左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

内容証明郵便が来た!〜朝日新聞掲載「シャワーヘッド記事の件

田川加工大熊社長から内容証明郵便が来た!


朝日新聞DIGITAL掲載「シャワーヘッド『水通せば殺菌』 福岡のメーカー開発』記事をめぐっての経緯

※やっと余裕ができた。この件の経緯を記しておきたい。
※もともとは、次の記事。その記事は削除したが、今回その後の経緯を入れて再構成した。
朝日新聞DIGITAL掲載「シャワーヘッド『水通せば殺菌』 福岡のメーカー開発』記事をめぐっての左巻健男の疑問
http://d.hatena.ne.jp/samakita/20151026/p2


朝日新聞デジタルに“シャワーヘッド「水通せば殺菌」 福岡のメーカー開発”という記事が出た。“薬剤を使わず、水を通すだけでレジオネラ菌などを殺菌・滅菌するシャワーヘッドを福岡のメーカーが開発した。”というものだ。
ログインしなければ全文読めない記事であるが、今回の記事のもとになるため全文引用する。

───────────────────────────

“薬剤を使わず、水を通すだけでレジオネラ菌などを殺菌・滅菌するシャワーヘッドを福岡のメーカーが開発した。メーカーは公衆浴場のほか、高齢者の介護施設などでの利用を想定している。

新商品「助太刀K&D」を開発したのは、節水シャワーヘッドで知られる「田川化工」(福岡県香春町、大熊洋史社長)。ヘッドの内部に鉱石の「トルマリン」が組み込まれている。同社によると、通った水が電気分解される。ヘッド内では気泡や衝撃波も発生し、こうした原理を応用することで、細菌を破壊するとしている。

財団法人「東京顕微鏡院」の検査でも、殺菌効果があることがわかったという。価格は8800円(税別)。

レジオネラ菌による感染症例は増加傾向で、厚生労働省はシャワー水が感染源になり得るとして、シャワーヘッドやホースを定期的に点検・消毒することを呼びかけている。田川化工の大熊社長は「集団感染の被害が心配される温泉や公衆浴場、免疫力が落ちた高齢者の介護施設などで活用してほしい」と話している。

 同社は節水型のシャワーヘッドの製造で知られ、業務用の節水型シャワーヘッドは、全国の理美容院の約70%で使われている人気商品という。(大矢雅弘)”
───────────────────────────

その記事で、トルマリンにそんな効果があるのかという批判が相次いだのだろう。


ぼくも朝日の福岡支社の記者からいろいろ質問され、答えた。
次がぼくのトルマリン認識である。


トルマリン電気石)は、電気石グループの総称だが、加熱したり、摩擦したりすると静電気がおきるという性質をもっている。そのため、このような名前がつけられた。


 電気石を使って処理した水は、「電気石に静電気がおきる性質から、電気石を水と一緒にすると、放電することにより、水(H2O)の分子は、水素イオン、水酸化物イオンに分離します。この水素イオンは、電気石のマイナス電極から放出される電子と結合・中和し水素ガスとして空気中に放出されます。」などと説明されることがある。小さなペレットにするほど、効果が高くなるという説明もされる。


 この説明のポイントの一つは、水は電気石で水素イオン、水酸化物イオンに解離され、水素ガスが発生するということである。しかし、実際は水素ガスの発生は見られない。水を電気分解するには電気エネルギーを投入する必要がある。


 酸化チタンの光触媒なら太陽光のエネルギーで水を分解できる。また水に金属のカルシウムやマグネシウム、水素化カルシウムなどの金属水素化物を加えれば水と反応して水素を発生する。残念ながらトルマリンにはそのような性質はない。

記事の業者にトルマリン関係の製品を納入したという業者からぼくに電話がかかってきて、トルマリンを水に入れると界面活性があることを東大のエライ先生が検証している(25年前。その教授は故人)、界面活性があると電気分解が起こる…など、ぼくには納得できない話をまくし立てられた。
朝日の記者がぼくに相談したことを業者に知られてしまったということで、あとで朝日から謝罪された。


訂正記事が出た。その記事は、トルマリン電気分解の効果がないことを訂正したものだ。

10/24の訂正。 http://www.asahi.com/articles/ASHBR6FTLHBRUEHF00R.html


───────────────────────────

“ 訂正しておわびします。

■訂正:シャワーヘッド「水通せば殺菌」 福岡のメーカー開発

 「シャワーヘッド『水通せば殺菌』 福岡のメーカー開発」の記事(14日配信)で、シャワーヘッドの内部に鉱石の「トルマリン」が組み込まれており、通った水が電気分解される、との記述がありました。トルマリンは「電気石」とも呼ばれる鉱石で、加熱などで静電気を帯びることがあるとされます。しかし、水と触れただけで電気分解を起こすことはない、との指摘が複数の専門家からありました。このため、記事中の「(鉱石の『トルマリン』が組み込まれたシャワーヘッドを)通った水が電気分解される」との記述は不適切と判断し、削除します。当初の取材と、その後のチェックが不十分でした。

http://www.asahi.com/articles/ASH9Y6DRPH9YTIPE037.html ”
───────────────────────────

ぼくが朝日に専門家として紹介した天羽優子さん(山形大学)の意見は以下を見てください。

“ 朝日新聞デジタルの記事へのコメント(2015/10/17)

 http://www.cml-office.org:8080/official/wwatch/nion/comment-ni-15 ”

天羽さんの記事にある田川加工の特許の根拠は一般財団法人「東京顕微鏡院」の検査である。
しかし、この検査方法には致命的な弱点がある。


それは対照実験が行われていないことである。
「対照実験」とは、一つの対象に対するある条件の影響を明らかにしようとする実験(本実験)を行うときに、目的とする条件以外は本実験と同じ条件で行う実験である。両実験結果を比較検討することにより、その条件の影響が明らかになる。対照実験の必要性は、理科教育では、小学校5年で「条件制御」という名前で登場する。いくつかの条件を統一して一つの条件のみを変えてその結果を調べるのである。


J-CASTニュース朝日新聞「殺菌商品」記事が炎上状態 「トルマリン」効果の記載に疑問相次ぐ 2015/10/21 20:44  http://www.j-cast.com/2015/10/21248539.html
 に検査した機関の話がある。
───────────────────────────

一般財団法人「東京顕微鏡院」では、取材に対し、この商品の検査を14年12月に行ったことを営業部の担当者が認めたうえで、次のように説明する。


「レジオネラ属菌の何種類かでヘッドの通過試験をしましたが、殺菌効果については確かめていません。通過した後の水に含まれる菌が最初に添加したときより多いかどうかの結果は出しますが、こちらでは、その評価はしないことになっています。メーカー側がそのデータを見て、自社の判断で効果があったと公表されたのだと思います」”
───────────────────────────


その後、田川加工の大熊社長から「会って話をしたい」という申し入れがあり、1月26日に新宿で話をした。
そのとき、ぼくは「“トルマリン電気分解が起こる”ということは考えられない。」ということを何度も述べた。


そのとき、大熊所長から「シャワーヘッドではキャビテーションも起こるようにしている。キャビテーションで殺菌効果がある」といわれた。キャビテーションの話はこのとき初めて聞いた。
キャビテーションとは水の流れの中で圧力差で気泡が生じたり消滅したりする物理的な現象である。もしかしたらエネルギーの大きなキャビテーションがあれば殺菌効果があるだろう。しかし、シャワーヘッドで殺菌できるレベルのキャビテーションが起きているかどうかはわからない。

結局、「公開で実験をして確かめましょう」という話になった。ぼくは、「実験を提案してもらい、どういう実験を設定するといいかを検討してから公開で行うのはいいですよ」と述べた。「微生物学の専門家にも実験設定を検討して貰いたい」とも述べた。


時が過ぎて、田川加工の大熊社長から郵送物内容証明郵便)がきた。4月19日付けである。

実験の提案が来たのかと思ったら違った。
田川加工の製品に対し、書いたある表現についてブログの記載は誤っているので削除をするか訂正してくれというものでした。


「あれ?公開で実験を行うというのはなくなったのか」と思った。減菌、滅菌については、天羽さんが書かれているように対照実験の設定がなく、本当に効果があるのかどうか判断できない。


ぼくは、キャビテーションの効果がどの程度かわからないため、指摘のあったある表現は削除することにした。

今のぼくの判断は、
トルマリンペレットで水が電気分解できるというのは疑わしい。これについては天羽さんの判断に同感である。
・減菌、滅菌については本当に効果があるのかどうか判断できない
ということである。

※【追記】5/16
 なお貰った内容証明郵便の内容について、送付元の田川加工大熊社長にメールで、
左巻健男です。
 先日内容証明郵便をいただきましたが、それはブログに公開してもよろしいでしょうか。
 公開した方が大熊さんの主張がブログの読者によくわかると思います。
 この内容証明郵便とは私宛に大熊さんからの4月19日付けのものです。
 お返事をお願いします。」
と出しましたら、ご本人から、
「別に、かまいませんのでどうぞ。大熊」
ということでした。後日、ここに付加するかもしれません。

※【追記】5/17
 ということで内容証明郵便のメイン部分を以下に公開します。また、田川加工のシャワーヘッドの宣伝用のものがその内容がよくわかると思いますので入れておきます。
顕微鏡院の検査報告書も田川加工から貰ったので入れたいのですが概要は特許の説明(天羽さんの記事で引用しながら検討されている)や宣伝用のでわかると思います。