左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

反ワクチン運動はニセ科学の特徴を全て持っている

【反ワクチン運動はニセ科学の特徴を全て持っている】
2021年8月23日【X投稿】

5年余前のナカイサヤカ「反ワクチン運動の歴史とニセ科学性」『『RikaTan(理科の探検)』誌2016年4月号』を読んでいる。
画期的だったジェンナーの牛痘種痘の時は反ワクチン運動は起こっていない。半世紀ほど経った1850年代、イギリス政府が種痘義務化の法に罰金を加えたからだ。

その厳しい罰金は貧しい家庭の暮らしを崩壊させた。社会運動家ギブスの反種痘運動。「ワクチンは金儲け」というビラ。大規模なデモや過激な妨害運動。結局1898年の法改正で罰金はなくなった。この運動はアメリカやドイツなどへと広がった。

ポリオやスペイン風邪の流行もあって反ワクチンは影を潜めたかのように見えた。
復活は1970年代。
ロンドンの小児科病院の医師達がDTP3種混合ワクチンで起きた重篤な脳障害を発表したからだ。とくに指摘されたの百日咳ワクチン。
接種率は大幅に低下し、百日咳は再流行の兆し。

患者の一人は数百家族からなる「ワクチン被害者親の会」を組織し、政府と製薬会社に補償を求めた。アメリカでも親の会がつくられた。
DTPワクチン副作用の検証は80年代いっぱい続いた。
結局副作用の正体がわかったのは21世紀になってからだ。

副作用の正体は先天性てんかんの一種ドラベ症候群だった。
イギリスでは患者側が敗訴。一方アメリカでは訴訟を恐れて製薬会社がワクチン製造から撤退し始めたため国のワクチン補償制度がスタート。ワクチン被害を訴えればお金になる事態に。

19世紀に続き、反ワクチン運動は世界に影響を与えた。
政府も専門家も、自称被害者の救済を優先すると科学的検証が歪むことを目のあたりに。
1994年には別の3種混合ワクチンMMRが自閉症の原因という論文が発表された。
この論文はランセット誌に掲載されたが捏造とわかって撤回された。

捏造論文の著者ウェイクフィールドは反ワクチン運動では政府と主流医学から弾圧された人として英雄視。
反ワクチン運動は自閉症児の親、自然派育児や自然療法の愛好者を取りこんで現在に至っている。単純で直感的でわかりやすい反ワクチン運動は口コミやメディアが飛びつく。

反ワクチン運動はニセ科学の特徴を全て持っている。
・個人体験が根拠、相関と因果の混同
・ワクチンのリスクだけを強調
・集団免疫への無理解
・データの曲解
・権威の利用とつまみ食い
・自然ではない添加物入りと言う理由で否定

予防できる病気は予防してリスクを減らしたい。

左巻健男『サイエンス日本史 時代を動かした「科学の力」』集英社新書のレビュー

『サイエンス日本史 時代を動かした「科学の力」』集英社新書のレビュー

【楠田純一 「Facebook版 理科の部屋」 管理者】

【やっぱりとても面白かった!!】

いつもの【お薦め本】風にお薦めポイント3つ
(1)「モノ」を科学するからはじめての科学・技術史は楽しくわかりやすい!!
(2)「科学する」を総合した力=「科学の力」で日本史を読み解くのは実に面白い!!
(3)「科学の力」を活用して、これからの歴史を創出するヒントを与えてくれている!!


【(1)「モノ」を科学するからはじめての科学・技術史は楽しくわかりやすい!!】
・どの章も「モノ」を科学するからはじめておられた。
・だから具体的でわかりやすかった。
・私の知る「科学」近かった!!アリガタイ!!
・誰かが言っていた「中3階級」のコトバで語ってこそホンモノと。
 中学理科レベルの「科学」で に通ずるのか。
・例えば「トイレの日本史」は「うんち」からははじまっていた。
 「建造物の日本史」は、「ヒノキ」「和釘」から
 「金と銀の日本史」は、「金」「銀」のサイエンスから
等など

 

【(2)「科学する」を総合した力=「科学の力」で日本史を読み解くのは実に面白い!!】
・14章まであって、「衣食住」のすべてが網羅されいるのに驚く!!
・すべてを「科学する」視座で貫いておられるのはさすがである。
・これが「科学の力」!?
・ここに授業で使える「科学読み物」のヒントがいっぱいだ!!
・そうだったのか!!とはじめて気づくこと、知ることいっぱいだった。

 

【(3)「科学の力」を活用して、これからの歴史を創出するヒントを与えてくれている!!】
・歴史に学ぶとは、「これから」に活かしてこそ
・あなたの「科学の力」使って
・「そうだったのか!!」 ナラバ 「これから」

 

【私の選ぶベスト3】 
1.第2章 トイレの日本史
2.第4章 金と銀の日本史
3.第9章 電池の日本史
むつかしいな、まだまだありそう!!
 思ったこと気儘にメモってみた。
(楠田さんの読書感想 以上)

 

【目次】
【科学の視点で読む14の日本史】
目次
第1章 土器の日本史――縄文土器からガラスまで
第2章 トイレの日本史――桟橋式トイレからウォシュレットまで
第3章 建造物の日本史――法隆寺五重塔から東京スカイツリーまで
第4章 金と銀の日本史――奈良の大仏から都市鉱山まで
第5章 鉄の日本史――古代の武器・農具から近代製鉄まで
第6章 食の日本史――稲作からうま味調味料まで
第7章 漆の日本史――漆塗り土器から漆メダルまで
第8章 品種改良の日本史――キンギョ、アサガオからサクラまで
第9章 電池の日本史――屋井乾電池からペロブスカイト太陽電池まで
第10章 磁石の日本史――KS鋼から世界最強のネオジム磁石まで
第11章 機械の日本史――からくり人形から自動車まで
第12章 通信の日本史――狼煙からインターネットまで
第13章 鉄道の日本史――蒸気機関車から新幹線まで
第14章 灯りの日本史――たいまつからLEDまで

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左巻健男『サイエンス日本史 時代を動かした「科学の力」』を佐藤健太郎さんが読む(Bookレビュー) 

左巻健男『サイエンス日本史 時代を動かした「科学の力」』を佐藤健太郎さんが読む(Bookレビュー) https://news.yahoo.co.jp/articles/d481177dcfb0739473190de1b13c6be9d2f1fb89

科学史の立場から見た日本人論

 歴史の教科書に載っているのは、法律や戦争や条約の名前ばかりだ。もちろん、これらなくして今の世の中はないから、覚えておくべき大切なことだ。だがもっと他にも、重要なことは起きていたのではないだろうか。

 物理学者ファインマンは、その有名な講義録の中で「もし一万年後に人類史を振り返ったら、十九世紀で最も重要な出来事はまず間違いなく、マクスウェルによる電磁気学の法則の発見とされるだろう」と述べている。確かに、もし電磁気学がなければ、今も人類は馬車と蒸気船で移動しているだろうし、都市の形も戦争の規模も実際と全く違ったものになっていただろう。

 そう考えると、これまで語られてきた歴史では、多くの場合科学技術分野に関する記述が大きく欠落しているように思える。何十万人が参加した戦争や、数百年続いた王朝の交代よりも、たったひとつの小さな道具の発明の方が、より大きく歴史を動かしているかもしれないというのに。

 本書は、まさにこの点を埋めてくれる一冊だ。食品やトイレなど極めて身近なものから、インターネットやLEDなどのテクノロジーに至るまで、これらがいかに発展してきたか、それを支えるサイエンスはどんなものなのか、そしてどんな人々がそれらを生み出したのか、わかりやすく解説されている。取り上げられた話題の幅広さは、コンパクトな新書一冊と思えぬほどだ。

 たとえば電池の歴史は、ボルタの発明した電堆(でんたい)に始まるが、明治期には屋井先蔵(やいさきぞう)によって乾電池が開発され、現代のリチウムイオン電池やペロブスカイト太陽電池に至るまで、日本人が大きな貢献をしている。こうしたコンパクト化、多くの要素のすり合わせなどは、我々の得意とするところなのだ。

 こうして日本人の特質を考えることは、この国の先行きを考える上で欠かせない事柄だろう。本書は日本から見た科学史の本であると同時に、科学史の立場から見た日本人論でもある。
 

佐藤健太郎
さとう・けんたろう●サイエンスライター

[レビュアー]佐藤健太郎(サイエンスライター)
1970年、兵庫県生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。医薬品メーカーの研究職、東京大学大学院理学系研究科広報担当特任助教等を経て、現在はサイエンスライター。2010年、『医薬品クライシス』で科学ジャーナリスト賞。2011年、化学コミュニケーション賞。著書に『炭素文明論』『「ゼロリスク社会」の罠』『世界史を変えた薬』など。

集英社新書
左巻健男『サイエンス日本史 時代を動かした「科学の力」』
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?jdcn=08721406942792000000

“科学的根拠ナシ”の「水商品」が世の中にはびこるワケ

水道水は「ミネラルウォーター」より安全? それでも“科学的根拠ナシ”の「水商品」が世の中にはびこるワケ

 *by 弁護士jpニュースから。

 

昨今、「健康に良い」と謳(うた)われるさまざまな水商品が市場にあふれている。アルカリイオン水、水素水、シリカ水など、その種類は多岐にわたり、高額な価格で販売される商品も少なくないが、これらの商品には科学的な根拠が乏しいものも多いという。

 

一方で、私たちの生活にもっとも身近な存在である水道水は、その安全性やおいしさについて誤解されている面もある。

 

本記事では、東京大学非常勤講師、元法政大学生命科学部環境応用化学科教授の左巻健男氏が、「ニセ科学」的な水商品に共通する特徴を解説し、消費者が騙されやすいからくりを明らかにする。

 

また、水道水を含めた「おいしい水」「安全な水」とは一体どのようなものなのか、科学的な観点からその条件を紐解いていく。

 

なお、科学的な事実に基づかない言説は、時として社会に混乱をもたらす。特にSNS時代の今、安易な発信や拡散は法的リスクをともなう可能性もあり、注意が必要だ。

 

※ この記事は、左巻健男氏による著作『陰謀論とニセ科学 - あなたもだまされている -』(ワニブックス【PLUS】新書、2022年)より一部抜粋・構成しています。

 

ニセ科学的「水商品」──3つの特徴

 

私が考えるニセ科学的な水ビジネス商品には、アルカリイオン水、π(パイ)ウォーター、磁石を使って磁化処理した磁化水、電気石による創生水、波動水、酸素水、水素水、シリカ水、宝石水、電子水、酵素ジュース、微生物の発酵生成物から成分を抽出した水などがあります。

 

水そのものや水に入れる物質を販売する場合もあれば、整水器、活水器などの製造器を売る場合、「波動カウンセリング」と称することをして波動共鳴水を売りつける場合など多種多様です。

 

それぞれの水商品のニセ科学性には濃淡の違いこそありますが、これらには共通して次のような特徴があると考えています。

 

①「水を飲む選択肢」以外に、十分な根拠のある効果効能を有したものがない

②中身のほとんど大部分は水道水や地下水なので、ほかの健康食品・サプリメントと比べるとずっと副作用が少ない(だから問題になりにくい)

③原価は非常に低いが販売価格を高額にしやすい

 

これらの中で②の「副作用が少ない」は、問題になりにくいということです。

 

健康食品・サプリメントには時に健康障害を起こすものも多々あります。私が見るところ、多くのニセ科学的水商品は水道水を飲んでいるのと変わりません。ただ購入者からは、次から次へとお金が失われていきます。

 

多くはもっとも認定が緩い「機能性表示食品」にもなっていない、単なる清涼飲料水です。「薬機法」や「景品表示法」にぎりぎり違反しない範囲で、曖昧に効能らしきことを述べるだけです。

 

「おいしい水」「安全な水」の条件

 

井戸水や湧き水がおいしい第1の要因はそれらが冷たいからです。水の温度は、水のおいしさにとって大事な条件なのです。少しまずい水でも冷やしてしまえば、まずさはかなり減ってしまいます。

 

1960年代後半から、水道水のかび臭や塩素臭などの問題がクローズアップされて、水道水がまずくなったという苦情が各地で発生したため、厚生省(当時)は「おいしい水研究会」をつくりました。

 

その「おいしい水研究会」が1985年4月に「おいしい水の条件」を発表しました。その研究結果から、温度が「おいしい水の条件」の第1番目にあげられています。適温は10〜15℃くらいです。

 

また、おいしい水は、味を良くする成分を含んでいて、味を悪くする成分を含まない水です。味を良くするのは、とくに「カルシウム、マグネシウムをはじめ、ナトリウムやカリウムなどのミネラルです。多すぎても少なすぎてもダメで、1リットル中に30〜200ミリグラムがちょうどいい。なかでも100ミリグラムぐらいのミネラルを含む水がまろやかな味になる」ようです。

 

さらには「カルシウムとマグネシウムの硬度合計量の適量は1リットル中10〜100ミリグラムぐらいで、なかでも50ミリグラム前後が多くの人に好まれる」、そして「二酸化炭素が十分に溶けていると水に新鮮でさわやかな味を与える」とのことです。

 

結局、おいしい水の3条件は「水温、ミネラル量、二酸化炭素」ということになります。水道水も適温の10〜15℃の場合、いわゆるミネラルウォーターと味が変わらないものが増えてきました。

 

とくに東京・大阪などの大都会でオゾンなどを使った「高度浄水処理方式」に切り替えたものとか、旧来の方式でも水道水の原水がきれいなら味が良いです。

 

かつて、大都会の水道水はまずかったです。家庭排水などがたくさん流れ込んだ下流の川の水を原水にして、塩素を使って汚れを分解する「急速ろ過方式」でした。そのときに汚れの成分と塩素が結びついた、独特な臭い物質が含まれていました。そこで塩素ではなく、オゾンを使って汚れを分解する高度浄水処理方式に変更したのです。

 

健康に良いとする水の販売業者は、水道水の危険性を強調します。ところが飲み水でもっとも安全性がきちんと確認されているのは水道水なのです。いわゆるミネラルウォーターというボトル水は、水道水に比べると調査される成分数はずっと少なく、調べられている成分の基準も水道水と同程度もしくは緩いです。

 

基本的には飲んで害がなければよいというだけです。ようするに「水道水は毎日飲むものに対してボトル水はたまに飲むもの」ということで基準が異なるのです。

 

もしも水道水の原水の水質が悪く、急速ろ過方式による水道水の味に不満があれば、浄水器を設置するとよいでしょう。

 

※この記事は、書籍発刊時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

 

■書誌情報

https://amzn.asia/d/5or6R28

左巻健男の旅の一場面 インド・バラナシ&ボリビア・ポトシ銀山

 バラナシで若い女性の遺体が焼かれているとき、それを見に来た人々の中に「ウシ」が混じっていた。ぼくの隣でウシはうっとりとした顔をしていた。空気に混じる臭い分子が原因だろう。衝撃的だったのはやはり野犬の食べっぷりだった。
 ポトシ銀山でコカの葉を購入して食べたかどうかは本に書かなかった。

■インド・バラナシ
 私はよくインドを旅してきた。バラナシ(ワラーナシー)というヒンズー教の聖地を訪れると、ガンジス河の火葬場(マニカルニカー・ガート)で薪の火で遺体が焼かれる様子をじっと見る。この前見たのは若い女性の遺体だった。二時間半程度で焼かれて気体と煙と灰になる。灰は河に流される。焼け残りを野犬がねらっている。インドのヒンズー教徒にとって火葬されて灰をガンジス河に流してもらうことが理想なのだ。

 遺体は焼かれるとその六〇 %程度をしめる水は水蒸気になって飛び去る。タンパク質や脂肪のほとんどは二酸化炭素と水(水蒸気)になってやはり飛び去る。煙には二酸化炭素と水までならない分解生成物がふくまれているだろう。灰には崩れた骨や体内のミネラル分の炭酸塩などがふくまれているだろう。こうして空中や水中にばらまかれた原子たちは、どこかでまた別のモノの構成原子になっていく。例えば、木の葉の一部、魚の体の一部、ゴキブリの体の一部、他の人間の一部として。それらの新しい場所も原子たちの仮の宿である。原子たちはほとんど永遠に、なくなることなく地球のなかでぐるぐる巡回している。私たちの体をつくっている原子たちは、宇宙で生まれ、いろいろな変化をくぐって今ここにいる。

■南米・ポトシ銀山 
 私は、二〇一三年の南米旅行の際にポトシ鉱山を訪れた。ざるの上に山盛りのコカの葉売人がやってきた。銀山で働くインディオは昼食を取らずに働き続けるが、入坑するときに頬一杯にコカの葉を詰め込んで、そのエキスを飲むことで空腹感を忘れ、疲労感や眠気をなくし、八時間働き続けたという。これは今も続いていることだ。
 ヘルメットなどをつけて坑道にも入ってみた。入り口からすぐの坑道をしばらく歩いた。ポトシ観光の目玉だ。しかし、観光客に開放されている坑道からは当時の悲惨な労働はイメージできなかった。BY世界史は化学でできている一次原稿


◎左巻健男のおすすめ旅(2014記)
 もっとも回数が多いのは、もちろん自宅や勤務先のまわりの小さな旅だ。野田市の清水公園周辺、江戸川堤を上流へ(関宿城博物館あたりまで)、都立小金井公園・多摩湖自転車道を多摩湖・狭山湖へ。京都勤務時代は、京都各地を歩いたりサイクリングしたり。

 期間が長かったのは、旧東海道と旧中仙道を歩き通した旅だ。旧東海道は16日間。旧中仙道はもっとゆっくり歩こうと思い22日間。

 思い起こせばいろいろなところを旅した。

 ぼくが自然系で何度か行っているところをあげてみよう。
 1回でも行ったことがあるところを入れると、この何倍かになるだろう。外国も、いろいろなところへ行った。好きなところは何度も行っている。
 以下は、ぼくのおすすめだ。

【九州・沖縄】雲仙岳・阿蘇・奄美大島・屋久島・沖縄やんばる・西表島
【中国・四国】大山・隠岐・龍河洞・秋芳洞・秋吉台・三段峡・鳴門の渦潮
【近畿】琵琶湖・鴨川・深泥池・哲学の道・高尾・六甲山・有馬温泉・熊野古道・大峰道(大峰奥駆け道)
【中部】佐渡・糸魚川ジオパーク・野尻湖・黒姫山・上高地・槍ヶ岳・八島湿原・青木ヶ原樹海・西沢渓谷・立山黒部アルペンルート・一乗谷
【関東】奥日光・戦場ヶ原・尾瀬ヶ原・至仏山・燧岳・ 那須 ・ 茶臼岳 ・妙義山・長瀞・城ヶ崎自然研究路・養老渓谷・清澄山・玉川上水30 kmを歩く・高尾山・川乗山・伊豆大島
【東北】白神山地・五能線・下北半島・岩木山・十和田湖・奥入瀬渓流・象潟・鳥海山・龍泉洞・三陸海岸・月山・飯豊山系・朝日連峰・五色沼自然探勝路・磐梯山
【北海道】知床・網走などで流氷・礼文島・利尻島・富良野の東大演習林・大雪山系・寿都・積丹半島

左巻健男『サイエンス日本史時代を動かした「科学の力」』集英社新書 2026年4月17日発売

左巻健男『サイエンス日本史時代を動かした「科学の力」』集英社新書
2026年4月17日発売1,155円(税込)新書判/288ページISBN:978-4-08-721406-2
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-721406-2→各ネット書店へ

【内容紹介】
私たちが知っている歴史には、サイエンスが大きく関わっている。
火の利用と縄文土器、金アマルガムと奈良の大仏、たたら製鉄と日本刀、コウジカビと発酵食品、光ファイバーとインターネット……。
サイエンスはあらゆる時代の象徴的な場面で、その力を発揮してきた。
本書では、日本史の中で科学が特に深く影響を与えてきた14テーマを厳選。興味深いエピソードとともに面白く解説する。日本史にサイエンスの知見を盛り込んだ画期的な一冊。

【科学の視点で読む14の日本史】
目次
第1章 土器の日本史――縄文土器からガラスまで
第2章 トイレの日本史――桟橋式トイレからウォシュレットまで
第3章 建造物の日本史――法隆寺五重塔から東京スカイツリーまで
第4章 金と銀の日本史――奈良の大仏から都市鉱山まで
第5章 鉄の日本史――古代の武器・農具から近代製鉄まで
第6章 食の日本史――稲作からうま味調味料まで
第7章 漆の日本史――漆塗り土器から漆メダルまで
第8章 品種改良の日本史――キンギョ、アサガオからサクラまで
第9章 電池の日本史――屋井乾電池からペロブスカイト太陽電池まで
第10章 磁石の日本史――KS鋼から世界最強のネオジム磁石まで
第11章 機械の日本史――からくり人形から自動車まで
第12章 通信の日本史――狼煙からインターネットまで
第13章 鉄道の日本史――蒸気機関車から新幹線まで
第14章 灯りの日本史――たいまつからLEDまで

 

今年も左巻健男は科学啓発作家としての仕事を進める

左巻健男 著作2026年1月~

地道に仕事をやっていれば終わっていく。よくまあ、こんな歳でいろいろやっていると我ながら思う。

 今年、もうすぐ出る本。

1・『世界の研究者が驚いた!小学生のためのすごい実験図鑑』
 2026/4/10 左巻健男 (監修) カンゼン ¥1,870 税込

https://www.amazon.co.jp/%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AE%E7%A0%94%E7%A9%B6%E8%80%85%E3%81%8C%E9%A9%9A%E3%81%84%E3%81%9F%EF%BC%81%E5%B0%8F%E5%AD%A6%E7%94%9F%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E3%81%99%E3%81%94%E3%81%84%E5%AE%9F%E9%A8%93%E5%9B%B3%E9%91%91-%E5%B7%A6%E5%B7%BB%E5%81%A5%E7%94%B7/dp/486255802X/ref=sr_1_1?dib=eyJ2IjoiMSJ9.LGys5HCPGaFiBL-g9nlboMHBb7oqxtkrZNTOaer7hwXGa9PwaWJZDmeQPRCmCJ52YKkj1l_e9sQXVr22mTtr9k62WS8t8a8V8zDIHagI3_lbbm10WLEp6s4fqNYfLIjWUgQvIamlGDL3Qrmwreoa82SBMVzLHpj0XOXeCbWXCJEtIiVzMrnP768jD5APVbla_F6YopZVItkNI2PGFBOL1M0JuKxfX9LO27bLpqoZlX0.BlJUzLxzNOsgTC7E2kMGLWaRUC5bTM5JK7U1QX0sV3A&dib_tag=se&qid=1773719727&s=books&sr=1-1

 今年すでに出た本。

2・『これ1冊で中学3年間の理科がちゃんとわかる教科書』
2026/2/27 左巻健男 著 SBクリエィティブ ¥2,750 税込 電子書籍有
https://www.amazon.co.jp/%E3%81%93%E3%82%8C1%E5%86%8A%E3%81%A7%E4%B8%AD%E5%AD%A63%E5%B9%B4%E9%96%93%E3%81%AE%E7%90%86%E7%A7%91%E3%81%8C%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%81%A8%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8B%E6%95%99%E7%A7%91%E6%9B%B8-%E5%B7%A6%E5%B7%BB%E5%81%A5%E7%94%B7/dp/4815640068/ref=sr_1_2?dib=eyJ2IjoiMSJ9.LGys5HCPGaFiBL-g9nlboMHBb7oqxtkrZNTOaer7hwXGa9PwaWJZDmeQPRCmCJ52YKkj1l_e9sQXVr22mTtr9k62WS8t8a8V8zDIHagI3_lbbm10WLEp6s4fqNYfLIjWUgQvIamlGDL3Qrmwreoa82SBMVzLHpj0XOXeCbWXCJEtIiVzMrnP768jD5APVbla_F6YopZVItkNI2PGFBOL1M0JuKxfX9LO27bLpqoZlX0.BlJUzLxzNOsgTC7E2kMGLWaRUC5bTM5JK7U1QX0sV3A&dib_tag=se&qid=1773719727&s=books&sr=1-2

 今年すでに出た本。

3・『天才科学者の頭のなか: 世界を変えた50のひらめき』
 2026/2/24 左巻健男 編著 あさ出版 ¥1,650 税込 電子書籍有

科学者たちは何を考え、何を解き明かしてきたのか?
コペルニクス、ガリレオ、ニュートン、アインシュタイン、ホーキングなど。
世界を変えた50人の科学者たちのひらめきとその偉業を
イラストと、やさしい文章で紹介。
科学者とその発見を通して、
「目の付け所」や「視点」を楽しく学べる一冊です。

https://www.amazon.co.jp/%E5%A4%A9%E6%89%8D%E7%A7%91%E5%AD%A6%E8%80%85%E3%81%AE%E9%A0%AD%E3%81%AE%E3%81%AA%E3%81%8B-%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%82%92%E5%A4%89%E3%81%88%E3%81%9F50%E3%81%AE%E3%81%B2%E3%82%89%E3%82%81%E3%81%8D-%E5%B7%A6%E5%B7%BB%E5%81%A5%E7%94%B7/dp/4866677953/ref=sr_1_4?dib=eyJ2IjoiMSJ9.LGys5HCPGaFiBL-g9nlboMHBb7oqxtkrZNTOaer7hwXGa9PwaWJZDmeQPRCmCJ52YKkj1l_e9sQXVr22mTtr9k62WS8t8a8V8zDIHagI3_lbbm10WLEp6s4fqNYfLIjWUgQvIamlGDL3Qrmwreoa82SBMVzLHpj0XOXeCbWXCJEtIiVzMrnP768jD5APVbla_F6YopZVItkNI2PGFBOL1M0JuKxfX9LO27bLpqoZlX0.BlJUzLxzNOsgTC7E2kMGLWaRUC5bTM5JK7U1QX0sV3A&dib_tag=se&qid=1773719727&s=books&sr=1-4

 今年これから出る本。

4・『サイエンス日本史 時代を動かした「科学の力」』集英社新書 新書判/288ページ 左巻健男著 4月17日 ¥1,155 税込
*未だAmazonなどに出ていない。

 後、終わった仕事で未だ出ていないのは
5・監修の『マンガと図鑑でおもしろい!わかる身近な化学の本』うえたに夫婦 大和書房
6・編著の『身近な危険』(仮題) 日本実業出版社
 うえたに夫婦さんの図待ち

 やっている途中は
7・編著の『驚くべきヒトのふしぎ366』きずな出版
8・監修のDK社元素本日本語版(東京書籍)は、ぼくの仕事はほぼ終わったかな。
9・Aさんとの共著『100日で理科にハマっちゃう 生物のはなし』実務教育出版 ツレの協力のもと執筆は終わっている。
10・Iさんとの共著『100日で理科にハマっちゃう 地学のはなし』実務教育出版 執筆は終わっている。

 これからの仕事。きっと5月がピーク。
11・監修『学校では教えてくれない ヤバい科学図鑑』るーい の続編で監修『学校で教えてくれない ヤバイ宇宙図鑑』SBクリエィティブ
12・単著で元素本。幻冬舎。

13・単著のダイヤモンド社本。

いつも気になっているのは『世界史は化学でできている』ダイヤモンド社 の次の本。(田中さんとの共著『わかる元素図鑑』PHPのリニューアル本が実現されると内容を再考。) 

14・昨日(3月16日)依頼された化学史本。ナツメ社。

章構成をどうするかを今月来月で考え、5~8月で書きたい。友人らにも執筆参加して貰うかも。

【以前(2020年)“論座"に書いたもの】新型コロナウイルスとともに広がるニセ科学by左巻健男

新型コロナウイルスとともに広がるニセ科学
引っかからないように要注意!

左巻健男 東京大学講師・元法政大学教授

2020年03月03日

 ニセ科学は、いつも虎視眈々と科学リテラシーの弱い人たちを狙っている。そして、社会的に不安が高まると、一気に跳梁跋扈する。現在、新型コロナウイルス感染が広がるなか、ニセ科学はこの機会に一挙に引っかかる人を増やそうと蠢いている。

 

社会的な不安に乗じてニセ科学が跳梁跋扈

 ニセ科学とは、科学ではないのに、「科学っぽい装いをしている」あるいは「科学のように見える」ので、科学リテラシーが弱いと、つい科学的なものと思い込んでしまうものだ。

 ニセ科学にはどんなものがあるだろうか。細かく見て行くといろいろあるが、大まかにいくつかを列挙してみよう。
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がんが治る・ダイエットができるとするサプリメント・健康食品の多く、健康によいとする水、ホメオパシー、経皮毒、デトックス、血液サラサラ、身に着けると健康によいというゲルマニウムやチタン製品・トルマリン製品、ゲーム脳、「人間の脳は全体の10%しか使っていない」「右脳人間・左脳人間が存在する」などの神経神話、水からの伝言、マイナスイオン、EM菌、ナノ銀除染、フリーエネルギー、血液型性格判断、「知性ある何か」によって宇宙や生命を設計し創造したとするインテリジェント・デザイン説、アポロは月に行っていなかったとするアポロ陰謀論、人口減少させるために何者かが有毒化学物質をまいているとするケムトレイルなど。

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 本論では、新型コロナウイルス関連のいくつかを見ていこう。

「コロナウイルスには26~27℃のお湯が効果がある」というデマ
(略)

 

代替医療ホメオパシーのレメディ登場
 代替医療とは、通常医療(標準医療)の代わりに用いられる医療だ。代替医療を通常医療より優れた特別な医療と思ってしまう人も多く、知性や教育のレベルとは関係なく引っかかる場合がある。

 例えばアップル社のスティーブ・ジョブズも、すい臓がんの治療に代替医療の絶対菜食療法、コーヒー浣腸、心霊治療などを試して時間を無駄にしたことを、後々非常に後悔していたのは有名な話だ。

 代替治療のなかで、その科学的な根拠はないが、欧米で人気を博していて、わが国でも助産院などで使われて問題になったものがホメオパシーである。

 ホメオパシーは18~19世紀ドイツの医師ハーネマンが始めたもので、その症状によく似た症状を引き起こす物質をその物質が含まれないくらいに水で薄めて砂糖玉にしみ込ませた「レメディ」を薬として使う。「似たものが似たものを治す」という考え方だ。レメディの製法として推奨されている10の60乗倍の希釈を実行すると、理論上、もとの物質は1分子も含まれないことになる。

 実際的には水と砂糖を摂取するだけなので、副作用がないのは確かだ。しかし、通常医療を受けないことによる命の危険がある。わが国でもホメオパシーで死亡事件が相次いで起きたことを忘れてはならない。

 とくに有名なのは2009年に山口市で起こった「K2シロップ事件」だ。助産師が本来投与すべきだったビタミンK2を投与せずにホメオパシーのレメディを投与して、生後2か月の女児がビタミンK欠乏症が原因で頭蓋内出血を起こし、死亡したものだ。

 ホメオパシー側は福島第一原発事故の後、福島の土を水で薄めてつくったというレメディを放射能被曝用として売り出していた。もちろん、新型コロナウイルス用のレメディも発売。レメディにハーブエキスやアルコールを入れたものを発売している場合もある。

 ホメオパシーは欧米で人気なので、疫学の調査もたくさん行われているのだが、効能があるとする根拠はない。多くの病気は自然治癒するが、そんな場合は砂糖玉や○○水などを飲ませようと問題はない。しかし、それを砂糖玉や○○水などで治ったと信じ込み、まわりの人らにもおかしな医療を薦めることで、治療を行わう必要がある病気に使ってしまい通常治療を拒否することになるのは大きな問題だ。新型コロナウイルス感染者がホメオパシーのレメディに頼って症状を悪化させてしまうなどが起こらないようにしたい。


根拠のない「新型コロナウイルスの感染予防にアオサが効果的」
(略)

 

「首から下げるバカ発見機」と揶揄されていた空間除菌できるというグッズ
 そのインチキを見抜けない人が多いことと消費者庁の対応の遅さもあって大ヒットしたのが、二酸化塩素で空間除菌できるとするグッズだ。2014年3月に消費者庁が「二酸化塩素を利用した空間除菌を標ぼうするグッズ販売業者17社に対する景品表示法に基づく措置命令について」を出して、少し沈静化した。消費者庁は「効果を裏付ける根拠がない」として、17社に表示変更を求める措置命令を出したのだ。発売当初からSNSなどで、「首から下げるバカ発見機」と揶揄されていた製品だ。

 

 新型コロナウイルスが取り沙汰されるとマスクの代わりになるのではないかと「クレベリン」のスティック状のもの、スプレーや置き型の製品が売れているという。しかも薬品会社が販売しているのだが「薬品」ではなく「雑品」だ。だから特定のウイルス・菌に対する効果は薬機法(旧薬事法)上うたえない。エビデンスも弱い。閉鎖空間での試験結果のみ。もちろん新型コロナウイルスへの効果は確認されていない。

 

 なお二酸化塩素に殺菌力がないわけではない。しかし、口や鼻に効果がある濃度で吸い込まれたら喉の炎症などが起こり、逆に新型コロナウイルスに感染しやすくなるだろうと推測する。効果がある濃度・量ではないので副作用が起きていないだけだろう。

 

3.11で福島に広く入り込んだEM菌はどうだろうか?
 拙著『暮らしのなかのニセ科学』で、「もっとも危険なニセ科学、EM」という章を立てたEM(通称EM菌)は、3.11後の福島に「EMは元素転換力があるのでセシウムなどを別の元素に変えて放射能をなくせる」「海水塩はEMの元素転換力で肥料になる」などと広く入り込んでいる。

 

 EMの開発者比嘉照夫氏はエボラ出血熱やHIVなど多くのウイルスに効果があると述べる。そのせいかEMホテルで有名なホテル「EMウェルネスリゾート コスタビスタ沖縄 ホテル&スパ」では、新型コロナウィルスの感染予防対策として、「ロビーに発酵液と消毒液の設置を増設しており、手の消毒を推奨しております」としている(以前は公式サイトに「EM発酵液」と表示していた。現在はEMを削除し、「発酵液」にしているが問題点は同じ)。

 

 実はEMを構成している菌を分析した片瀬久美子「EM菌の正体(構成微生物を調べました)」によると、肝心の光合成細菌が見られず、「EM菌を加えた培養液中にアシネトバクター属のAcinetobacter ursingiiが増えていました。この細菌は「日和見感染菌」として血液感染症から比較的高頻度で検出されています」との結果だった。

 

 このようないわば雑菌の集まりのEMの発酵液(EM活性液)で手の消毒をするのはいかがなものか。

 

 またEMの発酵液を自己責任で飲んだり噴霧したりしている人らがいる。片瀬さんが述べるように「特に易感染者(持病等により免疫系が弱っている方々、高齢者、乳幼児など)は止めておいた方が良いと考えます」。

 

 新型コロナウイルスの個人ができる対策は、手洗いなどウイルス対策の基本を守り、メンタルが元気(不安に支配されない)で、ストレスが適度で、美味しいと思うものをバランスよく食べ、適度に寝る時間を取るという生活が大事だと思う。

風船爆弾 ジェット気流が運んだ日本軍の秘密兵器

by左巻健男『面白くて眠れなくなる地学』PHP文庫 2021

ジェット気流が運んだ秘密兵器

・日本軍の秘密兵器
 第二次世界大戦中、敗色こくなった日本軍が採用した戦術の一つに「風船爆弾」があります。アメリカ本土を攻撃するため、気球(風船)に爆弾をつり下げ、ジェット気流(偏西風の流れ)に乗せて、数日かけて飛ばす無人気球兵器でした。「風船爆弾」は、日本軍にとって、アメリカ国内の攪乱をねらった秘密兵器だったのです。世界でも例を見ないこの兵器は、後に「ふ号」兵器と呼ばれました。
 1944年の秋から1945年の春にかけて、約9000個が放たれました。そのうち、数百個がアメリカ本土にたどり着いたとされています。
 秋から冬にかけて日本上空を強い西風が吹くことは、当時から知られていました。現在のつくば市にあたる場所に高層気象台があり、気象台の台長であった大石和三郎らは、軍部の要請を受けて不眠不休で上空の大気の流れを研究しました。
 その結果、日本の上空から北アメリカ大陸の上空に向けて、上図のように2種類の経路で冬期に時速200キロメートルを超える西風が吹いていることを確認しました。
 この西風を利用して、風船爆弾アメリカ本土を攻撃する作戦、「ふ号作戦」が計画されたのです。

風船爆弾放流地跡の碑文
 今も、風船爆弾放流地跡の碑が、茨城県北茨城市大津町、五浦の海岸線沿いに建っています。 碑文には、風船爆弾がどのようなものだったかが詳しく書かれています。(碑文に句読点とルビを加えています。)
 “この辺一帯は、昭和19年11月から昭和20年4月の間、アメリカ本土に向けて風船爆弾を放流させた地です。
 背後の低い丘と丘にはさまれ、現在は田んぼに復元されている幾つもの沢に、放球台や兵舎、倉庫、水素タンクなどが設置されていました。
 これは極秘の「ふ」号作戦といわれ、放流地はほかに福島県勿来関麓と千葉県一の宮海岸、あわせて3か所でしたが、大本営直属の部隊本部はこの地にあり、作戦の中心でした。
 晩秋から冬、太平洋の上空8千メートルから1万2千メートルの亜成層圏に最大秒速70メートルの偏西風が吹きます。いわゆるジェット気流です。
 風船爆弾は50時間前後でアメリカに着きます。
 精密な電気装置で爆弾と焼夷弾を投下したのち、和紙とコンニャクのりで作った直径10メートルの気球部は自動的に燃焼する仕掛けでした。
 第二次大戦中に日本本土から1万キロメートルかなたのアメリカ合衆国へ、超長距離爆撃を実行したのはこれだけであり、世界史的にも珍しい事実として記録されるようになりました。
 約9千個放流し 3百個前後が米国到達。
 アメリカ側の被害は僅少でしたが、山火事を起したほか、送電線を故障させ原子爆弾製造を3日間遅らせた という出来事もあとでわかりました。
 オレゴン州には風船爆弾による6人の死亡者の記念碑が建っています。
 ワシントンの博物館には不発で落下した風船の1個が今も展示され、深い関心の的になっています。
 しかし戦争はむなしく、はかないものです。
 もう二度とくり返さないように努めましょう。
 この地で爆発事故のため、風船爆弾攻撃の日に、3人が戦死したことも銘記すべきでしょう。
 永遠の歴史の片隅で人目を偲び、いぶし銀のようにささやかに光る夢の跡です。

 昭和59年11月25日建之”

・本体は和紙をコンニャク糊で貼り合わせた
 気球の球皮は、楮(こうぞ)を原料とした和紙を、コンニャクを原料とした糊で5層重ねて貼り合わせたものが使われました。
 最もつらく、手間がかかり、緻密さが要求される貼り合わせの作業に動員されたのは、女子学生たちや女子挺身隊でした。
 当時、コンニャクは食用には回らず、おでんのネタに使うなどということはできなかったといいます。

・飛び続けるために必要なもの
 偏西風が確認されたからといって、気密性の高い気球に水素を入れ、爆弾をつるして空に上げればアメリカに届く、という単純なものではありません。
 気球を遠くまで確実に飛ばすには、夜をどうやって乗り切るかが重要でした。夜になると、上空は気温が低下して気球が縮み、浮力が小さくなります。水素も、少しずつもれていきます。
 そこで、風船爆弾には、浮力が小さくなったら自動的におもりを落とし、高度を維持する装置がつけられました。気圧計で気圧変化を検知すると歯車1個分ずつ回転板がまわり、一定以上の高度が下がる(気圧が上がる)と電気スイッチが入り、砂のおもり(バラスト砂)のひもを焼き切って落とすしくみです。
 アメリカがもっとも恐れたのは、風船爆弾から伝染性の細菌などがばらまかれることでした。そこで、地質学者にバラスト砂の分析を依頼し、砂に含まれている鉱物の割合から、砂の採取地を日本の5カ所にしぼりこみました。
 アメリカは偵察機を飛ばし、ついに放流地を探り当てます。そのため、戦争末期には、風船爆弾は上昇中にほとんどアメリカの戦闘機に打ち落とされてしまいました。

・平和へ向けて
 1945年5月5日、アメリカのオレゴン州で、ミッチェル牧師夫妻と日曜学校の子どもたち5人の計7人が、森にピクニックにでかけました、夫のミッチェル牧師が車を広場に止めようとしていたとき、6人は歩き出していました、子どもの一人が、木に引っかかっていた不発の風船爆弾を触れてしまいました。地面が揺れるほどの大音響とともに、大爆発によって6人が亡くなるという事故がありました。
 当時、アメリカは、完全な報道規制をしいていたため、事故後、ずいぶん年数が経ってから日本に伝わりました。戦時中に球皮を貼り合わせる作業に従事していた元女子学生たちは、その事故を知って心を痛め、アメリカに慰霊に訪れました。
 現地を訪れた彼女たちに、アメリカの遺族は「お互いに許しあうことが、平和に通じる」という言葉をかけてくれたということです。

 

https://www.amazon.co.jp/%E9%9D%A2%E7%99%BD%E3%81%8F%E3%81%A6%E7%9C%A0%E3%82%8C%E3%81%AA%E3%81%8F%E3%81%AA%E3%82%8B%E5%9C%B0%E5%AD%A6-PHP%E6%96%87%E5%BA%AB-%E5%B7%A6%E5%B7%BB-%E5%81%A5%E7%94%B7/dp/4569901743
面白くて眠れなくなる地学 (PHP文庫) – 左巻健男 2021/9/10

オーセンティックな知を学校で教える

 オーセンティックな知を学校で教える
    H14年1月 某フォーラムでの講演の一部
    左巻健男(当時京都工芸繊維大学教授)


 私が最近、このオーセンティックな知というのを言っております。これは本物の、あるいは日本語では真正というように訳します。今はこのオーセンティックあるいは、その本物性ということで、オーセンティシティという言葉がありますが、これを考えなくてはいけない。それはどういうことかというと、学校の中だけで役立つ知識というものをかなり学校教育というのは、やっています。つまり学校の外に出たら役に立たない。よく『生きる力』などということが言われますけれども、本当にそれは学校の中では生きる力になる。それでもっていい学校に進めるとか、中間、期末試験の点数が取れるとか、そういう点では学校の中では役に立つ。しかしそれでいったん外に出て、自分が学んだことと自分との関わりというものを意識し始めようとすると、学校で学んだことというのは学校に置いてきちゃっている。僕はこういうのが今のいちばんの問題ではないかと。
 つまり子どもたちは何のために勉強するのか。これは本来的な子どもの内的なものというのが浮上して出てきているのに対して、学校教育はやはりまだ応えられていないのではないかということであります。僕は最近はこの知のオーセンティシティ、知の真正性ということと、知の総合化ということを一応キャッチフレーズに話をしております。
 本物の知というのは学校から出ても使えるものです。ですから、理科で学んだこと、社会科で学んだこと、国語で学んだこと。国語で学んだことというのは何か。本物の知というのはリアルな課題に適用が可能です。現実的に意味ある人生のリテラシーに関わる知です。
 私は専門が理科教育でありますので、基盤の自然科学、社会科だったら社会科学とかいろいろあると思いますが、その知をコアにして教えていることがどのくらい現実の問題に触手を延ばしてもっと絡んでいるかどうか。
 僕はそれぞれの教科そのものだって総合だと実は思うのです。教科が何かに分断された蛸壺のようなことを教えているわけでないです。だいたい理科といっても自然科学そのものをそのまま教えているわけではないです。そこには自然科学を例えば社会との関連で見るとかというのもかなり入っています。
 そうすると、実は理科なら理科という科目、コアとしては自然科学がありますけれども、実は触手を伸ばして社会科と結び付いたり、国語と結び付いたり、算数、数学と結び付いたり、様々な教科と結び付いています。その結び付きというものを理科の教員は意識しなくてはいけない。逆に、社会化の教員が何かを教えるときに理科の教育ともやはり触手を絡ませたい。
 ですから、僕は一つひとつの教科でさえも総合教育なのだ、総合学習なのだというふうに思います。それが生活ともつながっています。産業ともつながっています。いちばん重要なのは「人生とつながっていますと言えるようなことを教えていますか」ということです。

大久野島紀行 瀬戸内海に浮かぶウサギの島、旧日本軍毒ガス工場の島

 瀬戸内海に浮かぶウサギの島、旧日本軍毒ガス工場の島

 大久野島紀行 RikaTan2010年6月号 左巻 健男 Takeo SAMAKI

大久野島はどこにある?
 「大久野島(おおくのしま)に一緒に行かない?」
 「どんな島なの?」
 「旧日本軍が秘かに毒ガスを製造していた島だよ。その毒ガスで今も中国本土などで被害者が出ているね。」
 「毒ガス?嫌だわ。」
 「いや、今はウサギ島で有名なんだ。それと平和学習の島にもなっているんだ。」
 などという話をして、ツレと大久野島に行くことにしました。
 忠海(ただのうみ)駅から徒歩7分の忠海港からフェリーで約12分、大久野島に着きます。

◎ウサギと遊ぶ!!
 港から休暇村のバスで本館へ。本館前でバスを降りると、ウサギたちがお出迎えです。現在、島内には約300羽のウサギがいます。
 フロントで「ウサギのごはん」が販売されています。本館前の広場で、エサをあげると寄ってきます。本館前にいるウサギが一番人慣れしていて、本館から離れて山中にいるウサギほど人慣れしていないようです。
 宿泊客には希望者に朝の散歩会があります。今回は、ぼくとツレだけでした。スタッフの引率者はウサギのエサが入ったバケツをもっています。エサを貰えるということがわかっているらしく、ウサギたちが走り寄ってきます。このウサギたちは、島外の小学校などで飼われていたウサギが持ち込まれて増えたということです。

◎レンタル自転車で島一周
 島は周囲4.3キロメートルだから歩いても十分大丈夫。歩くのは次の日に島の中央部にある標高100m弱の「ひょっこり展望台」へ行くのでとっておいて、まずは自転車で一周です。
 休暇村から時計回りに自転車を走らせると、すぐに長浦毒ガス貯蔵庫跡が見えてきます。約100トンの毒ガスタンク6基が置かれていました。戦後処理のとき、火炎放射器で焼き払ったので、壁面が黒くただれたようになっています。
 さらにしばらく行くと登り道になり、明治時代中期、日露戦争の時代におかれた砲台の跡があります。
 港の手前で周遊道路から少し入ると「発電場跡」があります。山中に異様な姿をさらした廃墟になっています。
 ちょうど休暇村本館に帰着したとき、太陽が没するところでした。

◎夜のウミホタル発光観察会
 ツレが楽しみにしていたのが、ウミホタル発光観察会。ツレは高校生物教員時代に何度も遠くまでウミホタル採集に出かけて高校生に見せていたからです
 ワイングラスにうようよいるウミホタル。電極を差し込むと青白い幻想的な光が見られ、参加者たちは歓声を上げていました。

◎展望台へのお散歩
 展望台への散歩道では、春にはコバノミツバツツジミモザオオシマザクラの花がきれいです。
 展望台からはNHKひょっこりひょうたん島」のモデルにもなった瓢箪島やしまなみ海道の多々良大橋も見ることができます。
 高さ226メートルの送電線も近くに見ることができて圧巻です。

◎地図に載っていなかった島
 1929年旧日本陸軍により大久野島に毒ガス製造工場が設置されました。1945年終戦までこの島は秘密の島として地図から抹消されていました。

 大久野島毒ガス資料館は、島の毒ガス製造の歴史と毒ガスによる被害を展示しています。毒ガスの悲惨さが伝わります。

 

日本の平均寿命は1970年に世界のトップになって以来、トップグループを維持

 日本人の平均寿命は、明治・大正時代は40歳代でした。そして、50歳を超えたのは1947年(昭和22年)のことでした。歴史的にみれば、本当に最近の話なのです。
(なお、平均寿命とは、0歳児の平均余命のことです。)

 

  日本は、平均寿命が50歳を超えてから20年間で飛躍的に寿命が延び、1970年には世界一になりました。


 これには日本人の遺伝的素因、日本人の乳幼児の死亡率の低さ、国民皆保険制度の存在や高齢者に対する医療制度の存在、 高齢になっても勤労意欲が高いこと、社会が比較的平等で、貧富の差が少ないこと、学校教育制度が確立しており、教育によって国民全体の健康に関する知識や関心が高まっている可能性、などが原因と考えられます。

 

  日本人の食事や運動、入浴などのライフスタイルが長寿に適していることも考えられます。日本には独特の食習慣があります。先進諸国中で脂肪摂取量が飛び抜けて少なく、米飯を中心としてた炭水化物の摂取が多くなっています。また魚や豆腐や納豆、味噌などの大豆製品のの摂取が多いことも特徴的です。
 これらは動脈硬化の進行を防ぐには理想に近い食習慣でしょう。毎日入浴し、身の回りを常に清潔に保つ、このことが感染症の予防につながっていると推測されます。

ラジウム温泉(ラドン泉)で放射線被ばくは大丈夫か?

【子ども向け元素本(編著『元素のふしぎ366』)でラドンのところを書くので…】
※知ってほしいのは「放射線ホルミシス効果」なるものは、定説になっていないこと、一生懸命これが立証できれば「低レベル放射線は健康に良い」といえると研究してきた電力中研もダメだったようだ。
 しかし怪しげな商売人達がこの効果にすがるので要注意だ。
 ある自称温泉博士の本でもこの効果で放射能泉を説明していた。素人を騙すなよ!
ラジウム温泉ラドン泉)で放射線被ばくは大丈夫か?
 わが国は、世界屈指の温泉大国です。さまざまな温泉の中には130カ所以上もの「放射能泉」とよばれる温泉があります。とくに有名なのは、三朝温泉鳥取県三朝町)、有馬温泉兵庫県神戸市)、増富温泉(山梨県北杜市)などです。
 放射能泉の定義は「温泉水1キログラムの中にラドンが111ベクレル以上ふくむものとされています。文字通り放射性同位元素がふくまれている温泉です。
 とくにラドンラジウムの含有量が多い放射能泉は一般に「ラドン泉」「ラジウム泉」とよばれています。ラドンラジウムの大元は、地下深くにあったウラン238です。ウランがマグマによって地表近くにやってきて、河川や雨水に溶け、地下水に入り、温泉としてわき出てきたものが放射能泉なのです。ウラン238半減期は約44.9億年で、最終的には鉛206になって安定します。その間におよそ11段階の壊変が起き、放射性娘核種ができていきます。そのなかでもっとも重要なのが、5段階目に出来るラジウム226です。ラジウムの次の壊変で、気体のラドン222が生まれます。
 ほとんどの放射能泉では、一般的に、ラドン含有量に比べてラジウムの含有量が非常に低いです。ラドンの含有量が多い放射能泉ではラドンを吸入することになりますが、ラドン222はアルファ線を放出します。
 放射能泉の効能は、「微量の放射線はむしろ健康によい」とするホルミシス効果を根拠にしています。しかし、放射線ホルミシス効果は、現段階では仮説に過ぎず、異論のほうが強いものです。ですから放射線ホルミシスを元に健康によいとする説明のものには近づかないほうが無難でしょう。
 一方、自然界にあるラドンは、比較的低濃度でも肺がんを引き起こすリスクがあるとのデータが出てきています。2005年6月、世界保健機関 (WHO) は、ラドンは喫煙に次ぐ肺がんのリスク要因として警告しています。
 では、放射能泉での被ばく量はどの程度になるのでしょうか。増富温泉で調べられた場合、1年間毎日2時間利用した場合でも年間被曝量は平均0.8ミリシーベルトで、一般人で自然放射線以外に余分に被ばくしてもいいとされる1ミリシーベルト以下なのでたまに入るくらいなら怖れる必要はないでしょう。
 なお、トロン温泉とよばれる放射能泉がありますが、トロンという元素があるわけではありません。トロンはラドン220のことなのです。ラドン220は、トリウム232が大元でできます。ラドン222と区別するためにトロンとよんでいます。ラドン222と似たような性質で半減期が短いです。

左巻健男『面白くて眠れなくなる化学』PHP文庫版の「文庫版あとがき」と「はじめに」

面白くて眠れなくなる化学 (PHP文庫) 文庫  2017/4/5

アマゾン→ https://www.amazon.co.jp/%E9%9D%A2%E7%99%BD%E3%81%8F%E3%81%A6%E7%9C%A0%E3%82%8C%E3%81%AA%E3%81%8F%E3%81%AA%E3%82%8B%E5%8C%96%E5%AD%A6-PHP%E6%96%87%E5%BA%AB-%E5%B7%A6%E5%B7%BB-%E5%81%A5%E7%94%B7/dp/4569767257/ref=tmm_pap_swatch_0?_encoding=UTF8&dib_tag=AUTHOR&dib=eyJ2IjoiMSJ9.ft_KJMjn55jLJAh2Q1sjYrIdtMi36HutJzJ5D3R4CLRvgChtZddoPWzsUT3ExgjHTiB_z84rBfBF9PGc-4qIVX1OnlObxmPmEHRNs5Ji0SEbed3QV1AoDo6yQ2DYMxIKT98BbFn7QhA8WYMfnPxn8EBy26p_jDaE2WlCFZY9fDNwVsw6rnxTtPxQW1Yc383Nxi91hcyhMsYyhEQ0lIhcTPrmR1xjWbc3dscqnuLuEjI.Lw0n1Z-FNiHC69DiGCBlko6Vnq3slKJ5n5er8Wgw15w&qid=&sr=
ロウソクの火が消えると酸素はどうなる? コーラを飲むと歯や骨が溶ける? ケーキの銀色の粒の正体は? 紅茶にレモンを入れると色が変わる理由は?――人気シリーズ「面白くて眠れなくなる」の第三弾は「化学」がテーマ。
中学、高校の理科で勉強する「化学」を題材にさまざまな事象について解説。身の回りのものにこんな秘密があるなんて! と驚くネタが満載です。化学の世界は不思議とドラマに満ちている! 面白く読めて教養も身に付く一冊。
【本書の目次より】爆発とは何だろう?/水を飲み過ぎるとどうなる?/「温泉」「入浴」をめぐるウソ・ホント/「アルカリ性食品は身体によい」はウソ/折り紙の銀紙は金属?/缶詰のみかんのひみつ/洗濯機で手作りスライム/輪ゴムができるまで/水に沈む氷

文庫版あとがき

 PHP文庫版になるにあたり、全体を読み直してみました。読了して、本書執筆のきっかけや執筆に集中していた時期を思い起こしました。
 本書を書く前に、ぼくは『面白くて眠れなくなる物理』を出したばかりでした。その本を引き受けたときに、「書き終えたら、化学でも書かせてほしい」と頼んだこと、「化学でも企画が通りましたよ」と言われて、一心不乱に本書を書き上げたことを思い出したのです。

 ぼくは、長く中学校・高等学校の理科教員を務めました。そのとき、化学の授業は、いつも平明なもの、生徒の興味をひくもの、本質的なもの、を目指すべきだと思って取り組んできました。
 マイナス二〇〇℃近い低温の液体窒素でいろいろなものを冷やしたり、カルメ焼きに熱中するような、「物質にいつも触れる、物質が身近になる、物質の世界が見えてくる」ような化学の授業をしたかったのです。
 そのような、物質に触れあう実験だけではなく、新しい世界を広げてくれる知識も大切と思い、いつも原子論というミクロなレベルの理論とともに、物質の性質や物質の変化といったマクロなレベルの世界を統一することも意識しました。さらに、その理論と実験が生活や社会と広くつながっていることを大事にしなければならないと思っていました。

 本書の内容には、ぼくが長年にわたって理科教員として心がけてきた、そのような化学の授業がバックにあります。
 ビジネスマンなどへの調査で、化学は学習して役立たない科目の上位にあげられてしまいます。高校で化学選択者はたくさんいるし、化学物質とのつきあい方について正しい判断力を必要とされる時代だというのに、化学の面白さや生活と化学との関係についてあまり伝えられていないという状況があるようです。
 本書は、化学の啓発書として、ちょっと違ったアプローチになっていると自負しています。基礎的・基本的な知識についてはいくつかの別の著作で展開していますが、本書では、ぼくが長年、化学を教えてきた中でその神髄をやさしく伝えたいという心を込めたつもりです。本書が文庫になり、さらに多くの読者に化学の面白さの一端を伝えられるとしたら大変嬉しいことです。

          二〇一七年三月 左巻健男 
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 はじめに

 ぼくがこの本を書いたのにはわけがあります。

 化学は面白い!

 ズバリ、このことを読者のみなさんにわかってもらいたかったからです。
 化学はとても面白くて魅力的で、物質の世界のあらゆることを記述しており、実は身の回りの様々なところでも、その考えや法則は関係しています。
 化学で面白いのは、物質の性質や変化の実験だけではありません。化学の本質的な知識は、新しい世界を広げてくれます。
 本書では化学の基礎・基本の、多くの人々が学校で学んできた中学校や高校初級の理科の中の化学を素材として取り上げるようにしました。
 学校の化学に興味を持てない人が多いのは、その内容が抽象的で実感がわきにくい、わかったという気持ちにならない、生活や人生に無関係で学校から出れば不要な知識だ、などたくさんの理由があるでしょう。
 ぼくは、小学校・中学校・高校初級の理科教育を専門にしています。もともと中学校・高等学校の理科教師でした。理科教師をしているときのモットーが、「家族の食事のときにその日の授業の話題で盛り上がるような授業をしよう」でした。
 理科の授業を通して、知って得をした、知って感動をした、知って心がゆたかになった、考えてわくわくした…というような気持ちを持ってもらえるといいなと思っていました。本書は、そんなぼくの「とっておきのはなし」を文章化しています。
 科学は、不思議なドラマに満ちた世界を少しずつ解明してきました。自然の世界の扉を少しずつ開いているのです。まだまだわからないこともたくさんありますが、わかってきたこともたくさんあります。
 理科教育の専門家として、そのわかってきていることの、さらに基礎・基本の中からテーマを取り上げて、「ほら、もう一歩、こんなことまで考えれば面白いでしょ!?」といいたいのです。

 本書を読んで、「この場合はどうなのだろう?」「あの場合はどうなのだろう?」などと新しい疑問がわいてきたとしたら、ぼくの試みは成功かもしれません。例えば、ぼくたちにとって身近な「食塩」の主成分の「塩化ナトリウム」は、ナトリウムと塩素からできています。
 実は、そのナトリウムは水の中に投げ込めと、化学反応で爆発を起こす物質です。塩素は、毒ガス兵器に使われた毒性の強い物質です。それらが化学変化で一緒になることで、普段私たちが当たり前に使っている調味料=食塩になるのです。その食塩でも量によっては中毒を起こすことがあります。
 このような発見、驚きを提供することで、感動する理科、心をゆたかにする理科を目指して、さらに研究していきたいと思っています。

 ぼくは、化学を楽しむためには、「物質とつきあう、物質が身近になる、物質の世界が見えてくる」ことでなければならないと考えています。ぼくはカルメ焼きに熱中するような、物質にいつも触れるような化学教育をすすめたいと思っています。

学びのある授業と学びがない授業(左巻健男『おもしろ理科授業の極意』東京書籍の一節)

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学びのある授業と学びがない授業

 東大附属中高で同僚だった草川剛人さん(帝京大学)から聞いた話。彼は日本史が専門で、若い頃は落語を聞いて話術の技を学んだという意欲的な教員だ。日本史でも黒板とチョーク、それに話の授業ではなく、実物的な教材なども用意して授業をしていた。

 

 東大附属は、よく東大教育学部の先生方がゼミの学生を引き連れて授業見学に来た。彼の授業を見た教授から、当時東大教育学部長だった佐藤学さん(学習院大学)にその授業の様子を聞いた。それで、彼が佐藤さんと会ったときにいわれた。「草川さん、この前、いい授業をしたんだってね」。続けて「教員の責任は、すぐれた授業をすることではない。子どもが学ぶ授業をすることです。教師の責任は一人残らず学ぶ権利を保障することです」。その言葉が、彼が佐藤学さんが提唱する「学びの共同体」に参加したきっかけだという。

 

 私はそれを聞いてから、佐藤さんが述べている「学校の役割・教師の責任は、すぐれた授業をすることではない。一人残らず学ぶ権利を保障し、高いレベルに挑戦できる機会を保障することだ」ということを意識している。

 

 私たちは、いわゆるすぐれた授業ができるようになることを求めがちだ。

 子どもたちが活発に次々と発言する。それらの発言を引き取って、教員が発言をまとめ、次の発問をする。また活発な発言が続く。外から見て、そんな授業は、とても華やかだ。しかし、そこに学びがあるかどうかが大切なのだ。教員の話が下手でも、活発な発言がなくても、そこに学びがあるかどうか。

 「学びがある」とはどういうことか。

 すでにわかっていることを確認することは学びとしてはとても低い。今はわかっていないことがわかっていくことが学びなのだ。それを私は「未知への探究」と呼んでいる。今はわかっていないこと、つまり今より高いレベルに挑戦する。しかも一部の子どもだけではなく、一人残らず挑戦していることが、「学びがある」授業ということなのだと思う。

 

 発問に対して子どもたちが「はい!はい!」と挙手し、活発に次々と発言するような授業をよく見ると、発問内容のレベルが低い。既知の、当たり前の内容だからどんどん発言できるし、発言する子どもが偏っていたり、思いつき的な内容も多かったりする。

 発問内容のレベルが適切でも、活発な発言の陰に「わからない」子どもが隠れてしまっていることもある。

 

 佐藤学さんが「授業をしっとりしたものに。教員はテンションを上げない」と述べているが、テンポを上げないでじっくりと考えるようにし、しっとりと落ち着いて語りかけることも意識したい。きっと学びのある授業は表面的な活発さはなく、一人一人がよく考えているので落ち着いた雰囲気になることだろう。

 

 そこで先述のように、私は課題方式の授業で、課題への〈自分の考え〉を書かせている。そのぶん授業のテンポは遅くなるが、学びはじっくり進めたほうがいい。人の意見を聞くことも大切だ。自分の考えと人の考えをすり合わせて考えを深めるのだ。そこで「人の意見を聞いて」も書かせている。

 

 子どもの発言や教員の説明が一段落したときに、よく「わかった人?」と聞いてしまう。挙手させれば、何がわかったのかわからない子どもも挙手することだろう。「わからない」とは言いづらい。だから、「わかった人?」とは聞かないで、わかっていれば答えられるような発問を投げかけたりする。それで自分の考えを書かせてみれば、「ここまでは大丈夫だな」「もう少しここのところはアプローチしよう」とか判断することができる。

 質の高い学びのために、授業に未知への探究の要素があるかどうかをいつも意識したい。