左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

病的科学としての「ボンズとフライシュマンの常温核融合」

 左巻健男がその文庫本の巻末解説を書いたサム・キーン(松居信彦訳)『スプーンと元素周期表 「最も簡潔な人類史」への手引き』早川書房 の「狂気と元素」の章に、「病的科学」が扱われています。


 周期表絡みの狂気の科学者(マッドサイエンティスト)の例の1つとして、ボンズとフライシュマンをあげています。
 以下はその一部です。


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ボンズとフライシュマン。フライシュマンとボンズ。二人はワトソンとクリック、あるいは遡ってマリーとピエールのキュリー夫妻以来の偉大なる科学デュオになるはずだった。


だが、彼らの名声は地に堕ちて腐臭を放っている。今ではB・スタンリー・ボンズとマーティン・フライシュマンという名前からは、いかに不当であろうとも、ぺてん、騙り、詐欺師といった言葉しか思い浮かばない。
 二人の名を上げ、そして貶めた実験は、なんというが、嘘のようにシンプルだ。


世界に役立つクリーンで安いエネルギーの実現を信じたいという欲求は強く、支持者は琴線の震えをそうすぐには抑えられなかった。この時点で、常温核融合は病的なものへと変質した。


支持者は二人を (もちろん自分たちをも)偉大な反逆者“唯一結果を出した者”として擁護した。一九八九年以降しばらく、一部の批判者が自分の実験結果を基に反論したが、支持者はどれほどのっぴきならない結果に対しても必ず言い逃れをした。ときには元の科学研究よりも巧みに。そのため、批判者はやがて諦めた。


こうした状況を、カリフォルニア工科大学の物理学者デイヴィツド・グッドスタインが、常温核融合にかんする優れたエッセイで次のようにまとめている。


常温核融合の信奉者は自分たちが包囲されたコミュニティであることを自覚しているので、内部批判はほとんど出てこない。実験や説は額面どおり受け取られがちで、それは、外部の批判者がわざわざ聞き耳を立てていた場合に、さらなる攻撃材料を与えてしまうのを恐れてのことだ。このような状況下では変人がはびこり、ここで真剣な科学が行われていると信じる者にとって事態を悪化させる」。
病的科学の説明として、これほど簡潔にして優れたものは望めまい。