左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

かつての若き左巻健男の「卒業に寄せて」(東大附属時代)

かつて東京大学教育学部附属高等学校に勤務していたとき、担任として卒業生を送り出したときに書いた言葉です。


「絶対的幸福観を確立したいな。」
 ぼくは、流されて流れてここにいる。教師なんて大した職業じゃないと思いながらも、教師にしかなれなかった。人間が未熟で品がなく賢くもなく人間関係が下手だから教師生活もそこそこのものでしかないように思える。
 そのぼくが君たちに言えるのは、誰かと比べて、あるいは社会的地位で、喜んだり、悲しんだり、怒ったりするような幸福観から自由になり、内なる基準の絶対的幸福観をもてるといいよ、と言うことだけである。


「歳をとることは、何かを失っていくこと?」
 ぼくは、工事現場ではたらきながら浪人生活を送り、やっとの思いで大学に入学した。
時は1970年代初頭。大学は、学問をやる場所としては「幻想」だっだが、しかし、人間形成の場としては大変面白い所だった。劣等感のかたまりで人と話がほとんどできなかったぼくが、少しだけ自信を持って話をすることができるようになった。単なる恰好付けなのだが、「哲学」と「現代詩集」を小脇にかかえ、自分でもわからない言葉を弄んでいた。化学の学力はほとんどつかなかったが、批判精神だけは持てるようになった。
 そして、今、ぼくは化学の教師になり、本も何冊か書き、経済的に少し豊かになった。
しかし、簡単に妥協するようになった気がする。それは「大人」になったことなのかもしれないが、青春の日々「理想」を掲げていた自分を思い出すと、ときには胸が痛む。「青春時代の思想を持ちつづけるのは馬鹿」と言われるが、その馬鹿になりたかったのに。