左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

デンマークで見学した中学理科の授業「石油のクラッキング」の話

 私は、デンマークに行ったとき、中学校で理科授業を見たことがあります。非常に印象的な経験でした。

 デンマークでは、中学校一年、二年、三年がありますが、希望者には四年というのもあります。これは自分が希望して中学の勉強が足りないと思うと四年目の一年を過ごした後で、その先に行くというための四年があります。ほとんどの人は四年にならず先に進みますが、四年に行く人もいるわけです。私が見学したときは女子四人ぐらいのクラスで、授業の内容は「石油のクラッキング」でした。

 私は化学の知識があるので、先生が黒板に書かれた化学式でAl2O3を見て、一緒に見学に来ていた在住の日本人に「これは活性アルミナ触媒と言って化学反応を速めるものだ」と説明をしました。授業は、デンマーク語だったので、私の想像になりますが、私たちの光景を見た先生が生徒に、「この元素記号や式は、世界共通だから、見学している日本人にも理解できるんだよ」と説明していたと思います。

 そのクラッキングの授業ですが、プリントに炭素原子の「C」が横に並んで書かれ、そこに枝があって水素原子「H」がついている。おそらく、原油の中の炭素の数が多いものを代表して表している。触媒を使って熱することで、並んでいる炭素を切断し、炭素数が小さいものにするというのがクラッキングです。そうすると使いやすいものがいっぱいできるわけです。今でもどの国でも原油クラッキングを行っていると思います。クラッキングの方法にはいくつかありますが、一番多く行われているのが接触分解法という触媒を使った方法です。

 先生が学生に手渡したプリントに書いてあることを少し説明すると、すぐに「じゃあ実験をやろう」と、きっとデンマーク語で言ったんだと思います。授業は、理科室でやってたんで、彼女たちの机の棚の下のところを開けると、いろいろ道具が、ガラス器具の道具とかが入ってて、それを机の上にあげました。それが蒸留装置なんです。

 枝が付いたフラスコとかに冷却管をつけて、集めるための蒸発皿をおいていました。フラスコには、パラフィンとアルミナ触媒を入れて、フラスコの枝のところにゴム栓に通した温度計の球がくるようにして栓をしました。フラスコを熱してやるとゴボゴボと沸騰してくるんです。冷却管で冷やされた気体が、液体になって流れ落ちる温度を確認しながら、蒸発皿に温度範囲で一つ一つ取り分けていきます。四つくらいとったものに火をつけると、最初に取ったものは煤の少ない、輝く炎で、次第に煤が多い炎になっていく。これは初め出たものは沸点が低い、炭素数が少ないもので、分子全体の中で炭素の割合が少ないから煤が少ない。そして炭素の数が多くなってくると煤が多くなってくる。その燃え方の炎を見てわかるという実験をやってました。

 その学校は、デンマークのずっとコペンハーゲンから離れた学校でしたが、途中には海上風力発電があり、 農地にも風力発電所があり、風力発電を盛んにやっている国です。そして、油田も開発され、その油田から取った原油を大切に使うとなると、クラッキングを中学生に教えてるわけです。学んでいる内容は高度なものでした。

 エネルギーの問題は、自分たちの文明を支えてる根幹になります。それを「中学校で実験も含めて理科の時間に教えていることはすごいな」と思った経験談でした。