『週刊新潮』2019年12月26日号114P
左巻健男『学校に入り込むニセ科学』
平凡社新書/924円
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日教組より不可解
日の丸より不合理
林操(コラムニスト)
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知り合いの息子が通う公立の小学校が揉めてるとかで、おかしいことに主役は児童や保護者、教職員じゃなく、補習や授業補助のボランティアで来る年寄りたち。爺さまAがゲーム脳だEM菌だなんて話を子供に繰り返し開かせていたら、爺さまBが「非科学的だ!」と噛みついて、以来、「あいつをやめさせろ」合戦を繰り広げてるんだそうな。
この話にも出てくるEM菌やゲーム脳、そして水の伝言に脳内革命に奇跡のリンゴその他いろいろ。そういうトホホな妖怪がニッポンを彿御しているのは昨日今日のことじゃないとして、それが学校、しかも公立の義務教育・諸初等教育の場にまで浸出侵入してきたかと脱力していたところに出くわして膝を打ったのが『学校に入り込むニセ科学』。
著者の左巻健男は教職経験も長い教育学者で、専門は理科教育。科学啓蒙の書からニセ科学告発の書まで著作も多いなか、今回の新書が特にグサッと刺さったのはやっぱり、反知性主義(という字面はなんかカッコいいけど、実態はバカのズル)が学校ボランティアの翁姐どころか現役の教員や管理職にまで及んでるという指摘ゆえ。日の丸君が代の強制や道徳の教科化どころか、算数や理科の非合理化まで進んでるってんだから、この本は警世の書、憂国の書でもある。
無理が通れば道理が引っ込む式(別名「招待者名簿は復元しません式」)が理系の教育でも幅を利かせるようなら、そのうち進化論も教えなくなるよ、この国。