左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

左巻健男『面白くて眠れなくなる化学』PHP文庫版の「文庫版あとがき」と「はじめに」

面白くて眠れなくなる化学 (PHP文庫) 文庫  2017/4/5

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ロウソクの火が消えると酸素はどうなる? コーラを飲むと歯や骨が溶ける? ケーキの銀色の粒の正体は? 紅茶にレモンを入れると色が変わる理由は?――人気シリーズ「面白くて眠れなくなる」の第三弾は「化学」がテーマ。
中学、高校の理科で勉強する「化学」を題材にさまざまな事象について解説。身の回りのものにこんな秘密があるなんて! と驚くネタが満載です。化学の世界は不思議とドラマに満ちている! 面白く読めて教養も身に付く一冊。
【本書の目次より】爆発とは何だろう?/水を飲み過ぎるとどうなる?/「温泉」「入浴」をめぐるウソ・ホント/「アルカリ性食品は身体によい」はウソ/折り紙の銀紙は金属?/缶詰のみかんのひみつ/洗濯機で手作りスライム/輪ゴムができるまで/水に沈む氷

文庫版あとがき

 PHP文庫版になるにあたり、全体を読み直してみました。読了して、本書執筆のきっかけや執筆に集中していた時期を思い起こしました。
 本書を書く前に、ぼくは『面白くて眠れなくなる物理』を出したばかりでした。その本を引き受けたときに、「書き終えたら、化学でも書かせてほしい」と頼んだこと、「化学でも企画が通りましたよ」と言われて、一心不乱に本書を書き上げたことを思い出したのです。

 ぼくは、長く中学校・高等学校の理科教員を務めました。そのとき、化学の授業は、いつも平明なもの、生徒の興味をひくもの、本質的なもの、を目指すべきだと思って取り組んできました。
 マイナス二〇〇℃近い低温の液体窒素でいろいろなものを冷やしたり、カルメ焼きに熱中するような、「物質にいつも触れる、物質が身近になる、物質の世界が見えてくる」ような化学の授業をしたかったのです。
 そのような、物質に触れあう実験だけではなく、新しい世界を広げてくれる知識も大切と思い、いつも原子論というミクロなレベルの理論とともに、物質の性質や物質の変化といったマクロなレベルの世界を統一することも意識しました。さらに、その理論と実験が生活や社会と広くつながっていることを大事にしなければならないと思っていました。

 本書の内容には、ぼくが長年にわたって理科教員として心がけてきた、そのような化学の授業がバックにあります。
 ビジネスマンなどへの調査で、化学は学習して役立たない科目の上位にあげられてしまいます。高校で化学選択者はたくさんいるし、化学物質とのつきあい方について正しい判断力を必要とされる時代だというのに、化学の面白さや生活と化学との関係についてあまり伝えられていないという状況があるようです。
 本書は、化学の啓発書として、ちょっと違ったアプローチになっていると自負しています。基礎的・基本的な知識についてはいくつかの別の著作で展開していますが、本書では、ぼくが長年、化学を教えてきた中でその神髄をやさしく伝えたいという心を込めたつもりです。本書が文庫になり、さらに多くの読者に化学の面白さの一端を伝えられるとしたら大変嬉しいことです。

          二〇一七年三月 左巻健男 
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 はじめに

 ぼくがこの本を書いたのにはわけがあります。

 化学は面白い!

 ズバリ、このことを読者のみなさんにわかってもらいたかったからです。
 化学はとても面白くて魅力的で、物質の世界のあらゆることを記述しており、実は身の回りの様々なところでも、その考えや法則は関係しています。
 化学で面白いのは、物質の性質や変化の実験だけではありません。化学の本質的な知識は、新しい世界を広げてくれます。
 本書では化学の基礎・基本の、多くの人々が学校で学んできた中学校や高校初級の理科の中の化学を素材として取り上げるようにしました。
 学校の化学に興味を持てない人が多いのは、その内容が抽象的で実感がわきにくい、わかったという気持ちにならない、生活や人生に無関係で学校から出れば不要な知識だ、などたくさんの理由があるでしょう。
 ぼくは、小学校・中学校・高校初級の理科教育を専門にしています。もともと中学校・高等学校の理科教師でした。理科教師をしているときのモットーが、「家族の食事のときにその日の授業の話題で盛り上がるような授業をしよう」でした。
 理科の授業を通して、知って得をした、知って感動をした、知って心がゆたかになった、考えてわくわくした…というような気持ちを持ってもらえるといいなと思っていました。本書は、そんなぼくの「とっておきのはなし」を文章化しています。
 科学は、不思議なドラマに満ちた世界を少しずつ解明してきました。自然の世界の扉を少しずつ開いているのです。まだまだわからないこともたくさんありますが、わかってきたこともたくさんあります。
 理科教育の専門家として、そのわかってきていることの、さらに基礎・基本の中からテーマを取り上げて、「ほら、もう一歩、こんなことまで考えれば面白いでしょ!?」といいたいのです。

 本書を読んで、「この場合はどうなのだろう?」「あの場合はどうなのだろう?」などと新しい疑問がわいてきたとしたら、ぼくの試みは成功かもしれません。例えば、ぼくたちにとって身近な「食塩」の主成分の「塩化ナトリウム」は、ナトリウムと塩素からできています。
 実は、そのナトリウムは水の中に投げ込めと、化学反応で爆発を起こす物質です。塩素は、毒ガス兵器に使われた毒性の強い物質です。それらが化学変化で一緒になることで、普段私たちが当たり前に使っている調味料=食塩になるのです。その食塩でも量によっては中毒を起こすことがあります。
 このような発見、驚きを提供することで、感動する理科、心をゆたかにする理科を目指して、さらに研究していきたいと思っています。

 ぼくは、化学を楽しむためには、「物質とつきあう、物質が身近になる、物質の世界が見えてくる」ことでなければならないと考えています。ぼくはカルメ焼きに熱中するような、物質にいつも触れるような化学教育をすすめたいと思っています。