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左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

【以前(2020年)“論座"に書いたもの】新型コロナウイルスとともに広がるニセ科学by左巻健男

新型コロナウイルスとともに広がるニセ科学
引っかからないように要注意!

左巻健男 東京大学講師・元法政大学教授

2020年03月03日

 ニセ科学は、いつも虎視眈々と科学リテラシーの弱い人たちを狙っている。そして、社会的に不安が高まると、一気に跳梁跋扈する。現在、新型コロナウイルス感染が広がるなか、ニセ科学はこの機会に一挙に引っかかる人を増やそうと蠢いている。

 

社会的な不安に乗じてニセ科学が跳梁跋扈

 ニセ科学とは、科学ではないのに、「科学っぽい装いをしている」あるいは「科学のように見える」ので、科学リテラシーが弱いと、つい科学的なものと思い込んでしまうものだ。

 ニセ科学にはどんなものがあるだろうか。細かく見て行くといろいろあるが、大まかにいくつかを列挙してみよう。
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がんが治る・ダイエットができるとするサプリメント・健康食品の多く、健康によいとする水、ホメオパシー、経皮毒、デトックス、血液サラサラ、身に着けると健康によいというゲルマニウムやチタン製品・トルマリン製品、ゲーム脳、「人間の脳は全体の10%しか使っていない」「右脳人間・左脳人間が存在する」などの神経神話、水からの伝言、マイナスイオン、EM菌、ナノ銀除染、フリーエネルギー、血液型性格判断、「知性ある何か」によって宇宙や生命を設計し創造したとするインテリジェント・デザイン説、アポロは月に行っていなかったとするアポロ陰謀論、人口減少させるために何者かが有毒化学物質をまいているとするケムトレイルなど。

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 本論では、新型コロナウイルス関連のいくつかを見ていこう。

「コロナウイルスには26~27℃のお湯が効果がある」というデマ
(略)

 

代替医療ホメオパシーのレメディ登場
 代替医療とは、通常医療(標準医療)の代わりに用いられる医療だ。代替医療を通常医療より優れた特別な医療と思ってしまう人も多く、知性や教育のレベルとは関係なく引っかかる場合がある。

 例えばアップル社のスティーブ・ジョブズも、すい臓がんの治療に代替医療の絶対菜食療法、コーヒー浣腸、心霊治療などを試して時間を無駄にしたことを、後々非常に後悔していたのは有名な話だ。

 代替治療のなかで、その科学的な根拠はないが、欧米で人気を博していて、わが国でも助産院などで使われて問題になったものがホメオパシーである。

 ホメオパシーは18~19世紀ドイツの医師ハーネマンが始めたもので、その症状によく似た症状を引き起こす物質をその物質が含まれないくらいに水で薄めて砂糖玉にしみ込ませた「レメディ」を薬として使う。「似たものが似たものを治す」という考え方だ。レメディの製法として推奨されている10の60乗倍の希釈を実行すると、理論上、もとの物質は1分子も含まれないことになる。

 実際的には水と砂糖を摂取するだけなので、副作用がないのは確かだ。しかし、通常医療を受けないことによる命の危険がある。わが国でもホメオパシーで死亡事件が相次いで起きたことを忘れてはならない。

 とくに有名なのは2009年に山口市で起こった「K2シロップ事件」だ。助産師が本来投与すべきだったビタミンK2を投与せずにホメオパシーのレメディを投与して、生後2か月の女児がビタミンK欠乏症が原因で頭蓋内出血を起こし、死亡したものだ。

 ホメオパシー側は福島第一原発事故の後、福島の土を水で薄めてつくったというレメディを放射能被曝用として売り出していた。もちろん、新型コロナウイルス用のレメディも発売。レメディにハーブエキスやアルコールを入れたものを発売している場合もある。

 ホメオパシーは欧米で人気なので、疫学の調査もたくさん行われているのだが、効能があるとする根拠はない。多くの病気は自然治癒するが、そんな場合は砂糖玉や○○水などを飲ませようと問題はない。しかし、それを砂糖玉や○○水などで治ったと信じ込み、まわりの人らにもおかしな医療を薦めることで、治療を行わう必要がある病気に使ってしまい通常治療を拒否することになるのは大きな問題だ。新型コロナウイルス感染者がホメオパシーのレメディに頼って症状を悪化させてしまうなどが起こらないようにしたい。


根拠のない「新型コロナウイルスの感染予防にアオサが効果的」
(略)

 

「首から下げるバカ発見機」と揶揄されていた空間除菌できるというグッズ
 そのインチキを見抜けない人が多いことと消費者庁の対応の遅さもあって大ヒットしたのが、二酸化塩素で空間除菌できるとするグッズだ。2014年3月に消費者庁が「二酸化塩素を利用した空間除菌を標ぼうするグッズ販売業者17社に対する景品表示法に基づく措置命令について」を出して、少し沈静化した。消費者庁は「効果を裏付ける根拠がない」として、17社に表示変更を求める措置命令を出したのだ。発売当初からSNSなどで、「首から下げるバカ発見機」と揶揄されていた製品だ。

 

 新型コロナウイルスが取り沙汰されるとマスクの代わりになるのではないかと「クレベリン」のスティック状のもの、スプレーや置き型の製品が売れているという。しかも薬品会社が販売しているのだが「薬品」ではなく「雑品」だ。だから特定のウイルス・菌に対する効果は薬機法(旧薬事法)上うたえない。エビデンスも弱い。閉鎖空間での試験結果のみ。もちろん新型コロナウイルスへの効果は確認されていない。

 

 なお二酸化塩素に殺菌力がないわけではない。しかし、口や鼻に効果がある濃度で吸い込まれたら喉の炎症などが起こり、逆に新型コロナウイルスに感染しやすくなるだろうと推測する。効果がある濃度・量ではないので副作用が起きていないだけだろう。

 

3.11で福島に広く入り込んだEM菌はどうだろうか?
 拙著『暮らしのなかのニセ科学』で、「もっとも危険なニセ科学、EM」という章を立てたEM(通称EM菌)は、3.11後の福島に「EMは元素転換力があるのでセシウムなどを別の元素に変えて放射能をなくせる」「海水塩はEMの元素転換力で肥料になる」などと広く入り込んでいる。

 

 EMの開発者比嘉照夫氏はエボラ出血熱やHIVなど多くのウイルスに効果があると述べる。そのせいかEMホテルで有名なホテル「EMウェルネスリゾート コスタビスタ沖縄 ホテル&スパ」では、新型コロナウィルスの感染予防対策として、「ロビーに発酵液と消毒液の設置を増設しており、手の消毒を推奨しております」としている(以前は公式サイトに「EM発酵液」と表示していた。現在はEMを削除し、「発酵液」にしているが問題点は同じ)。

 

 実はEMを構成している菌を分析した片瀬久美子「EM菌の正体(構成微生物を調べました)」によると、肝心の光合成細菌が見られず、「EM菌を加えた培養液中にアシネトバクター属のAcinetobacter ursingiiが増えていました。この細菌は「日和見感染菌」として血液感染症から比較的高頻度で検出されています」との結果だった。

 

 このようないわば雑菌の集まりのEMの発酵液(EM活性液)で手の消毒をするのはいかがなものか。

 

 またEMの発酵液を自己責任で飲んだり噴霧したりしている人らがいる。片瀬さんが述べるように「特に易感染者(持病等により免疫系が弱っている方々、高齢者、乳幼児など)は止めておいた方が良いと考えます」。

 

 新型コロナウイルスの個人ができる対策は、手洗いなどウイルス対策の基本を守り、メンタルが元気(不安に支配されない)で、ストレスが適度で、美味しいと思うものをバランスよく食べ、適度に寝る時間を取るという生活が大事だと思う。