左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

10数年前の原稿(手書き→ワープロ→パソコンへ)

ワープロ・パソコンの活用◎

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 本書の旧版を書いたとき、ぼくは,原稿を4B,0.9ミリのシャ─プペンシルで,すらすらと書いていた。ワ─プロも,パソコンも要らない,と思っていた。
そのころは,書く内容も単純だった。自分が書きたいことを書けばいいのだ。ぼくは,若く,エネルギッシュだった。頭の中の全てを吐きだすように原稿用紙の枡目を埋めていった。何回も書き直すことはなかった。書く前におぼろげながら,全体の構成ができあがっていたからだ。書きおわったら,見直すのだが,根本的な見直しはなく部分的手直しだった。
 その後、手書きは止めてワープロ専用機・パソコン利用へと移っていった。
 とくに、ここ数ヶ月は主にパソコン利用へと急激に変わった。その経緯とぼくのワープロ・パソコン活用の現場を紹介しておこう。まだまだパソコン利用者としては超初心者だが、知的生産のための利用という点で参考になる部分があると思っている。
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1.ワ─プロ派へ。

転機は,教科書の編集委員(執筆者)になってからだった。
教科書の原稿は書いていくと,さまざまな意見がついて書き直しになるのだ。何回もの書き直し。その度に原稿用紙に初めから書きおこすのだ。部分的には,前の原稿のかなりが使えるのに。
ついにワ─プロ専用機を使うようになった。これで,書き直しは,だいぶ楽になった。 そのときに,パソコンという選択もあった。しかし,パソコンにしても,ぼくはワ─プロソフトを使うだけと予測した。デ─タベ─スソフトを必要とする大量のデ─タをもっていなかったしMS−DOSの呪文のようなコマンドを覚える気もなかった。それなら,「文書を書く」ことに機能をしぼったワープロ専用機で十分ではないか。
2.通信を始める

情報交換,情報入手のために通信をはじめた。ワ─プロ専用機でも通信はできる。
ニフティサ─ブの「化学の広場」フォ─ラムの「教育」会議室の副議長になった。1日に何回かつなぐようになった。かなりアクティブな通信者だ。
ログがたまる。それはFDに残していく。面倒だ。ハ─ドディスクにすいすい保存できるパソコンに触手が動く。
幸いなことにハードディスク付きのワ─プロが売り出された。パーソナルワープロでは,初めてとある。早速入手。
だいぶ快適になった。
そのワ─プロのニフティ専用の通信ソフトは,DOSで動く。ログは,DOSテキスト保存だ。ログをワ─プロで活用しようとするとDOS文書をワ─プロ文書に変換しなければならない。面倒だ。それにハードディスクは,120MBの容量。ときどきたまったログを整理した。これも面倒だ。
3.パソコン購入へ。

そんなとき,ウィンドウズ95というOSの登場が話題になりつつあった。使いやすいというMACにかなり近づいたという。
パソコンを買うなら「何に使うのか」を明確にしなければならない。ワ─プロ専用機ですむなら,パソコンはいらない。
「なぜパソコンか」についての,ぼくの答えは,
パソコン通信のログなど大量の文書データの蓄積
・高速・快適エディタの存在
・いくつもの文書を開きながら参照したり,引用したりが可能。
OCRで本・雑誌の文書データを電子化可能。
・蓄積した情報の簡単な検索機能の存在
といったことだからである。
パソコンを使ったからといって,文書がすいすいと書けるようになるわけではない。書きたい内容をもっていなければならないのは当然のことである。ワープロ専用機やパソコンのよいところは,いったん書いた文章をもとに簡単に書き直しができることだ。また,パソコンに蓄積しておいた他の情報を簡単に活用できることだ。
世の多くの初めてパソコン購入者と同じく,ウィンドウズ95の話題にひっかかった部類かもしれない。
もう一つ,通信のことがある。通信の世界では,モデムが28800bpsが当たり前になった。ぼくが通信をはじめたとき,1200bpsだから通信速度は20倍以上になった。通信のソフトもパソコンには優秀なものがある。
ついにコンピュ─タを買うことにした。
4.パソコン派へ。

知人の助けで,プリンタ,スキャナ,増設外付けハードディスクをつないだ。
ワープロ専用機では,「親指シフト入力」という合理的なキー配置だが,パソコンの世界ではマイナーな入力に慣れていた。その入力方式に替えるソフトがあるのだが,このさいローマ字入力にしようと思った。
超初心者の常,さまざまな失敗があった。わからなくなると同僚に聞き,生徒に聞いた。
そして,数カ月がたった。教官室に2つの机をもっているが,1つはワープロ専用機,もう一つにパソコンをおいている。当初はワープロ専用機に向かうことが多かったが,今ではほとんどパソコンの前にすわっている。ワープロ専用機に向かうのは,その文書をDOS文書に替えてパソコンで使えるように変換するためだ。
操作に慣れてしまえば,ワープロ専用機もパソコンも似たようなものだ。
そして,ぼくがパソコンに興味をもった4つのこと(高速エディタの利用,OCRの利用,ハードディスクへの大量のデータ保存、簡単検索)は達成しつつある。
使ってみてパソコンのいいところは,安心して大量の文書データを保存できることだ。パソコン通信の大量ログ(そこには,自分自身の大量の書き込みもある)も,画像と比べれば大したデータ量ではない。
検索機能も強力で,ある言葉をふくんだテキストファイルを全て探してくれる。
全ての文書を1台のパソコンに集約しておけば,いざというときに引き出して活用できるのだ。
OCRも便利だ。スキャナーで読み込んだ活字を認識してテキストファイルにしてくれる。ワープロ専用機を使っていないときに書いた本や雑誌の原稿は,本や雑誌からテキストファイルにして加工できる。
もちろん,パソコンは,ニフティを通してニフティやインターネット利用の人たちとメール交換にも活躍してくれている。
5.ワープロ・パソコンの活用

この文章にしても小型の携帯用ワープロで,すき間時間を見つけては書いた。小見出しをつけては書けることを一気に書いておく。後でパソコンに移し,補足したりして仕上げたのである。
もう一つの例をあげよう。
(略)
6.パソコン通信の利用例─その1

96年5月に,『中学授業のネタ 理科第一分野/化学』日本書籍 を上梓した。
この本は,ぼくがワ─プロ専用機でパソコン通信を活用して書いた最初で最後の本だ。以後,パソコン中心に切り換えたからだ。
ワ─プロ専用機で書いたのは,次の理由からである。
・それまでのパソコン通信のログが全部入っている。
・パソコンの操作にまだ慣れていなかった。
基本的には,パソコンで書いたと同様である。パソコンの操作に慣れていたら,パソコンでやったであろうが,本の企画を立てたのは発行の約2年前である。
中学理科第一分野/化学の1時間の授業展開を,「ネタ研方式」で書いていくというのがコンセプトの本だ。まず,数十のネタのテーマ案をつくった。それをプリントして,机の脇に張っておく。
企画から執筆開始までの間,「この情報は役にたつかもしれない」というものは,当時使いはじめたワ─プロ専用機のハードディスクに「中学ネタ」という文書ファイルとしてためておいた。今までに別の本・雑誌などに書いた原稿,パソコン通信に書き込んだ文章,パソコン通信の他の人の書き込みで参考になりそうなもの・・・である。
本の前書きは,「拙いながらも日頃考えている理科教材論にしよう」と,急いでざっと書き上げ,パソコン通信の〔理科の部屋〕に書き込んだ。元宮城教育大の中村敏弘さんから非常に綿密に読まれてのコメントをいただいた。そのやりとりをもとにして,前書き「理科の教材って何だろう」が出来上がった。初めより洗練されたとしたら,それは中村さんに負うところが大である。と言っても,まだまだ不満な教材論である。しかし,一度活字で公表しておけば,次は,それを足掛かりによりよいものにしていくことができると思っている。
本文のネタであるが,「1時間の授業展開を追試可能なようにできるだけ詳しく具体的に書こう」と思った。これは苦しかった。実験の方法は,文書ファイルにすでに収集してあるものが多いが,実際に授業で話をする,その話のシナリオを書くというレベルで詳しい授業展開を書こうというのである。実際の授業を頭のなかでシミュレーションしては,書いていくのである。途中で何度も「もっと簡略化して書こうかな」と思ったことだろう。ネタのおもしろさに中心をおき,授業展開は参考程度におさえるなら書くのはより簡単だったろう。「授業全体がネタ。これが,ぼくの書くネタの本だ。実験ネタの紹介を中心にするなら『たのしくわかる化学実験事典』(東京書籍)と,授業の流れを中心にするなら『新中学理科の授業』(学年別 全3巻 民衆社)といった自分がこれまでにつくった本と差別化が難しい」と考えたのである。
授業展開には,他の人の情報はほとんど使わなかった。例えば,〔理科の部屋〕には,楠田純一さんが授業記録をかなりの数書き込んでくれている。大いに参考にはなる。しかし,授業展開は,ぼくと楠田さんでは「味つけ」が違っているというか,何かが違うという感じがした。授業には,それぞれの授業者の個性がかなり反映しているのだろう。本のネタには,ぼくのクセが出ていると思う。それでも,全面的に記述してあるほうが読者が自分のものに消化しやすいと思うのだ。
ネタを1つ書いては,机の脇に張ってあるプリントから,そのテーマに─を引き,消していく。1日に1つ,2つ書けるときもあれば,授業展開に詰まって何日間か考え込み,進まないときもある。そんなときは,途中で止め,他のテーマに向かう。頭の中には問題意識として残しておくというか残っていて,時折思い出してはシミュレーションをおこなう。何日か寝かしてから,またそのテーマに向かうと何とか難所が打開できるものだ。こんな風にして執筆が進んでいく。
いつものことではあるが,授業展開を他人に伝達可能なように書くというのは大変なことだ。自分がいかにテキトーに授業をやっているかを思い知らされる。自分の授業ではうまくいっていなくても,「理想的な生徒とのやりとり」を書けばいい,という考えも成り立つ。しかし,ぼくにはできない。ぼくの授業経験をもとにしてしか書けないのだ。
他の人の情報は,補足情報としてコラムなどに書き込んだ。ぼくがこれまでにやってきた授業をもとにしたネタの部分とこれからの授業に参考にしようとしてためてきた情報は非常によくマッチしていると思っている。
本が発行されると,楠田さんから〔理科の部屋〕推薦本にしていただいた。 次は,その推薦の言葉である。(略)
7.パソコン通信の活用─その2

この文章を書いているとき,進行しているのが『身近なモノの100不思議』『水と空気の100不思議』(東京書籍)という2冊の本だ。
それぞれ1テーマ2ペ─ジ展開で,100テーマを書くというものである。 「この企画は,パソコン通信で初めから終わりまでやってみよう」と思ったものだ。ぼくにとってのパソコン通信活用の実験的試みである。
・ぼくがつくったテーマ例に意見をもらう。
・テーマを確定したら,パソコン通信で執筆希望者を募る。希望としては約4 0人。
・テーマ分担を確定したら,関連する情報交換を2つの会議室(FCHEM5番・FKYOUIKUS5番)でおこなう。
というやりかたで,2冊の本をつくれないか。
以下,パソコン通信に書き込んだ呼びかけの一部を紹介する。
(略)
8.パソコン通信活用の例─その3

夏期休暇が迫ってきたある日,電話がかかってきた。科教協大会の化学分科会にレポートを出してほしい,とお願いされたのだ。
そのころ,学校の仕事はもちろん,子ども向けの本の執筆に追われていて,レポートを出そうという気持ちがおこらない。第一,何をテーマにレポートをつくったらいいのか。 ぼくは,「今までダイヤモンドの燃焼に取り組んでいたが,まだ成功していない。大会前にまたやってみてレポートしましょう」と答えた。
結局,大会前に試みることはできなかったが,「中間報告」として,パソコン通信のログをまとめたレポートをつくることができた。ダイヤモンドの燃焼についてパソコン通信で情報交換していたからだ。
パソコンでGREPで「ダイヤモンド」「ダイアモンド」の文字列検索をして,それがふくまれているテキストを見つける。次にタグジャンプをすると,そのテキストが出てくる。一方で,エディタを新規に開いておき,そこに必要な文章をテキストから張りつけていく。今度は,そのエディタの内容を編集していった。小見出しをつけたり,文章を整理したり。以上の作業は1時間余りで終わった。後は,B5で4ページに収まるように1行の文字数と行数,文字の大きさを指定してプリントして終わり。
こうして,つくったレポートを,次に紹介しておこう。(もちろん、ここに取り上げた会議室の発言の転載許可は一人一人からいただいた。みなさん、こころよく許可してくれた。)
(略)
9.時間の活用

ここ数カ月の間(96.4月〜8月)にぼくがワープロ専用機からパソコンに移行してやってきたことの一端を紹介した。
他に,その間に,
・中学理科教科書の指導書の一部を執筆
・高校化学IB教科書の指導書の一部を執筆
・子ども向けの実験の本3冊のうち1冊を執筆
・『子供の科学』誌の原稿を執筆
・「カルメ焼きのプロを訪ねて」というルポを執筆(『理科教室』96.10月号掲載) などに取り組んだ。
我ながら「いつ執筆をしているのか」と思う。ということで,自分の1日を振り返ってみよう。
朝7時40分ごろ自分の部屋(化学教官室)へ。パソコンのスイッチを入れる。パソコン通信につなぐ。1分少々で,会議室を巡回してログをとってくる。それを読んでいく。 空き時間に,メールに返事を書いたり,会議室の発言にコメントを書いたりする。
そのために1日1〜2時間は使っているだろう。授業でやったこと,ちょっとした疑問など,パソコン通信に書き込んでいるから,ぼくにとってパソコン通信は日記であり,メモ帳であり,友人・知人とのおしゃべりの場である。(後で,その書き込みが役にたつことがある。)
時には,小型ワープロを電車の中で打つことがあるが,基本的に学校で執筆する。パソコンがまだ自宅にないし,家には仕事を持ち込みたくない(家では読書をする)。資料もほとんど学校においてあるからである。結局,すき間の時間にちょこちょこと書いていくことと集中して書く時間をとることを,うまく使い分けているつもりである。しかし,そうは言っても,ぎりぎりまで取りかからないことが多いのはいつものことだ。だから,原稿執筆で,締切りが迫ってくると休みの日にも学校に行くこともある。
一番,気をつけているのは,学校の仕事をだらだらとやらないことだ。
学校の仕事はどこかで妥協して打ち切らない限り時間的に無限とも言える。例えば1時間かけると99%仕上がる仕事があったとする。これを2時間かけると99.5%に,3時間かけると99.8%に,5時間かけると99.9%になったとする。多くの教師は,そのまじめさゆえに3時間,5時間かけてしまうようだ。しかし,時間をかけるほど「時間と仕事の密度」から見た能率は下がっていくものだ。
ぼくは,99%主義で仕事をしている。それも,我ながら大変な集中力で。それでも文書だったら,誤字・脱字が1か所あるかないかである。時にちょっとした間違いがあり,笑ってごまかしている。
「時間がない」のではなくて「時間はつくる気があればつくれる」と思っている。
10.モバイルコンピューティング
(略)

●『新理科の授業 情報入手・知的生産術』民衆社(97.7.1)の執筆者たちにぼくのモデル原稿として送ったもの。