車庫に積んだ本などを整理していたら、ぼくがちょうど東京大学教育学部附属中等教育学校(前は中・高等学校)教諭から京都工芸繊維大学教授になった4月に朝日新聞に取材された記事が出てきました。
寺脇さんは当時文部科学省審議官。ゆとり教育の旗振り役でした。
彼は学習指導要領で内容を最低限にしたから全員が百点が取れる、余力のある子はどんどん先に行ける、と言っています。
ぼくはそのゆとり教育の批判者でした。その後有志で検定外中学校理科教科書を出して、ゆとり教育に対して具体的な対案を出しました。
朝日新聞 オピニオン 2001年4月4日 学力とは 下
左巻 健男
京都工芸繊維大学教授
−新学習指導要領が議論を呼んでいます。
「長年理科を教えてきた経験からいうと、減らすこと自体は構わない。問題はどう減らすか。最低限必要な内容を配列したとは到底いえません」
「現行の指導要領は難しそうな部分を中学から高校に移して『精選』したといっている。それをベースになお難しそうな、学力テストで点が悪かった所を虫食い的に削っただけ。それを『厳選』といっている。たとえば今回、中学校の理科からは生物の進化やイオンといった重要な項目が姿を消しました」
−最低限必要な内容とは。
「自然や物質を探る土台が身につく、それを学ぷことによって広い視野が得られる内容です」
「小中学校や高校の教師は、どうしても教えなければならない基礎的概念や法則、事実は何か、どういうやり方ならうまく教えられ、学べるのか、研究してきました。新しい指導要領は、そこがきちんと考えられていない。10年、20年先の日本を考えたとは思えない戦後最悪の指導要領です。現場の実践的成果を生かせば全く違った指導要領になったはずです」
−抜本的見直しが必要だと。
「今の指導要領では、ひからびた形でしか自然をとら見られません。つまらない内容を何度繰り返しても、力にならないし、授業も楽しくなるわけがない。一部の人が密室で決めるのではなく、現場の教師の提案を十分採用しながら、聞かれたシステムの中で再構成することです」
−教育は危機にあるといわれますが。
「文部科学省が危機を作り出しています。細切れの知識では、学力にならないし、生きる力にもつながりません。学力とは、自然を豊かに科学的にとらえられる力です」
「ゆとり教育も本来、ある概念や法則をいろいろなアプローチで教えるためのものであるはずです。生活、あるいは産業の中での応用も含めて発展させて学んでこそ、本当に身につきます」
「日本は今後、地球環境などの分野で科学技術を磨き、指導性を発揮しなければなりません。それには多くの人が科学的な知識や関心を持って、すそ野を広げる必要がある。このままでは、日本は世界のリーダーになれずに沈没してしまいます。議論がかつてない高まりを見せており、根本的な改革の方向に進むきっかけになると期待しています。私たちも提案を続けていくつもりです」
(聞き手科学部・山本智之)