左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

“酸素”は酸の素?〜誤解によって名づけられた酸素〜

 酸の定義が初めてくだされたのは、今から約350年前のことです。


 ボイル(1660年)は、
 「酸とは、1.すっぱい味がする 2.多くの物質を溶かす 3.植物性の有色色素(リトマス)を赤色に変える 4.アルカリと反応する と、それまでもっていたすべての性質を失う物質である」
 と述べています。


 燃焼理論の確立者ラボアジェ(1743〜1794)により近代化学の門が開かれると、酸の本体をその構成元素に求めようとする傾向があらわれました。ラボアジェは、酸を特徴づける元素として“酸素”を考えました。当時、酸とは、酸性酸化物に中性の水が結合したものと信じられていました。酸は必ず酸素をふくみ、酸性の原因は、酸素と、元素の非金属性にあると考えられていたのです。


 食塩と硫酸を原料につくられる塩酸も、当然酸素をもつ化合物であることと信じられました。ところが、塩酸は酸素をもたず、塩化水素の水溶液であることがわかったとき、化学者の間にはとまどいがおこりました。


 食酢や塩酸はすっぱい味をもち、青色リトマスを赤色に変え、亜鉛や鉄などの全属を加えると、金属をとかし水素ガスを発生させます。このような性質を酸性といいます。化合物のうち、その水溶液が酸性を示すものが酸です。


 この酸のもつ共通な性質は何か、ということで有機化学の元祖リービッヒ(1803−1873)は、金属元素で置換される水素がある化合物として酸を定義しました。


 たとえば、亜鉛は硫酸と反応して、硫酸亜鉛と水素になります。このとき、硫酸の水素は亜鉛置換されています。酸の水素がこのように金属で置換されると、酸性もなくなったり弱くなったりします。したがって、酸性は、水素によることがあきらかになりました。