左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

 左巻健男です。知人から感想&疑問をいただいたので本人の了解のもと、ここに転載します。

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 鵜木昌博と申します。元都立高校教諭です。左巻さんとは多少のご縁があって、「理科の探検」を拝読しております。2015年秋号の記事について、思ったことをいくつか書きました。たいしたことではありません。元教師の思い出話に近いものかもしれません。笑ってお読みください。


1:冒頭「昆虫の複眼に見られる『黒目』」について


 「光センサが黒く見えているというのは、興味深い「黒目」の共通点であるともいえるだろう。」
とありますが、これはごく当然のこと。
 「目」は光を吸収してその光が運んできた情報を得る器官です。
 入射した光が吸収されて帰ってこなければ「黒」く見えるわけです。
 高校教師現役時代に「完全なる透明人間の『視覚』について論じなさい」というような問題を出したことがあります。
 透明人間が可視光から情報を得ているとしたら、可視光を吸収しますから、体が完全透明でも眼だけは黒く見えてしまうはずです。完全透明人間が完全に透明ならば、可視光以外の電磁波で情報を得ていることになりますね。
 カクレエビのような透明なエビでも目は黒。
 メダカの稚魚の目も、目の中を暗室にするために外側は光を跳ね返す「白・銀」、瞳孔は光がかえって来ませんから黒。
 ヒトも又。
 昆虫の偽瞳孔の生成も観察者の方を向いている個眼は光を吸収しているので黒です。
 カマキリの幼虫などで、複眼全体がまっ黒、というのが逆に不思議なことです。
 カッターナイフの替刃10枚くらい、ぴったり並んだ刃の側を見てください、漆黒です。
入射した光が返ってこないからです。
 この話題が好きで、ブログなどでも何回も撮り上げてきました。
 よろしければお読みください↓
http://homepage3.nifty.com/kuebiko/science/6th/sci_6.htm
http://yamada-kuebiko.cocolog-nifty.com/blog/2009/11/post-ce3e.html
http://yamada-kuebiko.cocolog-nifty.com/blog/2009/11/post-2d41.html
http://yamada-kuebiko.cocolog-nifty.com/blog/2009/11/post-244b.html
http://yamada-kuebiko.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_73e9.html
http://yamada-kuebiko.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_9d25.html
http://yamada-kuebiko.cocolog-nifty.com/blog/2009/02/post-379b.html


2:53ページの「希ガスは貴重なため『貴ガス』とも呼ばれます」について。


 「rare gas」の訳としては「稀ガス」でしょうが「稀」が使えないので「希ガス」です。稀少ガスですね。
 他方「noble gas」という語もありまして、これを訳すと「貴ガス」になります。
 化学で「貴 noble」とい言葉には独特の意味がありまして、「化学的に不活性である。反応しにくい」という意味です。
 貴金属も、貴重で高価だ、というのもあるでしょうが、化学的に不活性な金属という意味もあるのです。
 卑金属は、水や空気でどんどん反応しますから、貴に対して卑なのです。(base metal)ということで、希ガスが貴重な資源であることは確かですが、貴重だから貴ガス、というのにはちょっと抵抗感があります。


3:54ページに亜鉛と塩酸の反応のことが書かれています。


 ここで、「少量の銅や硫酸銅を塩酸に加えると水素の発生が促進されます」とあって、筆者は銅線を入れている、とのことです。
 理科の本ですから、おまじないはマズイ。
 銅イオンを加えると、イオン化傾向の違いで、銅が亜鉛上に金属として析出します。
 「銅と亜鉛が接触していて酸の中にある」という状況は「ボルタ電池」そのものですね。
局部電池が生成して、亜鉛表面は溶け出すだけ、水素の発生はどうの部分から、という分担が成立します。このため水素の発生が安定化するのです。
 昔から、キップの装置などで比較的大量の水素を安定的に供給するために塩化銅などを加えるということが行われてきました。また、純度の高い亜鉛より、不純物を含んだ亜鉛の方がむしろ水素の発生が安定するということも知られていました。
 「水素の発生を促進する」というよりも、「水素の発生を安定化させる」というほうが適切かもしれません。
 実験の途中で水素の発生速度が落ちると、炎が発生器に逆流して爆発する事故も起こりやすい。ですから、水素の発生を安定化させることが大事です。
 銅の針金を入れる、ということも、当然、亜鉛との接触によるボルタ電池の形成になっていることは言うまでもありません。


4:足利さんの「これって燃料電池?」について。


 物理を教えていた頃、電解コンデンサーを作りました。
 化学の方で使う炭素板電極を近距離で向かい合わせて、6N程度の硫酸に浸し、気体の泡が発生しないように注意しながら電圧をかけます。この時、模型飛行機のプロペラを回路に入れておくと電解コンデンサーの充電電流で回転します。
 で、電源を切り離し、負荷としてのプロペラに放電させると回転します。
 炭素板を使っていますので、極板面積は広い、極板間距離も小さい、これが電解コンデンサーの条件ですね。
 で、足利さんが批判しておられる、燃料電池のまがい物、ですが。
 シャープペンシルの芯を1cm程度の間隔でカリミョウバン液に立て、電気分解を行った後に、メロディーICを接続すると、確かに鳴ります。これって、電解コンデンサーですか?極板面積が極端に小さいけど。極板距離もかなり遠いけど。
 グラファイト表面の触媒作用のようなものはないのですか?
 全面的に電解コンデンサーだ、と言い切ってしまうことには、若干の懸念を感じています。