左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

隠岐  大地と生態、人とのつながりを求める旅

※昨年の夏も旅した隠岐。「RikaTan【理科の探検】2014年 夏号 夏だ!リアル理科探検に行こう 自然を 観る 知る 遊ぶ 旅」特集用に書いた文章を紹介しておきます。

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                    隠 岐

 大地と生態、人とのつながりを求める旅

 左巻 健男
 SAMAKI Takeo

◎今でも隠岐諸島を全部回るのは大変

写真1:西ノ島の魔天涯 その天辺から、海から、国賀海岸からハイキングでも楽しんだ

 隠岐についてあまり知らない人、調べたことがない人には日本海に浮かぶ絶海の孤島というイメージがあるかもしれません。しかし、隠岐は孤島ではなく、人が住んでいる島で島前(どうぜん)の3つの島と島後(どうご)と呼ばれる計4つに分かれ、それらをふくめ、なんと大小180 の島からなっています。
 そのうちの島後(隠岐の島町)はとくに大きく、同じ日本海にある佐渡の半分より少し小さい程度です。ふつう隠岐に行くといえば、本州に近いということで島前と呼ばれる3つの島ではなく島後(とくに西郷港)に行くことを意味します。島後には大阪伊丹と出雲との間に路線のある隠岐空港があり、また船便もフェリーや超高速船があります。今年3 月1日からは超高速船「レインボージェット」が就航し、西郷港-松江の七類港間を約70 分で結んでいます。

 この半世紀、隠岐はアクセスが便利になりました。
 半世紀前に隠岐を旅した岡田喜秋はその著『日本の秘境』のなかで、「近頃の日本の観光地は、3 日見ぬ間に変わっていく。」とその変貌ぶりを嘆きながら、「隠岐ノ島は名の通り、はるかな隠岐にあって今でも荒浪とたたかって生きているのが精一杯のように見えた。」と述べていました。1956 年には、バスはわずか1台しかありませんでした。鳥取県境港からわずか500 トンという小さな船で西郷港まで8 時間以上かかったのでした。

 今でも、島前、島後の4つの島を旅しようとすると、半世紀前の不便さほどではないのですが、かなり大変です。島根県教育委員会の小学校理科の講師で島後に伺ったとき、隠岐の全小学校からの参加者がいたのですが、島前から島後に集まるより松江市に集まる方がラクと言っていました。

隠岐の魅力はなんといっても雄大な景色
 隠岐世界ジオパークに認定されています。ジオ=地球ですが、目の前に広がる絶景の地質・地形だけではなく、不思議な生態系、地元独特の文化もふくめて、大地がどうやって生まれたか、人と自然はどうつながっているかを、まるで探検するように学べる場所だからです。

写真2:通天橋

 隠岐の絶景を見るポイントは、隠岐で約600万年前に始まった火山の活動です。
 島前諸島は変わった形をしています。真ん中に高い山があり、その山が海に囲まれ、その外側に島がならんでいます。1 つの円い島だったのですが、大規模な噴火が起こった結果、約500万年前にかけて中央部が大陥没して海が進入、島前カルデラができたのです。
 落ち込まないで残った部分が、島前カルデラの外輪山のように3つの島が残ったのです。さらに侵食も受けて現在の地形になっています。

 この火山活動のときの岩石は、島前・西ノ島の北西岸の国賀海岸の数10キロメートルに渡る雄大な断崖でよく見えます。西ノ島の摩天崖は巨大なナイフで垂直に切断したような高さ257メートルもの国内有数の崖や国賀浜にある天然の洞門の通天橋と同じ岩石でできています。

 知夫里島(ちぶりじま)の「知夫の赤壁(ちぶのせきへき)」と呼ばれる高さ200メートルの断崖にも同じ外輪山の岩石が露出しています。
 噴火して高温のしぶきになった火山砕屑物にふくまれていた鉄が酸化し、赤い色になったものです。ということはこのあたりに火口があったということです。

◎島前の3 つの島を各一泊で回ってみた
 島前の3つの島も旅したいと思っていたところ、島後にある島根県隠岐高等学校から「高校生に講演を」という依頼があり飛びつきました。それからです。飛行機の便、フェリーの便の時刻表を見ながら計画を立てました。島後の知夫里島知夫村)、西ノ島(西ノ島町)、中ノ島(海士町)を1 泊ずつして島内を回ろうと考えました。島前3 島間での移動は隠岐観光の内航船、島前-島後間の移動は隠岐汽船のフェリーや高速船が利用できます。
 各島内は、レンタル自転車、島内観光バス、定期観光船を活用して回りました。車が運転できればレンタカーもよいでしょう。

写真3:知夫赤壁

 ぼくは、最初に着いた知夫里島ではホテルで電動アシスト自転車を借りて島を回りました。放牧されている牛が道路上にもいて、なかなかよけてくれません。

 車だと動けなくなってしまいますが、自転車でも実感できました。知夫里島のリピーターとなっている観光客は、牛しかいない、何にもない、ぼけっとできるのがいいということですが、西海岸にある国指定名勝・天然記念物の知夫赤壁など見どころがあります。

写真4:明屋海岸

 次の西ノ島は、北岸約13 キロメートルにわたる国賀海岸が見どころです。定期観光バスで陸路から、また観光船で海から迫力ある摩天崖を楽しみました。

 さらに自転車でも国賀海岸に行き、通天橋の奇岩を見ながら魔天涯へ向かうハイキングをしました。
 中ノ島でもサイクリング。約100 メートルの断崖の続く明屋海岸で屏風岩などの絶景を楽しみました。

隠岐空港玄武岩の台地にある
 約500万年前以降、火山活動は収まりましたが、島前・島後の所々で、小規模な玄武岩質の火山の活動がありました。隠岐空港のある大地は、約55万年前の玄武岩の溶岩でできています。

 フェリー航路で島後の西郷港に入港する直前の岬に隠岐空港がある台地が見えます。そこに上部の直径は約300 メートルのお椀のような形の巨大なくぼみの崖が見えます。これは、火口の東半分が吹き飛んだ爆裂火口です。手前側は侵食でなくなってしまったと思われます。

隠岐でいちばん古い岩石「隠岐片麻岩」
 隠岐片麻岩の見た目はさまざまで、白黒の縞模様を持つ物や、白一色、薄緑、赤混じりのまだらなどがあるため、簡単に見分けることはできません。

 現地の岩石を見分ける目をもった人に教わると、かなりあちこちにあります。砂利や埋め立てにもよく使われているとのことです。

 元々は砂岩、泥岩や玄武岩など地表近くの岩石が、プレートの沈み込みによって地下深くにもたらされ、そこで熱と圧力を受けてできたものです。ふくまれている鉱物の分析から3億5000万年前~2億5000 万年前の間の地層が元になっていることがわかっています。その当時は、いくつかの小大陸が衝突して合体し、大きなユーラシア大陸ができあがりつつあるところでした。隠岐片麻岩は、ユーラシア大陸がどうやってできたかを知る鍵をふくむ岩石なのです。

◎ユニークな生態系
 隠岐には、暖かい気候を好む植物と氷期の生き残りの植物が同居するなど不思議な植生がみられます。たとえば、島後の久見海岸では、氷河期時代の生き残りの植物であるシロウマアサツキが海岸に自生し、南方系のシャリンバイ、トベラ、大陸性のダルマギクなどと共存しています。海辺に亜高山性のオオイワカガミがみられたりします。

 玉若酢命(たまわかすみこと)神社の境内には樹齢2000 年と推定される「八百杉(やおすぎ)」があります。隠岐にはこのような日本海型の杉の巨木が数多くあります。

 また、隠岐にしかいない生き物、つまり隠岐の固有種があります。オキタンポポ、オキノアザミ、オキシャクナゲ、オキノウサギ、オキサンショウウオなどです。

 オキサンショウウオは絶滅が危惧される希少種です。島後の壇鏡の滝が流れる渓流で見つけることができるかもしれません。

 こうした希少種だけでなく、北方系・南方系・高山性・大陸性のさまざまな植物が共存する生態系はとても興味深いです。

◎トレッキング好きは鷲が峰へ
 島後の鷲ヶ峰は、標高560 メートルの流紋岩質の岩山です。樹齢300 年を超える約800 本の天然林( 自然回帰の森) が存在します。屏風岩を展望できる場所があります。屏風岩は、柱状節理の断崖です。

写真5:トカゲ岩

 鷲ヶ峰近くの岩山の側面には、トカゲの形をした奇岩、トカゲ岩が見られます。全長約26メートルで、大きなトカゲが岩山をよじ登るように張りついています。

◎独自文化のはじまりは黒曜石
 隠岐には黒曜石が産します。隠岐の黒曜石は3万年も前から本州に運ばれていました。島後の久見海岸では、小さな黒曜石を拾うことができます。
 すぐ近くにある八幡黒曜石店の加工場を見学できます。店主の八幡浩二さんは、古代の黒曜石の加工技術に優れていて、黒曜石を加工したお土産を販売しています。

 隠岐の黒曜石は縄文時代には重要な交易品として、本州にも運ばれていたことがわかっています。

 隠岐には古墳・遺跡がたくさんあります。創建が平安時代以前にさかのぼる神社もあります。
 その昔、隠岐は「島流しの場所」になっていました。たとえば後鳥羽上皇後醍醐天皇が流されました。牛突きの行事は、後鳥羽上皇に楽しんで貰おうと島民がはじめたものです。

 隠岐には、歴史的な見どころが多数あります。こうした隠岐の文化・人間生活の背後にある隠岐の地形・地質と生態系のつながりを考えてみたいものです。

写真6:玉若酢命神社の八百杉

さまき たけお
法政大学教職課程センター教授
隠岐では毎日おいしい海の幸が食べられます。自転車で回りながら雄大な自然を楽しんだ後は、隠岐酒造の「隠岐の誉」と海の幸が待っています。次はツレと一緒に回ろうと思います。

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