左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

ラドン温泉(ラジウム温泉)で放射線被ばくは大丈夫か?

【子ども向け元素本(編著『元素のふしぎ366』)でラドンのところを書くので…】
※知ってほしいのは「放射線ホルミシス効果」なるものは、定説になっていないこと、一生懸命これが立証できれば「低レベル放射線は健康に良い」といえると研究してきた電力中研もダメだったようだ。
 しかし怪しげな商売人達がこの効果にすがるので要注意だ。
 ある自称温泉博士の本でもこの効果で放射能泉を説明していた。素人を騙すなよ!
ラドン温泉(ラジウム温泉)で放射線被ばくは大丈夫か?
 わが国は、世界屈指の温泉大国です。さまざまな温泉の中には130カ所以上もの「放射能泉」とよばれる温泉があります。とくに有名なのは、三朝温泉鳥取県三朝町)、有馬温泉兵庫県神戸市)、増富温泉(山梨県北杜市)などです。
 放射能泉の定義は「温泉水1キログラムの中にラドンが111ベクレル以上ふくむものとされています。文字通り放射性同位元素がふくまれている温泉です。
 とくにラドンラジウムの含有量が多い放射能泉は一般に「ラドン温泉」「ラジウム温泉」とよばれています。ラドンラジウムの大元は、地下深くにあったウラン238です。ウランがマグマによって地表近くにやってきて、河川や雨水に溶け、地下水に入り、温泉としてわき出てきたものが放射能泉なのです。ウラン238半減期は約44.9億年で、最終的には鉛206になって安定します。その間におよそ11段階の壊変が起き、放射性娘核種ができていきます。そのなかでもっとも重要なのが、5段階目に出来るラジウム226です。ラジウムの次の壊変で、気体のラドン222が生まれます。
 ほとんどの放射能泉では、一般的に、ラドン含有量に比べてラジウムの含有量が非常に低いです。ラドン温泉ではラドンを吸入することになりますが、ラドン222はアルファ線を放出します。
 ラドン温泉の効能は、「微量の放射線はむしろ健康によい」とするホルミシス効果を根拠にしています。しかし、放射線ホルミシス効果は、現段階では仮説に過ぎず、異論のほうが強いものです。ですから放射線ホルミシスを元に健康によいとする説明のものには近づかないほうが無難でしょう。
 一方、自然界にあるラドンは、比較的低濃度でも肺がんを引き起こすリスクがあるとのデータが出てきています。2005年6月、世界保健機関 (WHO) は、ラドンは喫煙に次ぐ肺がんのリスク要因として警告しています。
 では、放射能泉での被ばく量はどの程度になるのでしょうか。増富温泉で調べられた場合、1年間毎日2時間利用した場合でも年間被曝量は平均0.8ミリシーベルトで、一般人で自然放射線以外に余分に被ばくしてもいいとされる1ミリシーベルト以下なのでたまに入るくらいなら怖れる必要はないでしょう。
 なお、トロン温泉とよばれる放射能泉がありますが、トロンという元素があるわけではありません。トロンはラドン220のことなのです。ラドン220は、トリウム232が大元でできます。ラドン222と区別するためにトロンとよんでいます。ラドン222と似たような性質で半減期が短いです。