左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

現状から一歩を踏み出す教材研究

 12年前に教員向けに書いた文章です。東京書籍の「教室の窓」に掲載だったと思います。


 「たのしくわかる理科の授業をしよう!そのために教材研究をしよう!センセイに習ってよかった!と言われるようになろう」なんて初心をもっていなかっただろうか。
 生活指導に、部活指導に追われ、何やかやの書類づくりに追われ、以前の授業と同じようなプリントを配り、同じような授業をしているということはないだろうか。
 年々トシをとる。経験はふえる。しかし、授業に立ち向かう精神はどうだろう?
 ぼくは、ときとして失ったものの大きさにふるえてしまう。教員になって数年間、「授業で勝負!」と、中学生相手に悪戦苦闘を続けていた自分と、今の手慣れた感じで授業に向かう自分との落差にだ。
 トシをとり生徒からの心理的距離は離れ、授業へ立ち向かう精神が弱くなっているという現状に甘んじてばかりじゃダメだ。同じことを繰り返していたら必ずそこに退廃があり後退している部分があるのだ。
 そこで自分に課していることがある。
 過去の手慣れた指導にいつも新しい風を吹き込もうと思うのだ。
 たとえば、ある単元があったとする。そこに今まで授業で取り上げたことがない内容や実験を組み入れてみる。指導の順序を少し変えてみる。たったそれだけのことで、どう展開するか自分でも予測しがたい授業になり、授業に緊張感が出るものだ。
 そのために情報収集をする。そのために教材研究をする。そのために教材開発に向かう。
 ぼくの場合は、昨年授業でダイヤモンドを燃焼する様を見せ二酸化炭素生成確認をする教材を開発することができた。
 ぼくは我ながら超多忙人間だと思うが、多忙であろうと合間を縫って時間はとれるものだ。教員の仕事でもっとも大切なのは授業だという確信があるからということもあろう。仕事に軽重をつけてきぱきとこなすという技は身につける必要はある。そのポイントは
「100%主義ではなく99%主義」というあたりであろうか。ときにはミスをして笑ってごまかしている。
 そして、今はいい時代になった。理科授業や理科実験の本もたくさんある。さらにインターネットやパソコン通信で情報のやりとりが簡単にできるようになっている。現状から一歩を踏み出すには、ちょっとした決意さえあればいい。
 何歳からでもいつからでも現状を変えたいと思ったときが変え時だ。理科の授業にはそれに応える奥深さがある。
1999年3月記(当時 東京大学教育学部附属中・高等学校教諭)


 本当は99%主義ではなく80%主義くらい(笑)。