左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

「手作りスライム」の歴史(左巻健男)

・スライムの意味
 スライムは、英語の slime (軟泥、粘液、…)からきている。私がスライムという言葉を、科学遊びの手作りスライムとは違う一般的な意味で見たのは、下水道関係の文献を読んでいるときだった。バクテリアがつくるぬるぬるの生物膜の塊というものであった。


・わが国に手作りスライムが紹介されたのは1985年
 粘質物という意味で、手作りスライムがわが国に紹介されたのは、1985年のことであった。
 それは、1985年8月25日〜8月28日に東京で開かれた第8回国際化学会議で米国のA.M,Saquis氏とC.H.VanDyke氏が連名で「Slime,A Lecture Experiment and Dramatization of Polimeric Bonding」というテーマで演示された。その実験は、「Journal of Chemical Education」1986年1月号に紹介されているし、日本化学会訳編『身近な化学実験I』(丸善)に紹介されている。


・PVA糊を使うというアイデア
 その大会に参加していた大槻勇氏(当時、宮城二女高)が「PVA粉末を水に溶かすのが難しい」とサークル(宮城教育大学鈴木清龍研究室で開催の第三日曜の会)に報告。
 それを聞いた鈴木清龍氏(当時、宮城教育大学)は、「市販されている液体洗濯糊はPVAの溶液だから、それでやてみよう」と提案。
 こうして、米国の化学者がPVA粉末で行っていたものをPVA糊で簡便にやることが可能になった。
 この方法は、とくに1986年8月秋田市で開かれた科学教育研究協議会全国研究大会の「お楽しみ広場」で宮城のサークルが演示。全国に広がっていくきっかけになった。
 なお、私も、PVA粉末を水に溶かすところからやったことがあるが、お湯にPVA粉末を少しずつよくかき混ぜながら入れていけばよいことがわかった。ただ、はじめから溶液になっているPVA成分の液体洗濯糊の簡便さには及ばない。


・磁性スライムの開発
 砂鉄や四酸化三鉄の粉末を入れたスライムをつくり、ネオジム磁石のような強力な磁石を使うと、磁石を近づけると角(つの)が出たり、スライムがまるで生き物のように磁石に吸い寄せられ、磁石を食べるかのように磁石を包み込む場面が見られる。
 これは山本進一氏(当時、東京都立戸山高)が開発した実験である。
 1997年2月2日に、あるテレビ局の番組で、「鉄を食べる不思議な物質」が紹介された。視聴者の投稿だということで、山の中で生き物のような気味の悪い物質を発見した。磁石を食べる不思議な物質という説明だった。
 私は、当時、そのテレビを見たのだが、視聴者と称する登場人物はテレビ局関係者で、山本氏の磁性スライムをパクリ、鉄を食べる、生き物のような気味の悪い物質として捏造したのが見え見えだった。山本氏はテレビ局に抗議をしたが誠意ある対応はなかった。
 私は、山本氏と一緒に高校化学の検定教科書の編集・執筆に参加しており、彼の無念を聞いていた。残念なことに山本氏は2004年8月病気のため若くして亡くなった。


・手作りスライムの工夫
 絵の具や食紅などで着色したスライムや磁性スライム以外にも、ラメを入れたり、蛍光材(蛍光フェルトペンの芯を水に入れる)や蓄光材を入れて暗いところで見たりするものが広がっていった。
 また、毒性のある硼砂水溶液を飽和で使う従来の方法を見直し、ずっと薄い硼砂水溶液で安全なスライム作りができることを手嶋静氏(会社経営)が示した。
 本号では手嶋氏の方法に学びながら実験教室を行っている江頭和子氏に紹介して貰った。
 なお、ダイアックス株式会社から「バルーンスライム」が販売されているが、硼砂水溶液を飽和で使っており、その取り扱いにあるように「お湯を使うのでやけどにご注意ください。(お風呂の温度が目安です。)手や腕などにキズや腫れ、湿疹などがある場合は使用しないでください。」「材料や成果物に触れた手で目、鼻、口などを触らないでください。触れた場合は清水で丁寧に洗浄してください。」「遊びの後は、石鹸等で手を充分に洗浄してください。」「材料や成果物の使用により、体質的にかぶれやかゆみなどの症状が起こる方がおられます。そのような方は使用をしないでください。」を注意したい。
 手嶋氏の方法では、ごく薄い硼砂水溶液を使っているのでずっと安全性が高まるが、それでも念のために遊びの後は十分な洗浄が必要である。


・グアガムからつくる手作りスライム
 ツクダオリジナルが、カプセル自動販売機に硬貨を入れ、レバーを「ガシャッ」とまわすと商品が「ポンッ」と出てくるカプセルに入れていた。それはグアガムからつくっているという話が伝わってきた。PVAと硼砂を使う手作りスライムより、ずっと伸びがよかった。
 私は、食品添加物のグアガム(天然の糊成分)を入手し、挑戦してみたが、駄目だった。
 グアガムから成功させたのは藤田勲氏(当時、埼玉県立飯能南高)であった。『理科教室』1999年9月号に「スライム二題」として「グアガムスライムを作ろう〜お餅のようなモチモチスライム〜」を紹介している。


・元祖からグアガムバージョンまで勢揃いの『おもしろ実験・ものづくり事典』
 私は、内村浩氏(当時、広島県立西高)と共に編集した『おもしろ実験・ものづくり事典』(東京書籍 2002年2月初版)で、これまでに名前を出してきた鈴木清龍氏、藤田勲氏、山本進一氏、手嶋静氏にそれぞれの手作りスライムを書いて貰った。
 それらは次のようなテーマ名である。
 鈴木清龍「元祖・洗濯のりとスライム」
 藤田勲「よく伸びて長もちする新スライムをつくろう」
 山本進一「スライムを使ったいろいろな遊びと実験」
 手嶋静「安全で確実はスライムづくり」
 こうしてみるとわが国の手作りスライムには20年余の歴史があることがわかるだろう。(『RikaTan(理科の探検)』誌2007年4月号)