左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

スピルリナに含まれている可能性がある肝臓毒、ミクロシスチン

 以下に出てくるスピルリナに含まれている可能性がある肝毒性があるミクロシスチンについて昔書いた本の原稿を紹介します。
 ツイッター投稿をまとめたもの:
チェルノブイリへのかけはし」と「子供たちを放射能から守る全国ネットワーク」とEM菌とスピルリナ
http://togetter.com/li/162369


★名称
スピルリナ [英]Spirulina [学名]Spirulina platensis (ユレモ科)

★概要
スピルリナは、マイクロアルジェ(微細藻類)と呼ばれる小さな藍藻の一種で、熱帯のアルカリ度の高い湖などに自生している。地球上に最初に出現した原始的な原核生物であるといわれ、その一つを顕微鏡で見ると、らせん状をしているので、ラテン語で「らせん」を意味するスピルリナと名付けられた。クロロフィルを持ち、光合成を行う。1970年代に健康食品素材として登場して以来、その栄養面から注目を浴びた植物プランクトンであり、主にタンパク質やミネラルの優良な供給源とされている。俗に「コレステロールを低下させる」「体重を減少させる」といわれているが、ヒトでの有効性については信頼できるデータが見当たらない。肝毒性があるミクロシスチンを含むものは避けるべきである。特に小児は感受性が高いことから、検査されていない製品の摂取は危険である。また、フェニルケトン尿症の症状を悪化させる可能性があるため、既往歴のある人は使用を避けること。妊娠中・授乳中の安全性については十分な情報がないため摂取は避けたほうがよい。その他、詳細については、「すべての情報を表示」を参照。
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail86.html


 次が左巻健男編著『話題の化学物質100の知識』(東京書籍 1999初版 現在絶版)の原稿です。


★有毒アオコが出す肝臓毒、ミクロシスチン
 夏になると諏訪湖霞ケ浦などのアオコ大発生が話題になります。アオコは藍藻類という生物で、藍色をしています。湖沼が窒素分などで富栄養化すると大発生します。
 アオコには、魚、家畜や人に対して有害なはたらきをもつ種類(有毒アオコ) があります。1994年12月には琵琶湖で発生したアオコから有毒物質が初めて検出されました。アオコをつくる代表的な植物プランクトンであるミクロキスティスの一種エルギノーサが、肝臓障害や発ガンを促進させる毒物ミクロシスチンをもっていたのです。霞ケ浦津久井湖、相模湖など、飲料水源になっている湖でも、ミクロシスチンをもっている有毒アオコが発生しています。
 アオコの撲滅を主要政策にしているオーストラリアでは、一日に飲む飲料水中のミクロシスチンの許容量を1リットルあたり約1マイクログラム(100万分の1グラム)としています。オーストラリアでは有毒アオコを含む水による家畜、野鳥、魚類への被害が数多くあるからです。
 わが国では、霞ケ浦西岸にある中央競馬会の美浦トレーニングセンターで、府中競馬場(東京)から引っ越してきた馬たちが、水道の水を飲まなくなり、まもなく高熱を出す奇病にかかったことがあります。81年2月のことです。水道水をさらに活性炭処理をしたら病気が姿を消しました。
 霞ケ浦では通常1リットルあたり0.3マイクログラム、多いときで12マイクログラムになるといいます。もちろん、浄水処理の過程で、ほとんどが除去、分解されます。
 ミクロシスチンは、7個のアミノ酸からなる環状のペプチドです。これまでにその仲間が約50種類明らかにされています。肝臓に対する毒性をもっています。最も毒性が強いもので、半数致死量は、マウス体重1キログラムあたり50マイクログラムです。
 その中毒の症状は、89年、イギリスでボートの訓練中に若い兵士が池に落ちアオコを飲んだ事故でわかります。発熱、倦怠感、吐き気、下痢、口部付近の水泡などの症状、胸のレントゲン写真では肺炎のような症状、また肺動脈の硬化と血小板の著しい減少がみられました。マウスに最も強い毒性をもつミクロシスチンを授与したときの症状と同じです。  
 アオコ毒は、ミクロシスチンだけではありません。他にもいくつかの毒性物質があります。現在知られているもので15種類ほどです。世界的にも、またわが国でも最も多いのはミクロシスチンで、まれにアナトキシンが検出されることがあります。
 幸いなことに飲料水にアオコ毒がはいっての中毒事故は起こっていませんが、海外を旅行したときには吐き気や下痢の症状にはアオコ毒も疑ってみる必要がありそうです。(左巻健男

★参考:彼谷邦光『環境の中の毒』裳華房 1995