第1章 ニセ科学をなぜ信じてしまうのか
日本は世界でも有数の長寿国です。そのせいでしょうか。異常とも言える健康への執着が感じられることがあります。そして、ニセ科学にとって都合のいいことに、日本にはお金を持っている人も多くいます。そういう人たちをだますにはどうすればいいでしょうか。「科学」に裏打ちされている雰囲気がアピールできればよいのです。科学は、論理性や実証性があるものだと多くの人々が信頼しているからです。科学知識や科学センスに弱くても(弱いからこそ)、科学っぽい雰囲気にはだまされやすい人は多く存在します。「宇宙エネルギー」や「ピラミッドパワー」といった、何やら怪しげな感じがするものにすら、科学的な雰囲気を感じてしまう人がいるくらいです。
本章ではまず、スティーブ・ジョブズと絵門ゆう子さんが命を落とすことになった民間療法を紹介します。そして、実は私たちはみな、ニセ科学を信じてしまう心理システムをもともと持っていることを見ていきます。
1.スティーブ・ジョブズの場合すい臓がんの発見
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手術を拒否したジョブズがはまったカルト療法
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手術後の経緯
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2.絵門ゆう子さんの場合いろいろな療法をさまよう
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どんな療法にすがったのか
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ここまで見てきていかがだったでしょうか。
ジョブズや絵門さんがさまよった民間療法を見て、「いかにもニセ科学然としたものにはまりすぎた」と、その無理解ぶりにあきれ、批判したくなるかもしれません。
がんに恐怖を抱き、「手術で体を切られたくない」という気持ちをもつ患者は少なくないでしょう。さらに、医学も絶対のものではありません。未解明の部分はまだ多くあり、がん治療の方法にも絶対がないのです。ジョブズや絵門さんの場合、標準治療であれば手術することになったでしょう。でも、「民間療法で治る。治った人がいる」「手術や抗がん剤は苦しむだけだ」という情報を信じたくなってしまうのも人間ではないでしょうか。標準治療に不信感もあったところに「これでがんが治る」と断定されてすがってしまう心は理解できる気がします。
しかし、それにつけ込んで金儲けをたくらむ民間療法や健康食品販売会社が多くあることも忘れてはなりません。
絵門さんの本を読み終えて少しホッとするのは、そうした民間療法遍歴を重ねてきた患者に対してでも、聖路加国際病院のチームが信頼関係をつくり、前向きにがんと共存する気持ちを持たせる治療を行ったことでした。
3.「人はだまされるようにできている」ことを知る
私たちは素朴概念を持っている
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人間の脳は3万年前と同じ「信じたがる脳」
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認知バイアス
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確証バイアス
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4.あふれる健康情報と体験談信頼性のない体験談
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有効性の根拠としての信頼度
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5.ニセ科学は誰を狙うか
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6.ニセ科学にだまされる背景
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