する放射線が出ているからである。このように、放射線を出す性質を放射能という。放射能をもつ原子には、ウランのほかにラジウムなどがある。放射能をもつ原子核は、放射線を出しながら、しぜんにほかの原子核に変わっていく。
 放射線には、α線β線γ線 の3種類があり、それらは、つぎのようなものである。
  α線……ヘリウム原子核*の流れ
  β線……原子核の中からとび出した電子の流れ
  γ線……X線よりさらに波長の短い電磁波
  これらの放射線は、写真のフイルムを感光させたり、けい光物質を光らせたり、物質を透過したりする。また、原子をイオン化したり、生物の細胞をこわしたりする性質がある。
 このため、放射線を人体に大量にうけるのは危険である。
───────────────────────────
* 2個の陽子と2個の中性子とがかたく結合した粒子。


4 原子核の人工変換


  ふつうの化学変化では、原子は、他の原子と結びついたりして、その組みあわせは変わるが、原子核そのものがほかの原子核に変わることはない。
 ところが、このような原子でも、原子核中性子α線などをぶつけると、他の原子核に変わる。このことを利用して人工的に原子核の変換をおこすことができる。たとえば、窒素の原子核α線をぶつけると、酸素の原子核に変わり、ベリリウムα線をぶつけると、炭素の原子核に変わる。


【人工放射能】 原子核を人工的に変換させたときできた原子核放射能をもつことがある。このようにして生じた放射能を人工放射能という。たとえば、コバルト(質量数59)に中性子をあてると、放射性のあるコバルト(質量数60)となる。これは、γ線を出すので、がんの治療などに利用されている。また、人工放射性リンを肥料にまぜて植物体内に入れると、放物体内におけるリンの動きは、放射線の出るところをさぐることによって知ることができるから植物体内におけるリンのはたらきを研究するのに役立つ。このように利用される放射性物質をトレーサーという。

核分裂】 ウラン235原子核中性子をぶつけると、それが2つの新しい原子核にこわれる。これを核分裂という。このとき、中性子が2〜3個とび出し、同時に多くのエネルギーが出る。ウラン235の1個に核分裂をおこさせると、そのときとび出した中性子が、さらに、近くにあるウラン235 にぶつかって核分裂をおこす。これでとび出した中性子がまた近くのウラン235にぶつかって核分裂をおこす。このように、つぎつぎに反応がおこることを連鎖反応という。その結果、きわめて多量のエネルギーが出る。このようなエネルギーを、原子エネルギー*とよんでいる。

───────────────────────────
*いっぱんに、原子力ともいわれている。原子エネルギーの利用については、「B−4
 天然資源」257ページ参照。


※『新訂 新しい科学 3年』133〜138頁(東京書籍)