左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

「学校に、環境活動に、福島復興に、政治に、入り込んでいるEM(EM菌)」消費者法ニュース2019年4月号掲載の全文公開

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学校に、環境活動に、福島復興に、政治に、入り込んでいるEM(EM菌)

        法政大学教職課程センター教授 左巻健男

1 EM(EM菌)とは何か?
 EMは有用微生物群Effective Microorganismsの英語名の頭文字であり、製造・販売している(株)EM研究機構、(株)EM生活などの商標登録の商品群である。通称EM菌とも呼ばれる。
 乳酸菌・酵母光合成細菌などの集合体だという。しかし、専門家が調べると肝心の光合成細菌は検出されないという報告がある。
 開発者は当時琉球大学農学部の比嘉照夫教授。比嘉氏が書いたEM本、『地球を救う大変革』(サンマーク出版 1993)はベストセラーになった。表紙には「食糧・環境・医療の問題がこれで解決する」と謳っている。たとえば、EMを使った自然農法を行えば、農薬や化学肥料をまったく使わなくても質のよい作物が通常栽培の何倍もとれる、トイレの排水から洗剤まで混入した汚水が24時間で飲み水に変わる。化学物質、放射線物質、農薬による環境汚染、水質汚染、大気汚染なども解決できる、末期の肝臓がんといわれた人たちがEMを飲んで治った、つまり難病まで治せる、というのだ。
 国立大学の教授が大々的に効果を謳ったことで、世にEM信者がたくさん生まれた。
 それだけではない、高名な経営コンサルタント船井幸雄氏が応援したことでも話題になった。
 さらに、世界救世教という新興宗教の一派と組んでEMを使う自然農法を広めた。世界救世教は、国内に百万を超える信者を持ち、浄霊という手かざしの儀式的行為を各信者が行うこと、自然農法を推進することなどを特徴としている。世界救世教では、EMは“神からのプレゼント”と形容されている。

 

2 EMの商品群

 土を改良する農業資材、生ごみ処理、水質改善、車の燃費節減、コンクリートの強化、あらゆる病気の治癒などに効果があるという、さまざまな商品がある。

1.EMを用いた微生物資材(農業資材)
2 .EMを使用して作られた各種製品(健康飲料、農産物、化粧品、食品類)
3 .その他、EMを利用した資材(EMぼかし、EMストチュー、EMセラミック等)
4 .EMを活用したEM技術(土木建築、食品加工、環境浄化、塩類集積対策、化学物質汚染対策等)

 EMを代表するのはEM-1(EM1号)という濃い茶色の液体である。500ミリリットルで定価1100円である。エサになる有機物(米のとぎ汁や糖蜜)を加えた溶液で培養してEM発酵液として使う。米のとぎ汁を使わないで糖蜜を多くして培養したEM活性液が使われることもあるが、低コストなEM発酵液の方が一般的である。なお、EM発酵液もEM活性液と呼ばれる場合がある。
 EM系企業が販売に力を入れているのが、500ミリリットルで定価4650円のEM・X GOLDという清涼飲料水である。この他にEMセラミック、EMせっけんなど様々なEM製品が販売されている。

 

3 比嘉氏が謳う効能とEMの活動
 比嘉氏は、「EMは神様」だから「なんでも、いいことはEMのおかげにし、悪いことが起こった場合は、EMの極め方が足りなかったという視点を持つようにして、各自のEM力を常に強化すること」を勧めている。
EMはあらゆる病気を治し、放射能を除去するなど、神様のように万能だというのだ。
 EM製品をどんどん使ってEMを常に強化する生活をすると、次のような効果があるという(EM情報室 WEBマガジン エコピュア 連載 新・夢に生きる [74])。

1 .EM製品を身に着けていたので交通事故に遭っても大事に至らなかった。
2 .EM生活をしていると大きな地震が来てもコップ一つも倒れなかった。
3 .EM生活をしていると電磁波障害が減り、電気料金も安くなり、電機製品の機能が高まり寿命も長くなった。
4 .EMを使い続けている農場やゴルフ場の落雷が極端に少なくなった。
5 .EM栽培に徹していると自然災害が極端に少なくなった。
6 .EM生活を続けていると、いつの間にか健康になり人間関係もよくなった。
7 .EMを使い続けている場所は事故が少なく安全である。
8 .学校のイジメがなくなり、みんな仲良くなった。
9 .動物がすべて仲良くなった。
10 .すべてのものに生命の息吹が感じられるようになった。
11 .EMで建築した家に住むようになり、EM生活を実行したら病人がいなくなった。
12 .年々体の調子がよくなり、頭もよくなった。
13 .EMの本や情報を繰り返しチェックし確認する。
14 .いろいろな事が起こっても、最終的には望んだ方向や最善の結果となる。

 もちろん効果は疑問だが、「効くまで使いなさい」という指導がなされている。
 EMに囲まれた場所は「結界」(宗教用語=聖なるものを守るためのバリア)になり、たとえば沖縄本島福島県はEM結界になっているので、台風がそれたり、被害は少なくなるなどと述べている。その言説を信じたEM信者らは、畑にEM製品を入れたペットボトルを埋めたり、ぶら下げたり、リチウム電池を支柱に貼り付けたりして結界づくりに励んでいる。
 巨大な教育団体TOSSのリーダーである向山洋一氏が、EMでいじめ問題など学校のあらゆる問題が解決すると主張し、その影響下にある教師たちが環境教育やプール清掃などにEMが使っている。
 環境科学や生態学の研究者からは「EM団子の水環境への投げ込みは環境を悪化させる」との批判があり、川・湖・海などの水質浄化への効果は否定する報告が多い。しかし、効果があるとして子どもたちや市民にEM活性液、EM団子などが投入させる活動が行われている。そのような活動に自治体が助成金を出したりして、支援してしまっている場合もある。

 

4 北朝鮮はEMを国家レベルで導入
 1990年代の終わりごろ、食料難に苦しむ朝鮮民主主義人民共和国北朝鮮)は全国くまなく農業用資材としてEMを導入することにした。比嘉氏もしばしば訪れて指導をし、「北朝鮮はEMモデル国家。21世紀には食料輸出国になる」と宣言していた。しかし、今は比嘉氏は北朝鮮のことについて述べないし、WEBサイトからその関係の話は削除されている。数年で、この国家的事業は失敗したからだ。

 

5 政治の世界にもEM側は入り込んでいる
 安倍内閣の文科大臣だった下村博文衆院議員は、比嘉氏の講演を聴いて「EM技術による放射能被曝対策もできるそうだ。…同様の提案が私のところにも他からも来ている。私も勉強してみたい。」とブログで述べていた。
 安倍内閣は、市議・県議時代からEMの広告塔的立場だった高橋比奈子衆院議員を環境政務官につけたこともあった。これについては、週刊文春10/30秋の特大号に「元女子アナ環境政務官は“トンデモ科学”の広告塔 まだある女性抜擢失敗!」という記事が掲載された。
 政界では、まず2006年にEM推進は掲げていないが有機農業推進議員連盟を熱心なEM信者のツルネン・マルテイ参議院議員(民主党)らが設立している。2013年12月3日に国会議員の超党派による「有用微生物利活用議員連盟」が発足している。いわゆるEM菌議運といわれる。会長は野田毅衆院議員(自民)、幹事長は平井たくや衆院議員(自民)、事務局長は高橋比奈子衆院議員(自民)である。比嘉氏によると、「スタートは50人内外でしたが、その後も新規に加入いただいていますので、近々100人を超える規模になりそうです。」(2014年1月18日 EM情報室 WEBマガジン エコピュア 連載 新・夢に生きる [79])。比嘉氏は、EM菌議運と有機農業推進議員連盟について「この2つの議員連盟は、国会を軸にEMを社会化する両輪のようなものであり、これからも密接に連携し、EMが大きな国民資産になるように、より活発な活動を展開することになっています」(連載 新・夢に生きる [82])と述べている。
 2018年10月3日の毎日新聞は、「安倍内閣初入閣・平井科技担当相は「EM菌議連」幹事長」を報じた。平井議員は「「EM菌を使っている方がたくさんいるので幹事長を引き受けた。中身はよく知らない」と釈明した。」という。
 比嘉氏は、さまざまなEM商品を全部使うEM生活をすることを国民の義務にすることを狙っている。国民全体がEM・X GOLDという清涼飲料水を飲み、さまざまなEM商品を使う「EM生活」をするようになれば、生活習慣病などはなくなるので、もし病気になったら自己責任なので社会保険制度は不要という主張である。そのためには政治家らもEM信者にしようとしているのだ。

 

6 EM批判者への強い攻撃性
 EM研究機構の顧問と社員が、EMの非科学性について批判している人らの自宅や所属機関に押しかけたりして、「名誉毀損」「営業妨害」だとして批判封じの働きかけをしている。こうした役目を行っているEM研究機構の顧問は、ときにはEM研究機構の顧問であることを隠して、大学客員教授やジャーナリストの肩書きを使っていた。
 本来なら、EM批判をしている研究者とは公明正大に議論をすればよい。本当に商品の性能に自信があるなら第三者に自由に検証してもらい、もし問題が見つかれば商品の改良を重ねていき、批判を元により良い商品開発を目指していくのが企業としてのあり方ではないかと思う。
 EM批判側に訴訟を起こしたりもしている。
 2015年2月、EM研究機構の顧問だった出口俊一氏が名誉毀損で私に対して訴訟を起こした。同年6月には、比嘉照夫氏が、EM菌の効果を疑問視する記事を出した朝日新聞社名誉毀損で訴訟を起こした。このとき出口俊一氏は比嘉氏側の陳述人だった。
 私への訴訟、朝日新聞への訴訟とも東京地裁、東京高裁の控訴審でEM側が完全敗訴、最高裁で棄却で、EM側の完全敗訴の判決が確定した。なお、私と出口氏との裁判記録は、http://ankokudan.org/d/d.htm?samaki-j.html にて公開している。

 

おわりに
 「EMは手強い!」これが実感だ。科学的には荒唐無稽で、オカルト的な主張でも、「環境をよくしたい」という善意の人たちを信者にしている。日本国民にEM生活をさせるという大野望のために政界にも支持基盤をもっている。そして、批判側には訴訟を含めて様々な攻撃性を見せる。
 国内だけではなく諸外国にも影響力があるEM。しかし、メディアもEMのニセ科学性を報じるようになってきた。国会論議ではEMによる除染、EMによる水質改善などの効果について国側は否定的な立場の答弁をしている。少しずつでもEMのニセ科学性が知られてきているのではないだろうか。

 

【参考文献】
左巻健男『暮らしのなかのニセ科学平凡社新書
 EMについて1章をあてている。
 なお、左巻健男『学校に入り込むニセ科学』(仮題平凡社新書が近刊予定

 以下は私が編集長の『RikaTan(理科の探検)』誌(発行所:SAMA企画 販売元:文理)でEMについて扱ったものである。
 2014年春号(特集:ニセ科学を斬る!)所載の

・呼吸発電「EMのニセ科学問題」
・松永勝彦「EM団子の水環境への投げ込みは環境を悪化させる」
 2015年春号(特集:ニセ科学を斬る!リターンズ)所載の

・片瀬久美子「EM商品のニセ科学性について」
 2016年4月号(特集:ニセ科学を斬る!2016)所載の

天羽優子「「EMを学校で使わないでください」署名をするわけ」
 2017年4月号(特集:ニセ科学を斬る!2017)所載の

・飯島明子「EMは水質を浄化できるか」
 2018年4月号(特集:ニセ科学を斬る!2018)所載の

・呼吸発電「EMの2つの顔 小中学校で教えられるEMについて」
 2019年4月号(特集:ニセ科学を斬る!ファイナル)所載の

・呼吸発電「政治問題としてのEM菌」
・大石雅寿「EM菌やナノ銀では元素転換できないわけ」
左巻健男「EM菌擁護者・DND出口俊一氏との裁判の報告」

消費者法ニュース№119』2019.4 pp20~23消費者法ニュース発行会議 2019/4/30発行