左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

EM菌擁護者・DND出口俊一氏との裁判の報告

DND(+EM研究機構顧問だった)出口俊一氏との裁判 の控訴審判決(左巻健男完全勝利確定)
http://samakita.hatenablog.com/entry/2019/05/23/145104 2019/05/22 に関連して、『RikaTan(理科の探検)』誌2019年4月号に報告したものを紹介しておこう。

 

 EM菌擁護者・DND出口俊一氏との裁判の報告

 左巻 健男 SAMAKI Takeo

DND出口俊一氏との裁判と結果
 2015年2月、ぼくは、EM菌擁護者・(株)DND研究所代表出口俊一氏から名誉毀損で提訴された。その請求内容は、「1100万円の支払い」「関係の各記事の削除」「ブログに謝罪広告を出せ」だった。
 出口氏側の主な理由は二つだった。
 一つは、出口氏がDNDサイトに、EM菌開発者比嘉照夫氏が「EMにpHのみの効果でない事例が無数にあることを補足したい」として「EM1号の入った容器の上でウイルスを培養すると、EM1号が添加されたのと同様にウイルスが失活する」と述べるコラムを掲載したことに対して、ぼくが、ツイッターやブログで、「EMの入った密閉した容器外のウイルスが失活をDNDサイトに載せたことは真正のおばか、普通の頭なら載せないだろう」と述べたことだ。
 もう一つは暗黒通信団の「学界のトンデモ出口俊一【と学会誌初出】」を読んで、その記事を拡散するとともに、その文中の「この人物、比嘉氏に心酔してEMシンパをしているだけの人物なら笑ってすませられるのだが、どうもそうではない。要するにやってることはヤクザそのものである。記事に対して記事による反論ではなく、著者と面会して個別撃破しようとするスタンスは、そもそもジャーナリストですらない」を引用し、ツイッターやブログにも書いたことだ。
 結果は、地裁、高裁(控訴審)共にぼくの完全勝利、出口氏は最高裁に控訴したが棄却になり、ぼくの完全勝利が確定した。
 この裁判について判決などの資料は http://ankokudan.org/d/d.htm?samaki-j.html
にて公開している。

DND出口氏の謎が解けた!
 出口氏が代表を務める(株)DND 研究所は大学発ベンチャーを支援する会社らしい。出口氏は元産経新聞記者で自称ジャーナリストで桧家ホールディングス社外取締役であり、裁判時は金沢工業大学客員教授でもあった。
 そのような人が、なぜEM菌批判者を攻撃し、DNDサイトで科学的に荒唐無稽な内容の比嘉氏コラムの連載をしているのかは謎だった。理系の大学の客員教授をしていて科学的リテラシーが少しはあるはずなのにと思ったのだ。
 その謎はすぐに解けた。EM菌の製造や研究などをしているという(株)EM研究機構顧問だったのだ。仕事の一つだったのだろう。裁判では時期不定で三か月間だけだったと主張したが、それは疑わしい。EM研究機構の社員と一緒に朝日新聞社とやり取りしたときに社員が「以前から顧問」と説明したり、EM批判側への時期や相手が違う抗議のときにEM研究機構顧問の名刺を出していたからだ。

○EM菌側がEM菌批判側を攻撃するのは比嘉照夫氏の願いがある
 ニセ科学の商品の会社が批判者のところにクレームをつけて回ったり、裁判まですることは非常に稀である。批判者はスルーして、騙されて購入してくれる人らを相手にしたほうがよいからだ。
 ところがEM菌は、批判側への対応が執拗で激しい。そこには比嘉氏の思惑がありそうだ。Youtube にアップロードされた動画【実践活動・比嘉照夫氏講評と今後】の文字起こし(「Zutto 3 のブログ」)が参考になるだろう。その一部を紹介しよう。・がついた見出しはぼくがつけたものだ。

・裁判で賠償請求する!

(EM批判の朝日新聞青森の記事が出たので)少なくとも年間1%、あ~被害はあると見たとしたときですね、~年間50 億ありますから、1年間5,000万で、ま~15年ですから7億5千万、日本土壌肥料学会に賠償要求をします。同時にEMの名誉回復と謝罪をさせると、今弁護士を通して、その準備をしています。
・ EMを叩いた学者グループに対しても7億5千万ぐらい賠償要求する!
 でも、朝日新聞の、あ~青森支局から出たお陰でですね(フフフ)今度は一網打尽に。……で、今度はそのEMを叩いた学者グループに対しても7億5千万ぐらい賠償要求をしようと、これはもうグループになってるっていうのはツイッターで見りゃぁ全部わかってますので、この人達を全部名前引き出してですね、裁判に引っ張り出して、こ~んどはもう徹底的に叩こうと思っています。……ですから、それを拒否させない様に、これからやります。
・フジテレビ一社を爆破するのはわけない!
 昔、フジテレビ取材したら、ほ~んにちょっとの所だけとらえてね、反対派の意見いっぱい載せて私を叩いたという、そういう事をやりましたので。…あの時は若くて、もうとてもじゃ無いけどね、あの~(うん)、殺し屋頼んで記者を殺そうと(フフフ)思ったけどね(ウフン)出来なかった(エヘッ)(フッフッフ)でも今は力があるからね。フジテレビ一社、爆破するのは訳ない(ヒャッハッハ)(ウフ)(ハハハ)……従来の理論とか感情論でね、これをコメントしてね、我々を貶めるような事があったなら、私はもうどんな事してもフジテレビを爆破します(ンハッ)(フッフッフ)(クックックッ)

  「EM 批判の学者たちのツイートを全部監視していて、EM批判派を全部まとめて裁判にかけて莫大な賠償金をとってやる」という比嘉氏の思いが伝わってくる。その手始めにぼくが選ばれたのかもしれない。

○「真正のおばか」についての裁判所の判断
 EM菌側のいう「波動が出ている」「EMの入った容器の上でウイルスを培養するとウイルスが失活する」というのは、到底科学的に容認できるような言説ではない。もはや科学ではなく一種の宗教、あるいは妄想になっていると思わざるをえなかった。
 判決から該当箇所を引用しよう。原告が出口氏、被告がぼくである。

 “EMが乳酸菌、酵母光合成細菌を主体とした微生物資材であるという前提に立つ限り、現代の科学からそのような効果が存在することについて合理的な批判が可能な状態である。
 未だ定説を見ず論争がされている学問上の分野については、新たな学説について様々な論者から批判的な論説がなされ、ときには激しい非難にさらされ、それが昂じて表現が過激になることも当然に予定されているというべきである。
 比嘉論文がいうようなEMの効果は科学的にありえず、これを手放しで信じているとすれば科学と非科学を見分ける能力(科学リテラシー)に乏しい旨を述べる趣旨で「真正のおばか」、「普通の頭なら載せないだろう」、「嘲笑するしかない超低レベル」と述べたものと認められる。
 いささか品位に欠ける表現であるということはできるが、これを超えて、未だ誰であっても名誉感情を害されることになるような、見過ごしがたい、明確かつ程度の甚だしい侵害行為に当たるまでとは認めることができない。そうすると、被告は、12月4日の記事により原告の名誉感情を侵害したとは認められない。”

○ 「ヤクザそのもの」の裁判所の判断
 地裁判決は、

“「やっていることはヤクザそのもの」、「もはやジャーナリストですらない」という表現は、一般読者の普通の注意と読み方を基準にすれば、原告が松永教授らに対して直接面会し、又は面会しようとしたことに対する否定的な評価をしたもの”

 として、名誉毀損にあたらないとした。
 控訴審判決ではさらに踏み込んでいる。

“控訴人のこれらの供述から、控訴人が松永教授らに面会を求めたのは、ジャーナリストとして、取材対象である松永教授らと直接面会して、松永教授らの見解がどのようなものかを真摯に聴き取って記事にするためではなく、松永教授らの見解が誤っているとの前提の下、これを糺すためであったと言わざるを得ない。”“「ヤクザそのもの」という言葉は、辛辣なものではあるが、前後の文脈から、控訴人が暴力団関係者であると指摘しているのではなく、控訴人が松永教授らに面会を求めるなどしたことが、ジャーナリストとして強引な取材方法であることを表現したにとどまることは明らかであり、もっぱら原告の取材方法に対する批判にとどまるのであって、原告に対する人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものであることまでは認めることができない。”

  今回、出口氏は多くの負を背負ったのではないか。プラス面は思い浮かばない。

・EM菌会社顧問が明らかになってしまった。
・EM菌側の尖兵になって取材と称してクレーム活動をしていることがわかってしまった。
・ジャーナリストの適格性に疑問がもたれた。まともなジャーナリストならやらないようなことをやっていること、結局は取材と称したものがそういうものではないと裁判所に認定された。
・「EM の効果を証明するために記事を書いていると言わざるを得ない」と控訴審判決に書かれた。
・EM菌のための活動がメインと見なされることで、DND大学発ベンチャーや出口氏本人への見方が変わる可能性が強い。 

  ぼくがこの裁判で学んだことは、「裁判に対応できる小金と時間的余裕があればそんな裁判は怖くない」ということだ。