左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

左巻健男の9年前の予言(「ゆとり」教育の行方)

 京都新聞朝刊に載った2001年6月6日のインタビュー記事。当時、東京から京都に移ったばかりだった。さて、その当時のぼくの予測はあたっているだろうか。


 学力低下の懸念も


 京都工芸繊維大学アドミッションセンター教授 左巻健男


 東京大教育学部の付属中・高校で教員を務め、今春から京都工芸繊維大アドミッションセンターに異動した左巻健男教授(理科教育・大学入試)に、十年後の学校教育がどう変わっているのか、見通しを聞いた。


−−−新学習指導要領で学んだ子どもたちは、変化が出るのでしょうか。

 「2006年、学習内容が削減された新しい学習指導要領で学んだ高校生が大学に入ってくる。大学関係者は2006年問題と呼んでいるが、学生の学力低下がさらに顕著になるのではないかと心配している。
 例えば、理科ではイオンの学習が中学から高校へ移行した。だが、高校の理科は物理、生物などから一科目を選択すればいいから、イオンを知らない大学生が出てくる。イオンに限ったことではなくいろんな分野で、中学三年のレベルのまま高校を卒業する生徒が増えるだろう」

−−−小、中学校では、どんなことが起きるでしょう。

 「新学習指導要領では、子どもが興味や関心を持つ上で大切な基礎・基本の部分が削られている。教科書以外にもっと勉強しようという意欲が起こらないのではないか。ゆとりは生まれるが、子どもたちがそのゆとりの時間を有効に使えるかどうか疑問だ」

−−−総合学習は定着するでしょうか。

 「他の教科は指導要領で教えるべきことを縛っているが、総合的な学習の時間は何をやってもよく、学校の特色が出る。うまくいく場合といかない場合と、学校間でかなり差が出るだろう。
 国語や算数といった基本教科の学習と、総合的な学習の時間のテーマがうまく連動すれば、教科書の中で学んだことが社会や生活とどうつながっているかを子どもたちが理解できる。しかし、子どもたちがやりたいことを先生が見通しもなくやらせてしまうと、しっかりとした力は身につくとは思えない」

−−−少人数学級や少人数教育は進んでいくでしょうか。

 「(現在より十人少ない)三十人学級を実施するには多大な費用がかかり、できるかどうかは今後の日本の経済状態にかかっている。(クラス定員はそのままで特定の教科だけ少人数にする)少人数学習は進むだろう。その際、よく理解できる子どもたちと、指導要領で決められたことだけを勉強している子どもたちに分かれてしまい、小学生のときから学力の差が広がるのではないか」

−−−新指導要領がここ十年の間に見直される可能性はありますか。

 「日本が本当に科学技術立国を目指すのなら、知的レベルを上げる教育が必要で、文部科学省が十年たたないうちに指導要領を改善する可能性は十分に考えられる。ゆとりを重視しすぎた教育には揺り戻しの動きが必ず出てくる」

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 「急展開で京都人に」という当時の様子がわかる文章があったので、つけておきます。


 18年間勤めた東大附属から国立京都工芸繊維大学という2学部7学科構成の中規模大学に異動しました。アドミッションセンターというA0入試(日本型AO入試は、学力試験だけに寄らない丁寧な入試)のセクションの専任教官(教授)になりました。京都に来たときには、大学にお寄りください。地下鉄烏丸線松ヶ崎から歩いて5分です。

 東大附属では、人間関係が苦手で、烏合の衆になることを嫌い、“一匹狼”を自称していましたが、痩せた、鋭い目をもった青年教員は、次第に横に広がり、“さまっちょ”と言われる始末でした。

 担任もずぼらに(いい意味では生徒中心に)やって、一部の生徒にはもっとしっかりやれと言われ、“がはは”と怪獣笑いで誤魔化していましたが、次第に教育は難しくなり、担任学年の教室に足繁く通う教員になっていきました。それでも一部の生徒たちと良好な人間関係がつくれず苦労もしました。毎日HRをやり、掃除をしっかりやらせる私を想像できない卒業生もいることでしょう。

 さて、今年は講義を持たないで(しかし、法政大学工学部と香川大学の講義はもちますが)、助教授、事務官らと近畿圏初の国立AO入試の準備および高校大学の接続のプランニングにかかります。

 私の専門は、教育学(科学教育と科学教育を背景にした教育内容、方法、課程)ですから、専門を生かせることは確かです。大学の仕事と、相変わらずの原稿書き(研究のためです)に忙しい毎日を送っています。この7月には、私の編集で『理科・数学教育の危機と再生』(岩波書店)と『「理数力」崩壊』(日本実業出版社)の2冊が世に出ています。さらに今後、『おもしろ実験ものづくり事典』(東京書籍)などが出ます。最近出した本で売れ筋は『入門ビジュアルエコロジー おいしい水 安全な水』と『化学超入門』(共に日本実業出版社)の2冊です。
 本の話で終わるのも、実に私らしいかも知れません。