左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

18年前に書いた「原子力発電所の安全確保と事故」

 とっくに絶版の『新・環境教育のとびら(下)』1993年4月初版に書いたものを紹介しておこう。
 当時から(もっと前から中学生向けの本にも原発の問題を書いていたが)、ぼくは多重防護も信じていなかった。
 この本は5人の共著だが、教師向けだが、結局授業の役に立つ話なので中学生向けでもある。

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 原子力発電で最も問題になるものの1つは,原子炉の安全性の問題だ。
 原発は,原子核が分裂するときに出す熱エネルギーを利用して水を沸騰させ,その高温高圧の蒸気でタービンを回し発電する。火力発電は石油や石炭の燃焼熱で水を沸騰させるが,原発原子核分裂で放出するばく大な熱エネルギーを使うというわけだ。


 しかし,万一事故がおこると,チェルノブイリ事故に見られるように大変なことになる。


 そこで,原発の安全確保の基本として「多重防護」策がとられている。「多重防護」とは,放射性物質を何重にも防護するということだ。燃料を丈夫にし,高性能,高品質の材料で十分な余裕を持って設計した原子炉圧力容器を作り,それを原子炉格納容器に収めてある。さらに異常の監視,定期的な点検・監視を行い,運転で誤った操作をしても動かないシステムや装置が故障したときに安全方向に働くシステムを各所に取り入れている。万一の事故,たとえば原子炉につながる太い配管が一瞬のうちに破断し,冷却水が流失し,原子炉が空だきになるという事故を想定して,何台もの非常用炉心冷却装置(ECCS)が設けられている。この装置は,事故がおきると自動的に原子炉に大量の水を注入し,燃料を冷却する。


 チェルノブイリ原発事故についても,わが国の原発の大半は沸騰水型原発BWR)と加圧水型原発(PWR)〔まとめて「軽水型原発」と呼ばれる〕で,「黒鉛減速・軽水冷却・圧力管チャンネル型原子炉」のチェルノブイリ原発とは仕組みが違い,「多重の安全装置がついているから原発は安全だ」というのが電力会社などの宣伝である。


 しかし,過去におこった原発の大事故の多くは予想もしなかった原因でおこることを忘れてはならない。下の表は,安斎育郎『茶の間で語り合う原発放射能』(かもがわ出版)に紹介されているものである。


原発     国   年   原因

SL−1     アメリカ 1961 兵士が原子炉の制御棒を抜いて失恋による自殺を図った。

ブランズフェリー アメリカ 1975 貫通孔の密閉性を調べるために持ち込んだローソクの火がケーブルに延焼した。

スリーマイル島 アメリカ 1979 補助給水ポンプの出口弁が手動で3台とも閉めてあった。

チェルノブイリ ソ連 1986  6項目にわたって規則違反をおかした。

 わが国でも,ついに非常用炉心冷却装置(ECCS)が作動した事態がおこった。1991年,関西電力美浜2号炉で,蒸気発生器の細管がギロチン破断して大量の1次冷却水が2次系に漏出し,炉心部の圧力が低下してのことである。炉心が露出すると放射能の発熱で核燃料が融け,内部の大量の放射能が漏れ出して大惨事になりかねなかった。原子力関係者の大半は,蒸気発生器の細管の完全破断はまさかおこらないと考えていた。しかも2次系への水漏れを最小限にくいとめるための「加圧器逃し弁」は2つとも作動しなかったのだ。わが国でも大事故がおこる可能性があるのだ。
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