左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

左巻健男がダイヤモンドを燃やすのにトライした話

 下記のその後、探偵ナイトスクープで炭火ならぬ「ダイヤモンド火」で「松茸を焼いて食べたい」という小学生の希望に応える実験をしましたが、最初にダイヤモンドを燃やしたときの話を紹介しておこうと思います。


【ダイヤモンドを燃やして,生徒たちに見せたい!】
 中学校化学分野高校化学の授業で、「ダイヤモンドは、炭素原子だけからできている。燃やすと全部二酸化炭素になる」という話をする。これを、話だけではなく実際にやって見せられないか。
 左巻健男は、ダイヤモンドの燃焼に取り組んでみようと思ったとき、電子ネットはもとより直接会った中学校・高校の理科教師にも「ダイヤモンドを燃やしたことはあるか」と聞いて回った。授業の「話」としてはよくされている内容だが、実際に自分が燃やしてみたという方はいなかった。となると、何とか燃やしてみたいと思うものだ。
 まずダイヤモンド原石の入手である。
 どうしたらダイヤモンドを入手できるか?
 ダイヤモンドの業界団体に電話をして,そのつてで、ダイヤモンドの輸入業者を紹介してもらった。ダイヤモンド輸入業者さんのオフィスで,実際に原石を見せてもらい,ダイヤモンド原石を入手することができた。0.05グラム程度の無色透明の原石である。
 ダイヤモンドは炭素だもの,原石が入手できたからには後はお茶の子さいさい,簡単に燃やすことができるとふんでいた。

【ダイヤモンドは燃えない!】
 早速,ガストーチで強熱してみた。びくともしないのだ。赤熱状態になるものの加熱を止めればスーッと元の状態に戻っていくのである。ならば,強熱後すぐに酸素ガスを吹きかけてみよう。それでもびくともしない。こうして簡単にはダイヤモンドは燃焼しないことがわかったのである。
 当時は,パソコン通信ニフティ)の化学系や理科教育系のフォーラムに積極的に書き込んでいた。パソコン通信でさまざまな情報が得られた。とくに地球化学のほうで小島稔東大名誉教授が講義でダイヤモンドの燃焼を演示していること、テレビ番組で見たなどの情報が得られた。
 さらに科学教育研究協議会全国研究大会で中間報告をしたところ、東京の私立保善高校和田教諭が成功しているという情報をいただいた。和田教諭にも協力を要請した。1回燃やせたという和田教諭も,私たちの前では燃やすことができないのである。
①失敗1
 原石をピンセットで摘み、ガストーチで赤くなるまで加熱する。
・赤くなるまで加熱したものを酸素ガスで満たした丸底フラスコの中に入れる
・触媒として酸化鉄(赤色)を擦り付けたもので同様の加熱をする
・針金で吊しメッケルバーナー上で加熱する
・メッケルバーナーで加熱しつつ酸素ガスを吹き付ける
 等、順に試みたが、どの場合も燃えはじめない。
②失敗2
 備長炭に窪みを掘り、そこにダイヤモンドを入れ、強熱して、真っ赤になったら加熱を止め、すぐに酸素を吹きかける。燃えはじめない。この方法は和田志朗さん(保善高校)の教示による。
③失敗3
 2つ穴を開けたゴム栓にステンレス製の串を2本刺し、ガラス管も付けた。串の穴(リングがついていたところ。先ではなく根元)に、0.8ミリのニクロム栓をコイル状にして90cmとりつけ、そのコイルの中に三角架のセラミック筒を半分に切った物を入れた。筒半分のところにダイヤモンドを乗せて、これをフラスコに入れ電流を流して加熱し、酸素を吹き付けた。 電流を流し、赤熱したところで酸素を吹きかけた。ニクロム線が焼き切れた。
④失敗4
 ダイヤモンドを入れた丸底フラスコに酸素を送り込みながら、ダイヤモンドをバーナーで強熱したが、全然無理。
⑤失敗5
 ダイヤモンドを入れたパイレックス試験管を酸素を流しながら熱すると、試験管に穴が空くだけ。
 失敗に次ぐ失敗だった。それはそれでダイヤモンドの共有結合の強さのすごさを実感した。

【ついにダイヤモンドが燃えた!】
 ダイヤモンドが燃えないはずはない。ラボアジェは,太陽光をレンズで集めて燃やしたというし,ファラディも燃やしたという記録がある。理化学辞典第五版(CDROM版)の「炭素」には,「ダイヤモンドは700〜900℃で酸素と反応する」とある。
 結局は燃え出す温度まで行っていないのだろう。ならば,熱が逃げにくい状態でやってみよう。ぶっつけ本番で,ある日の化学の授業で試みることにした。
 砂皿の上に三角架のセラミックの筒(ダイヤモンド原石がすっぽり入るように穴を広げた)を立て、ダイヤモンドを置き、ハンドバーナー(炎の温度が焼く1650℃と説明書きにはある)で強熱したから、酸素ボンベからの酸素を吹きかけるという方法である。これなら,熱が逃げにくくして高温を保ってから、酸素を吹きかけることができるだろう。
 ついに発火したのである。白く輝きながらダイヤモンド原石が燃えていった。いったん発火したら酸素を吹きかけ続ければ燃え続けた。日頃の苦労を語っていたためか,生徒たちから拍手がおこった。
 酸素雰囲気中で,いったい何度でダイヤモンドは燃え出すのだろうか?
 そこで石英試験管を使って,燃え出す温度を調べてみることにした。石英試験管は東京大学海洋研究所技官のガラス細工名人に石英管からつくってもらった。石英管の底を閉じて丸めるとき,細い石英管で形の調整をしていた。それを見て,閃いた。「この細い石英管の中にダイヤモンド原石を入れて酸素を通しながら熱すれば,炎の高温部分に包まれて発火しやすいのではないだろうか」と。
 まず,石英試験管にダイヤモンド原石と電子温度計のセンサー部分を入れ,酸素を流しながら熱して燃え出す温度を調べた。800℃を超えていた。
 次に,細い石英管にダイヤモンド原石を入れて酸素を通しながら熱した。理科室にあるふつうのガスバーナーの炎の高温部分で原石のあたりを包んでやると発火した。生成気体を石灰水に導くと石灰水は白濁した。

 ここで燃やす方法をまとめておこう。
1.小型の酸素ボンベ(あるいは酸素入りポリ袋)と石英の細管をつなぎ、石英の細 管にダイヤモンド原石を入れて、細管をさらにゴム管付きガラス管につなぎ、ガラ ス管を石灰水に入れる。
 (石英の細管には先を丸めた針金を押し込んでおくと良い。酸素を送り込むときの  風圧で原石が飛んでしまうことがあるので。)
2.少しずつ酸素を送りながら、ダイヤモンド原石のところを熱する。
3.ダイヤモンド原石が燃えだしたら熱するのを止める。原石は燃え続ける。石灰水 は白くにごる。燃え尽きる。
 こうして,左巻健男のダイヤモンド燃焼の教材化は終わった。
 ちょうど,インターネット上の『化学教育ジャーナル』への投稿を求められていたので,このプロセスを論文にして投稿した。左巻健男「ダイヤモンドの燃焼の教材化」(http://chem.sci.utsunomiya-u.ac.jp/v2n2/samaki/)である。このジャーナル
は,発行所がCSSJ 化学の学校(化学ソフトウェア学会の一部門)である。ついでに言っておけば,このジャーナルの招待編集長を引き受けて,2001年6月発行号を編集した。
 ダイヤモンド燃焼を行おうとすると,ダイヤモンド原石や細い石英管の入手がネックになる。
 幸いにも,理科教材業者のナリカで市販教材にしてもらえた。「ダイヤモンド燃焼実験セット」である。原石も補充可能である。カタログのカラーページに「ダイヤモンドが燃えてなくなるようす」の写真3枚がある。
 小島稔東大名誉教授は地球化学の講義で,真っ赤に熱したダイヤモンド原石を液体酸素に投げ込んで燃焼させて見せた,ということだ。石英細管さえあればふつうのガスバーナーで燃やすことができる左巻健男の方法は,ずっと簡単である。今後,熱意ある教員は,話だけでなく実際に生徒たちの目の前でダイヤモンドの燃焼を見せるようになるだろう。