左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

文部科学省学力状況調査・理科の結果についての左巻健男コメント

 今回、新聞関係で、産経、読売、朝日、共同通信、日経(引き受け順)から結果へのコメントを求められた。
 各紙に同じように答えたのだが、各紙それぞれ重点の置き方があるようで、ちゃんと差別化されているようだw。


【日経】
 身の回りの事柄を理科と関連づけるには、実験や観察が重要なことは言うまでもない。これらをメーンにした授業で子供が自然を科学的に捉えるようになるには、質の高い教員研修と、実験促進に向けた支援体制を整える必要がある。教員の理科嫌いも解消しなければならない。未知なる自然を探究する「楽しい理科」が求められている。


共同通信
◎中1内容に消化不良
 法政大の左巻健男教授(理科教育)の話 理科は現在の学習指導要領になって初の本格的なテストだが、特に中学の結果に大きな影響が見られた。正答率が悪かった光と音、水溶液の濃度は1年の内容だが、授業時間が変わらないまま学習内容が増えたため、消化不良が起きている。小学理科は、実験の手順を確認する問題に偏っているように感じた。中学の内容の一部を小学校で学べるようにし、技術的なことばかりでなく、自然体験などを通じて楽しく学ぶ授業が必要ではないか。


【朝日】
理科=左巻健男・法政大教授
 小学生は、水の温度による砂糖の溶け方の問題の正答率が低かった。ものの溶け方は小学校でも学ぶが、本格的には中学に進んでから。温度が下がって出てくる砂糖の量まで考えるのは難しかったのではないか。
 水蒸気とはどんなものかを問う問題は、すべての選択肢に「目に見えない」と限定があり、簡単すぎる。同じ趣旨の前回問題より正答率が上がっても、改善されたとは言えない。
 中学生は、ある濃度の水溶液に必要な溶質と水の質量を求める問題の正答率が低かった。抽象度が高くて計算を含むこうした内容は「ゆとり教育」の時に高校に移り、今の学習指導要領になって中学に戻った。学習内容が増えたのに中学1年の授業時数は週3時間で変わらず、駆け足で進めるために消化不良を起こしているのではないか。中1の内容をある程度、小学校に下ろしたほうがいい。
 炭酸水素ナトリウムを加熱した時の化学変化を問う問題は比較的できていた。多くは実験で学んでいるし、蒸しパン作りなど身近な題材で、理解しやすかったのかもしれない。
 実験に関しては、前もって予想や仮説を立て、それをチェックすることが小中学生とも弱い。実験で何を検証するか、子ども自身に意識させることが重要だ。


【読売】
左巻健男・法政大教授理科に関するアンケートでは小学校から中学校に上がると、「理科の勉強が好き」という回答の割合が減少していた。
その理由は、小中学校で学習内容の難易度に大きな差があるからだろう。 その理由は、中学校で本格的な勉強としての理科が始まるからだろう。小学校で理科の基礎・基本となる部分を学ばせ、小中のつながりを持たせれば、全体的なレベルアップが図れる。
小学校では、前回と同様、実験・観察の分析や考察に課題がみられた。自然がどうなっているか、普段から考えるような指導を充実させて欲しい。
中学校では、水溶液の濃度など中1の学習内容で正答率が低い傾向がうかがえた。「ゆとり教育」からの脱却で学ぶ内容が増えたのに、授業時間を十分確保できていないのではないか。小中学校を見通した教育課程の根本的な見直しも検討する必要があるかもしれない。


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全国学力・学習状況調査 理科


◎小学校理科 前回と比べて、問題の劣化が目立つ。小学校理科がゆたかに科学的に自然をとらえるという目標を見失って、関係づけや条件制御などの思考操作に偏っていることが問題にも反映していると思う。問題の設定状況が実生活と乖離し、問題のための問題になっている。
 メダカの雌雄を問う問題など教科書にあるが些末な知識の確認をするもの、関係づけや条件制御などの思考操作に関する問題が目立つ。自然をゆたかに科学的にとらえる基礎的な事実や科学概念をメインにしながらその活用を問う問題であってほしかった。
 きっと今回の結果をもとに次回の正答率を上げようと、些末な知識や、関係づけや条件制御などの思考操作に関する問題の演習がさかんになされるようになるのを恐れている。 一番避けたいのは、学校が学力調査の結果を上げようと思考操作などの技術的なことばかりを教え、理科で最も大事な自然の摂理を学ばせることがおろそかになることである。
 自然をゆたかに科学的に捉える理科教育を進めることが肝心なことであろう。
 子どもは理科が好きである。しかし、いま小学校教員の理科離れが目立つ。今回の調査の趣旨のような学力が求められるとさらなる教員の理科離れと、その結果としての子どもの理科離れが懸念される。


◎中学校理科 小学校理科と比べるとずっと妥当な問題が多い。
 前回同様、選択式の問題の正答率は、ある程度高いが、短答式や記述を求める問題、計算問題は正答率が低かった。
 特定の質量パーセントの水溶液をつくる計算問題や凸レンズの問題の正答率が低いのは中学校1年の学習内容であることが効いていると思う。前教育課程と授業時数が同じだが学習内容はずっと多くなったので消化不良を起こしやすい。

◎理科授業では、本当の基礎・基本と共に、実物を持ち込んだり、予想や仮説をもって自然に問いかける観察・実験を行ってその結果から予想や仮説を吟味することも大いに行いたい。実験・観察・ものづくりをやりながら未知なる自然を探究する、たのしくわかる理科の授業が求められていると思う。


◎前回の理科では、私は、次のように考えた。
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 児童生徒質問紙の結果では、小学校、中学校共に、国語、算数・数学と比べて「理科の勉強は好き」という割合が多い。しかし、「大切と思う」「学習したことは、将来、役に立つと思う」は、国語、算数・数学と比べてずっと低くなっている。理科は「好き」だし、「よくわかる」と思うのに、「大切」「役に立つ」ががくんと減るのは、学校の理科教育が、本当の知的関心・興味に応えていない、生活等身の回りの事物や現象との関連づけが弱いからではないかと思える。これまでも国際的な理科の調査でも、わが国の子どもは、サイエンスやそれに関するキャリアなどに興味・関心が弱いという結果が出ていたが、文部科学省全国学力調査も同様な結果だった。
 では、どんな子どもが理科の正答率が高かっただろうか。
 自然の中で遊び、科学や自然の疑問を質問したり調べたりする、学習したことを生活の中で活用しようとする、授業で自分の考えや考察をまわりに説明したり発表したりする子どもの正答率が高かった。
 教員は、子どもたちを、そのようなアクティブな学び手に育てていく必要があろう。そのためにも授業に一層の工夫が求められるだろう。
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 本当の基礎・基本は、適用範囲が広いゆえに「わかる」ということが、すなわち、子どもの視野を広げ、「知的喜び」と「感動」をもたらす。基礎・基本は、むやみにたくさんあるわけではない。これらは、たとえば「物の重さ」では、「物は重さをもっている。重さは保存される」、「生物の特徴」なら「「栄養をとる(つくる)、成長をする、呼吸をする、子孫を残す」など」というように1行、2行で示せるようなものである。これらをゆたかな教材を通して、その場かぎりの認識ではなく、「活用」もしながら、理解と納得の上に信念として獲得させることが重要である。
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 前回の結果を見て、以上のように考えたのだが、今回(H27)はどうだろうか?

※前回と比べて「調査問題」そのものが劣化

 これはそくに小学校理科で著しい。以下は三上周治・京都橘大学教授の意見を参考にした。

●1のエネルギーに関する問題・日常生活と乖離した振り子時計・学習内容「振り子」の活用をみるというが、その運動の基本を問うのではなく、「条件制御」という思考操作を問うものになっている・無理な状況設定 振り子時計→実はにせもので電池で電磁石利用式など●2の生命に関する問題・メダカの雌雄 ただ暗記しておくとできる問題 「オスの背びれ・尻びれは、交接の時にメスを抱きかかえ、受精の確率を高めることに役立っている。」という繁殖の観点が教科書にないので暗記になっている。
・5年生までで「顕微鏡」が観察の道具として必須の場面は「水中の微生物」程度ではないか。それも「メダカ」の箇所で付随的。
インゲンマメには、2〜3mにもなるつる性と50cmにしかならないツルなしがある。栽培期間も、ツルありは4ヶ月。ツなしは2ヶ月(60〜70日)と素人には育てやすい。だから、学校ではツルなしの栽培が適している。ツルなしは支柱もいらないから、プランターで育てられる。それに5月ぐらいに種まきをするのが普通で、7月の上旬には収穫(2週間)も終わる。そして、一気に株は衰える。データの読み取り能力を調べたいので、すぐにグラフを用いるが、そのグラフにも問題がある。一般的なつるなしインゲンマメ成長と、ここに示されたインゲンマメの草丈のグラフは一致しないのだ。(勿論個体差はあるだろうが、問題にするなら一般的なものがいい。ひょっとするとこのグラフは事実でないのかもしれない。)5月初めに種まきをしておれば、暑くなる前、ヒマワリが成長して影を作る前に収穫は終わる。即ち、夏休み前にインゲンマメの学習を終えることができる教材である。
●3の粒子に関する問題・「水蒸気は気体で目に見えない」ことの問題がとしおさんがゆかりさんのを否定してのもので、「目に見えない」限定があるのでやさしすぎ。これで前回より改善といえるか。
・1リットルのビーカーでアルコールランプの火力程度で加熱では対流は起こりにくい。やってみると対流ではなく揺らぎで温度が上がっていく。実際の状況がどうなるのではなく「りかさんの考え」ならどうかを質問。この問題(3)の実験データは本当なのかどうか疑わしい。8分間で50℃までしか上がらない結果がある。
・溶解度をこのように定量的に扱うのは中学校1年の学習内容。
・砂糖は溶解度の実験に適していない。多量に溶け非常に粘っこくなる。溶けたかどうかがわかりにくい。
●4の地球に関する問題・「東の90℃右は南」が分かっていれば、あるいは覚えていれば答えられる問題。「観察事実」「関係づけ」「情報の考察」「分析」など不要でできてしまう。それでも正答率が低いのは「方位」概念の学習に課題があるのは確か。
・この挿絵の月は月齢11前後。この問題の答えは、消去法で求めるしかない。形の違う4の三日月は違う。2の月は西にあるから8時より後で違う。あとは1と3で、3は左右の向きが変わっているから違う。よって残りは、1の月という事になる。
 正攻法で考えてみよう。8時に南天にあった。月の出から南天まではほぼ6時間だから、4時ということは1/3(30度)の位置にあることになる。答えは(1)にとなっているが図で20度しかない。すなわち、4じの月ではなく、3時過ぎくらいの月である。10度も違う挿絵を描かないでほしい。
・星座の動きは場面設定とは無関係に知識だけで答えられる問題。
・蒸発の問題は単なる知識確認問題。グラフも理科というより算数的。