左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

14年前に書いた京都工芸繊維大学AO入試のこと

 ぼくは東京大学教育学部附属中・高等学校教諭から京都工芸繊維大学にアドミッションセンター教授として異動し、京都工芸繊維大学AO入試のプログラムを開発し、実施するという仕事を3年間行いました。
 その教授公募の数十倍の応募者から、ぼくが選ばれたのは、理系の京都工芸繊維大学AO入試を始めようとする時に、
・理科教育の教育・研究をしている
・理科教育で高校理科教員とのネットワークがある
・いろいろな大学で非常勤で教えて大学の状況を知っている
・大学と高校の間をつなぐ役割を果たせる
 ということからでしょう。
 ここで3年間勤めて、最後の国家公務員大学教授で退職し、同志社女子大学に異動し、初等理科教育の教育・研究をするようになりました。さらに法政大学に転じて中等理科教育や理系の教職課程のほうで仕事をしています。


 次は京都工芸繊維大学時代にAO入試を始めようとする年に書いたものです。
 当時の新聞記事も後ろにつけておきました。
 また某学科の内容を受験生がMLに書いたものを参考に入れておきます。


 国立のAO入試は基礎学力(認知的側面)+関心意欲やリーダーシップ(情意的側面)のバランスおよびそのレベルを総合的に見ようというものが多いようです。
 プラス面は決まった時間内に解答ができる受験生に有利で、対策もばっちりできるセンターや個別学力試験とは違った側面を評価することができること、マイナス面は厳密な客観性は無理、丁寧な入試なので普通の入試より大変、ということがあろうかと思います。


 本学のAO入試(ダビンチ入試)ですが、昼間および夜間主コースを合わせて1学年700名なのですが、うち、122名をとる予定です。国立大学の中で入学定員に対する割合では最大ではないかと思います。


 基礎学力は調査書および二次のスクーリングのプログラムの中で見るのですが、センターや個別学力試験のようには幅広く見ることはできないでしょう。そこで、本学でも学力面での不安を元にAO入試に批判的な教員はかなりいるように思います。とくに元々希望者が多くいわゆる偏差値も高く問題意識が明確な入学者を今までの入試でとれている学科が批判的なように思います。それはわかる面もあります。アドミッションセンターとしては、それが払拭できるような形でいろんな面で優秀な入学者を迎え、入学後もケアしていきたいと思っています。なお、二次のスクーリングのプログラムは学科によって違います。たとえば、電子情報工学科では、「講義・課題提示・レポート作成・グループディスカッション」「実験・レポート作成」「課題提示・製作」「個別面接」の4つのプログラムです。


 センター試験が複数回実施されて、高3の夏頃にでも英数国の基礎学力試験が行われればAO入試に使う気持ちがあります。


 ただ未だ確認していないのですがカリフォルニア大学では高校で対策がされてしまうSATを入学判定に使うのを止めたという話を聞きます。


 わが国でも、他の国立大学や本学でも、追跡調査をしてみると入試の点数と入学後の学内成績の相関はほとんどないようです。センターや個別学力試験で少々弱くても推薦入試やAO入試の入学者のほうが学内成績がよい、という結果がいくつもの大学で出ています。それは何を意味しているでしょうか? それを考えていきたいと思います。


 アドミッションセンターの役目には入学者の追跡調査から入試のプログラムを見直していくというものがあります。あと何年かは専門の理科教育や教育方法・教育課程も研究しながらこの仕事を進めていこうと思っています。


 なお、昨日(2001.9.19)の産経新聞京都版に載った記事を紹介しておきます。(**は新聞記事のミスを指摘した部分です。)
 記事の末文にあるように、(本学はそういう形ではないですが、)学力は問わず意欲だけという形でのAO入試が蔓延したら、一層の学力低下がおこるのは必至でしょう。

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 京都市左京区京都工芸繊維大学で八月十八日、志願者への説明会があった。うだるような残暑にもかかわらず、会場には昨年より二百人も上回る八百人が集まり、立ち見も出て熱気に満ちていた。(*昨年より三百人も上回る九百人以上*)今年の特徴は、そろそろ志望校を決めなければならない受験生に混じり、社会人や主婦の姿が多く見られたことだった。


 工繊大の説明会の参加者を大幅に増やし、多様化させたのは、関西の国立で初めて導入するアドミッションオフィス(AO)入試。工繊大はダピンチ入試と名づけイタリアの天才にちたみ求める資質の象徴とした。


 選考は書類審査後、各学科プログラムなどで受験年を選抜。資質や能力を評価し、全定員七百人のうち百二十二人を年末に選ぶ。


 加悦町から説明会に来た大西絵美さん(一八)は「キャリアをアピールできる」と話した。すでに建築関係の資格を持っていることをセールスポイントにしたいようだ。
 転職を機に専門的な知識を得ようと説明会に訪れた京都市西京区の会社員、森本芳王さん(三〇)は「自分の社会経験を売り込める」とキャリアアップのため大学を目指す。


 説明会を取り仕切ったのは、入試事務を担当する工繊大アドミッションセンター。専任教官の左巻健男教授はワイシャツ姿で汗をぬぐい相談コーナーで志願者に応対していた。大学の現状を「国立の工学部系の学生は地味でまめ。ステレオタイプの学生が多い」と分析し「強い目的意識を持ったアクティブな学生が欲しい」と話していた。(*まめ→まじめ*)


 こうした国公立大のAO入試は一昨年の入試から東北、筑波大などの三大学で初めて実施。来年度生では工繊大を含め七校が導入する。左巻教授はAO入試の役目を「学内を活性化させる表現力が豊かなリーダーシップを得るため」と説明していた。AO入試が増えているのは、偏差値で輪切りされた学生によって大学も階層化、画一化されてしまったことが背景にあるようだ。


 ただ、少子化の中、AO入試が他大学より早く学生を確保する「青田買い」の手段として用いられる危険もある。
 全国高等学校長協会が、昨年七月に全国の入試担当の公立高校長にAO入試のあり方を聞くと、77%が「適性や意欲、関心などをみるという趣旨から逸脱している大学がある」と指摘。これに加え、日程について38%が「時期が早く高校教育が混乱する可能性がある」と回答した。早く決まるAO入試の「流行」で、二学期から勉強しない三年生が出て高校側が困っているという。


 左巻教授はダピンチ入試の実施で招かれた元高校教員。高校の教育現場を知っているだけに入学決定時期を十二月未ごろとした。高校側を配慮し「出来る限り遅らせた」という。(*着任前に決定済み*)


 現在、学内では十月からの出願に向け工芸、繊維の二学部七学科ごとに二日間にわたって課す自己アピールや制作発表などのプログラム内容の検討が続いている。
 入試をめぐり、志願者は「受ける」側から「選ぶ」側に、大学は「落とす」側から「求める」側に変わった。
 しかし、明確な戦略がない脱偏差値主義はかえって学力低下を招くこともある。少子化の中で入試への模索も続いている。
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◎某学科のスクーリング内容を,ある受験生がまとめたもの。(あるMLに投稿された。)


【課題1(講義) 】
課題1−1  「講義の内容を要約しなさい」でした。
課題1−2  「我々は,数千種類の漢字とそれぞれ数十種類のひらがな,カタカナ,10種類の数字,その 他の記号,場合によってはロ−マ字も使って,日本語の文章を書いている。このように通常の日本語の文章の場合は,用いている記号の数が非常に多い。
① 日本語の文章をできるだけ少ない種類の記号で表現したいとする。最少何種類の記号 があれば表現できますか。また,日常の日本語の文章をそのような表現に変える方法も示しなさい(アイディアだけでよい)。
② 実際に,日本語で書かれた文章を,より少ない種類の記号で表現するとして,何種類くらいの記号を用いるのが合理的と考えますか。いろいろな観点からの根拠と共に答えなさい。
(注意)課題1−1と課題1−2の解答は,それぞれ指定された解答用紙に記入しなさい。解答用紙の表の面にのみ記入しなさい。裏の面は使用してはいけません。」でした。


【課題2(グル−プディスカッション)】
課題2  「グル−プディスカッションを踏まえて,課題1−2をもう一度解答しなさい」でした。


【課題3(実験)】
1.課題  「真ちゅう製の円柱棒の長さ?と直径Dを測定して,その体積Vを求めること。その際,測定値に対しては誤差処理を行うと共に最終結果に対する考察も行い報告する。実験開始に先立って,誤差処理を 行うための講義を行いますので,しっかりとノ−トを取ってください。この実験を全て終了したときに,このノ−トは,実験報告 書と共に提出してもらいます。」でした。
2.理論  「真ちゅう製の円柱棒の長さを?,直径をDとすると,その体積Vは,V=π/4・D2・?…① で表される。但し,ここでπは円周率を表す。」でした。
3.実験   「マイクロメ−タを用いて真ちゅう製の円柱棒の長さ?と直径Dを測定する。正確な値を求める ために,それぞれ5回づつ測定する。」でした。
4.測定デ−タの処理   「①式と上記“1.課題”で示した講義内容とを用いて,体積Vの最確値V?とそ の確率誤差Evを求めなさい。なお最確値と確率誤差については講義の中で説明します。」でした。
5.報告書作成   「講義の中で説明した形式にしたがって,報告書を作成し,提出しなさい。」でした。


【課題4(制作)】
課題   「正八面体をつくりなさい。」でした。
使用するもの
1.画用紙 2枚(1枚は予備) 2.解答用紙 1枚  3.下書き用紙 1枚 4.鉛筆  5.直定規6.コンパス  7.はさみ  8.スティックのり
以上,7点(鉛筆またはシャ−プペンシルは自分の家からのを使用)が袋に入って配られました。
手順
1. 正八面体は,下図のように正三角形の面が8面からできています。その展開図がどのようになるか解答 用紙に書きなさい。考えられる全ての展開図を書きなさい。
 但し,展開図は一続きになるように(複数の部分に分けたり,各面単独にはしないように)しなさい。
2. 展開図の一つを画用紙に描きなさい。ただし,画用紙は有効に使い,できるだけ,大きな展開図は描き なさい。のり付けする部分(のりしろ)も含めなさい。
3. 展開図をはさみで切り取り,折り曲げ,のりつけして正八面体を完成させなさい。できるだけていねい に,またしっかりとしたものを作りなさい。
4. 作る過程でくろうした部分,工夫したところ,気がついた点などを解答用紙にかきなさい。


(感想)AO入試を受けてみて,一番心に残ったのは,すごく楽しかったということです。大学の教授の方々が,私たち高校生に教えてくださって,高校ではまた味わえない授業が体験できてとてもよい経験でした。また,普段の勉強とはまったく関係のないことわみんなで一緒に考えて,それをディスカッションして,いろんな人の考えを吸収できてとても勉強になりました。いろんな人の意見を聞くことによって,それだけ頭が柔軟になって,視野が広くなったような気がしました。今回は入試だったんですが,入試とは思えなくて,逆に良い勉強をさせて頂いたような気がしました。とてもいい体験でした。

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