左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

農業資材としてのEM(EM菌)への農学者の批判

 しんぶん赤旗紙で水曜エッセイ「ニセ科学の正体」の4回目でEM(EM菌)を取り上げた。
 さらにその中でEMの反響が大きかったので、番外フォロー編も書いた。


 左巻健男ニセ科学の正体連載(4回)+番外フォロー編
 http://d.hatena.ne.jp/samakita/20141018


───────────────────────────
EMとはなにか


 私が編集長をしている『理科の探検(RikaTan)』誌2014春号は、「ニセ科学を斬る!」を特集しました。そこに、「EM団子の水環境への投げ込みは環境を悪化させる」(松永勝彦)と「EMのニセ科学問題」(呼吸発電)という二つを取り上げています。本号は発行元のSAMA企画に在庫があります。


 EMは有用微生物群の英語名の頭文字です。本当に有用かどうかははっきりしません。そう名づけただけだからです。中身は乳酸菌、酵母光合成細菌などの微生物が一緒になっている共生体ということです。何がどのくらいあるかという組成がはっきりしていません。


 最初に商品化されたのは土を改良する農業資材としてでした。その有効性をめぐって何かと論議をよびました。その後、生ごみ処理、水質改善、車の燃費節減、コンクリートの強化、あらゆる病気の治癒などに効果があるというようになり、さまざまな商品があります。そこにはニセ科学的な面が多々あります。


 開発者によると、EMは「常識的な概念では説明が困難であり、理解することは不可能な、エントロピーの法則に従わない波動の重力波」が「低レベルのエネルギーを集約」し「エネルギーの物質化を促進」する、「魔法やオカルトの法則に類似する、物質に対する反物質的な存在」であり、「1200度に加熱しても死滅しない」で、「抗酸化作用・非イオン化作用・三次元(3D)の波動の作用」をもつとしています。「EMは神様」だから「なんでも、いいことはEMのおかげにし、悪いことが起こった場合は、EMの極め方が足りなかったという視点を持つようにして、各自のEM力を常に強化すること」を勧めます。EMはあらゆる病気を治し、放射能を除去するなど、神様のように万能だというのです。


 EMを河川や湖、海に投入するような活動が、環境負荷を高めてしまう可能性が強いのに行われています。その延長線上では、健康のためにと「EM・X GOLD」という高額(500ミリリットル4500円)の清涼飲料水を飲む「EM力を強化する生活」が待っています。


 このようなニセ科学にひっかからないためには、「たった一つのもので、あらゆる病気が治ったり、健康になったりする万能なものはない」「お金がかかり過ぎるのはおかしい」「ネットや本などでまともな情報を調べてみる。結構、情報がある」ことに留意しましょう。だまされないための基本は「知は力」ということです。ニセ科学に引っかからないセンスと知力―科学リテラシー(科学の常識)が求められます。


【番外フォロー編】


 水曜エッセー〈ニセ科学の正体〉の連載でもっとも反響があったのは、最終回に扱った「EM菌」についてでした。「EM菌」は、(株)EM研究機構の商品群「EM」の通称です。特定企業の商品だということに留意してください。


 EMは自然界に普通に存在する雑多な菌の集まりですが、少なくても乳酸菌の仲間がふくまれていることは確認されています。ということで乳酸菌の働きはあるわけです。でも、私は生ごみ処理には土着の微生物を活かすことをお薦めします。


 本紙の読者やそのまわりにもEMで生ごみを処理したり、畑の土をよくしようとしている人、川や海の水質をよくしようとEM団子やEM活性液を投げ込む活動をしている人もいることでしょう。また、これらの活動に助成金を出している自治体が全国にあります。学校でもEMを用いた環境教育が、TOSSという教育団体(代表は日本教育再生機構代表委員でもある向山洋一氏)によって広められました。


 だからこその反響だったのでしょう。(略)
───────────────────────────

 日本土壌肥料学会でのシンポジウムにおける東京農業大学教授の後藤逸男氏の発表の内容がわかるものがある。

微生物資材の土壌肥料学的評価(農業における微生物利用と土壌微生物研究,シンポジウム)
後藤 逸男
https://ci.nii.ac.jp/naid/110009467967

 そのポイントは次だろう。

・世間で注目を集めたEM資材について土壌肥料学的な評価を行った
・比嘉照夫氏がEMの主成分だという光合成細菌が、後藤氏の分析では検出されなかった
・EMボカシは油かす・魚かす・米ぬかを主体とする有機質肥料に過ぎず、有機質肥料として働いているだけ(有機質肥料としての効果はある)
・化学肥料をやり過ぎていた農家がそれを止めるとちょうどよくなる結果になる“お余り農法”(残効利用型自然農法)


 斎藤貴男カルト資本主義文藝春秋 には、後藤逸男氏の語った内容が紹介されている。


 “比嘉先生の本も読みましたが、土壌学の基本もご存じなく、とても認められない、自然科学の対象にはなり得ないと思い、やるせなくなりました。

 相手にもしたくなかったけれど、農家の方々が関心を示している以上、こういうものにきちんと反論するのも農大の仕事だと考え、取り組んだんです。

 EMはイカサマ。これが結論です。EMボカシで収量が増えたという農家はありますが、それはボカシにする米糠などの有機質肥料や、畑に残っていた前年までの化学肥料が効いたか、他の家の肥料が地下水で回ってきたまでのこと。化学肥料をやり過ぎていた農家が突然止めると、ちょうどよくなるんです。その証拠に、年を経るにしたがって収量が減っていったというケースばかり。こういう“自然農法”を、私は“お余り農法”と呼んでます。農薬や化学肥料まみれの近代農法が嫌だという気持ちはわかりますけど、日本の土壌は残念ながら、自然農法ができるほど肥沃じゃないんです。”


 『カルト資本主義』には、さらに茅野充男東京大学教授(土壌肥料学会の前会長)の語った内容も紹介されている。


 “EMは科学のスキャンダルです。新しい発見は、まず他の研究者が追試できるよう実験方法を明示した論文を学術雑誌に発表し、その上で世間に問うのが科学者の基本ルールでしょう。あの常温核融合の騒動の時でさえ、権威ある学術雑誌での論争があった。しかし、比嘉先生は、まともな論文など1つも書いていない。”