左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

出口俊一vs左巻健男名誉毀損裁判の左巻健男陳述書

陳述書      

平成28年1月15日
東京地方裁判所民事第7部ほB係 御中

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左 巻 健 男 印


1 私は、今回、自身のツイートに関して出口氏から訴えられました。しかし、ツイートの内容は全て実際にあった事実に基づいており、全く問題が無いと考えています。これから、ツイートをした経緯等について、ご説明させていただきます。


2 私は、もともとは中学校、高等学校の理科教諭でした。今は、法政大学で教職課程センター教授を務め、小中高の理科教育、一般の方の科学リテラシーの育成を専門にしています。いわば科学者、科学の成果と一般の間をつなぐための教育・研究をしています。科学(自然科学)はいつも自然の客観的な事実に即して真理を探究する営みで、そこには建設的な批判は不可欠です。


 しかし、昨今では、科学っぽい装いをしていたり、主張の一辺を見ると科学のように見えるけれども、批判や検証を拒否し、とても科学とは呼べないもの、いわゆる「ニセ科学」があふれています。中には、科学というよりオカルトに近いようなものもあり、それを信じてしまったことで、生命にかかわる重篤健康被害が生じてしまうこともあります。そのため、私は、科学リテラシーの育成を阻む「ニセ科学」についても研究対象とし、編集長として、大人のための理科雑誌「理科の探検RikaTan)」という雑誌を発行したり、本を書いたりして、ニセ科学の拡散に警鐘を鳴らしてきています。


3 今回問題となっているEMも、私が従前から「ニセ科学」として警鐘を鳴らしてきたものの1つです。


 EMとは、単一の微生物ではなく、乳酸菌、酵母光合成細菌などの微生物群だといわれています。もともとは土壌改良のための農業用微生物資材として開発されたものだと、開発者である比嘉照夫氏が主張しているものです。その土壌改良の効果も、社団法人日本土壌肥料学会から他の微生物資材と変わらない効果とされています。ですから、他の農業資材と同じような内容の宣伝が行われただけであれば、ニセ 科学としての問題は生じませんでした。


 ところが、EMは、農業資材としての枠を越えて、次のような根拠の無い宣伝をするようになりました。
 『EMはあらゆる病気を治し、放射能を除去する万能な効果を有し、EMに囲まれた場所は「結界」になる』『EM製品を身に付けていると交通事故に遭っても大事に至らない』『EM生活をしていると電磁波障害が減り、電気料金も安くなり、電気製品の機能が高まり寿命も長くなる』『EMの入った容器の上でウイルスを培養すると、EMから出る「波動」によってウイルスが失活する。』といった宣伝です(これらはほとんど、EM情報室WEBマガジン「エコ・ピュア」に掲載されていた、比嘉照夫氏の連載に記載されていたものです)。EMは乳酸菌や酵母などなのですから、ここまで来ると、もはや科学ではなく一種の宗教、あるいは妄想になっていると思わざるをえません。


 出口氏は、EM研究機構の顧問を務めていて、そのサイトで比嘉氏の連載を掲載しています。今回ツイートで問題にした「EM1号の入った容器の上でウイルスを 培養すると、EM1号が添加されたのと同様にウイルスが失活するということである。」(第77回 EMの抗ウイルス効果)は、「EMにpHのみの効果でない事例が無数にあることを補足したい。」としての紹介の第一であるが、「EMが接触していないウイルスを失活させる」というのは荒唐無稽な話でしかありません。比嘉氏の「エコ・ピュア」掲載のものと合わせると、それを「波動」で説明しています。しかし、比嘉氏の「波動」は、科学・物理学の波動とは異なって、ニセ科学の「波動」で、実在しない(実体をもたない)妄想の類です(菊池誠ニセ科学の「波動」と物理学の「波動」』理科の探検(RikaTan)誌2014春号 69〜73ページ)。
 しかも、このような、科学とは全く相容れない宣伝で広まっているEMが、地方公共団体の後押しで使われるケースが出てくるばかりか、学校での環境教育の教材としてもあちこちで使われています。
 私が今回したツイートはどれも、一科学教育者として、このようなニセ科学性をもったEMの主張に警鐘を鳴らす必要があるとの強い思いから行ったものです。


4 EMの効果に対する批判は、私以外の科学者からも行われており、EMに批判的な記事も多く出回っています。科学は、他者からの批判、論評、検証を経て定説となっていくものです。そのため、他者からの正当な批判は一定程度受忍しなくてはならないと、私は考えています。しかし、出口氏は、EMに批判的な記事を書いた 著者に対し、個別攻撃とも取れるような行為を繰り返しています。その際には、出 口氏は、EM研究機構顧問という肩書きを示さず、ジャーナリストあるいは金沢工業大学客員教授の肩書きの下で行っています。出口氏のDND研究所サイトには、EM研究機構顧問という肩書きは載せてありません。


 個別攻撃を受けた一人が、四日市大学環境情報学部特任教授であり、北海道大学の名誉教授である、松永勝彦先生です。松永先生は、理科雑誌「理科の探検 (RikaTan)」で専門家としてのご意見をいただいたりしており、EMに環境浄化効果があるという主張について批判する記事も書かれていました。松永先生に対しては、出口氏から急に、EMの件で面会をしたいと電話があったそうです。松永先生は、体調悪いため会うことはできないが電話でなら話します、と言ったそうですが、「今青森にいるから、午後函館に着いてから電話します」と言われ、その後電話もなしに家まで押しかけて、EMの効果を主張してきたというのです。


 また、同じくサイエンスライターの片瀬久美子さんも、EM批判記事を書いていることを原因として、出口氏から執拗に個別面会を求められています。これについては、今回の訴訟で乙2号証として、証拠となるメールを提出しています。


 さらに、神田外語大学の飯島明子准教授がEMに環境浄化効果があるという主張を批判をしたところ、その影響力を危険に感じたのか、これまでのような個別攻撃にとどまらず、本人には直接会うことなく、その所属先である神田外語大学を通じ圧力をかけるようなことまでしていました。この点については、飯島さんも自分で陳述書を作ると言っていたので、そちらに詳しい説明があると思います。このときには、出口氏は、EM研究機構顧問の名刺をメインに出していたということです。


 みなさん私の知り合いで、これらの話しはご本人から直接伺っているので、確かな内容です。当の出口氏は、このような行為について「取材」と言っているようですが、体調不良な人のところへ押しかけたり、所属大学を通じて圧力をかけたりする行為が適切な取材だとはとても思えません。自分の気に入らないことを言う相手に対し、いちゃもんをつけたり、個別攻撃を仕掛けたりしているのですから、私のヤクザみたい、とか、ジャーナリストとは言えない、といったような評価はむしろ適切だと思います。


5 出口氏は、私の他にも、EMについて批判した人に対して名誉毀損だといって訴訟を提起しているようですが、いずれも科学の営みに沿った正当な評価、批判なのですから、嫌がらせのように訴訟提起することは本当にやめてほしいと思います。

以上