左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

ナトリウムくらい授業で見せようよ

 左巻健男です。

 今日4/17は午後、理科教育法1,2の講義があるので大学に来ています。

 前期はもう一つ「化学基礎」の講義をもっているのですが、その初回で
「高校時代に化学の授業でナトリウムの実物を見せて貰った人?」と
聞いてみました。約50名の受講生のうち5,6名の手があがります。みな、
環境応用化学科の1年生です。
 「カリウムやカルシウムは?」となると2,3名。

 ぼくは東大附属中高の教員時代、アルカリ金属アルカリ土類金属
ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウムなどを見せて水との反応
などをやっていました。
 彼らはそんな基本的な物質も写真でしか見たことがなくても化学科に
来ているのですが、いいのかなあ、と思いました。

 今日の理科教育法の学生(化学と生命機能の2年生)20名ほどにも
聞いてみようと思います。

──────────────────────────────────
[以下はナトリウムとの出合いについて、かつて書いたもの]

*ナトリウムとの衝撃的(爆発的)出会い

 どうしてそうなったか記憶にないが、「左巻君、このナトリウムを処理
してくれ。」と教員に言われ、灯油が飛んで、表面ががちがちになった
ナトリウムの大きな固まりがいくつか入ったびんを渡された。
 左巻健男が、工業高校工業化学科の生徒だったときだ。
 その高校には校庭に川が流れていた。
 まず小さな固まりを川に投げ込んだ。ナトリウムは爆発して水柱があがった。
大きな固まりを投げ込んだ。大きな水柱であがった。
 ナトリウムは、小豆粒大くらいなら水と反応してすぐに爆発、ということは
ないが、大きな固まりだと爆発する。これは、ナトリウムと水の反応によって
発生した水素による爆発と説明されることがあるが違うようである。ナトリウ
ムが反応熱で融解し、温度が上昇するが、表面は水酸化ナトリウムを主成分と
する皮膜で覆われているので、600〜800℃になると、皮膜は融解し、内部の
ナトリウムが水と直接接触して爆発がおこる。この爆発には、高温の融解した
金属と水との接触による衝撃波の発生が大きく関与していると考えられている。
 ナトリウムが好きになってしまった左巻健男は、大学ではナトリウムの固まり
を並べて、ホースで水をかけて、爆発してちりぢりになった小片があちこちに
飛んだところでぽっぽと炎をあげて燃えるのを、級友たちに見せたりした。
 以来、左巻健男は、金属単体やモノたちに強く惹きつけられたまま大学、
大学院にすすみ、化学を学んできた。大学院では、白金の仲間を触媒として
いじっていたが、しばらくしてから科学教育のほうに専門を変えたものの、
物質の世界への興味は持ち続けている。

──────────────────────────────────
4/19追記(新理科教育MLに投稿)


左巻健男です。
 つい最近、左巻健男・山本明利・石島秋彦・西潟千明『理科の実験 
安全マニュアル』(東京書籍 2003)の4刷りが送られてきました。
 4刷りは発行日が2009.4.6です。

 事例は実際の学校での事故などを収集しました。その際はたくさん
の人の協力を得ました。
 発行して6年が経ちますから、さらに事例を収集し、対策なども
手直しする必要があるかもしれません。

 そこに「12.ナトリウム、カリウムと水で爆発」があります。
 参考のために入れておきます。

【事故事例】
●もう反応するナトリウムはないと思い流しに捨てたら、発火爆発。
●ナトリウム、カリウムと水の反応で、水面に生じた液体の粒が飛散。
●ナトリウムのくずが残っていた広口びんに硝酸を注いだため、急激に反応
し出火。
●シャーレなどの中でふたをして反応させたとき、発生した水素のために
ふたが飛ばされた。
●ナトリウム、カリウムと水の反応で生じたミストを吸い込んだら激しく咳
が出た。
カリウムを灯油中から取り出して、ナイフで切ったところ発火。
【事前注意事項】
1.ナトリウム、カリウムは、ともに水と接するとはげしく反応する。その
とき、水素を発生する。カリウムは水中でも発熱のため水素に引火し燃焼
する。また、水面で融解したものが爆発的に飛び散ることがある。水と反応
させるときは、米粒大程度以下(4×4×4mm3(約60mm3)以下)にし、内径
16mmより細い試験管では危険であるので用いないようにする。
2.2個以上のナトリウム片を同時に水面上に置くと、融解して合体し、
大きな塊になるから危険である。
3.試験管を用いてナトリウムと水の反応を観察させるときは、30℃以下の水
約10mLを入れた太めの試験管を試験管立てに立て、この中ヘナトリウム片を
投入し、側面から1m以上離れて観察させるようにする。絶対に上からのぞか
ないようにする。
4.シャーレや水槽で水と反応させるときは、ふたやガラス板で上部をおおう
ようにする。ただし、密閉すると危険。
5.手などに触れると薬傷をおこすので、絶対に皮膚に触れないようにする。
6.カリウムは、比重が小さく、強く発熱し、小粒でも水の上をすべりながら
火をふいて、飛び散りながら反応する。ナトリウムより危険が大きいので、
ドラフト中で行うか、安全眼鏡をかけて行うようにする。
【事故時の救急処置】
・皮膚についたときは、ナトリウム、カリウム片や飛沫を直ちに取り去り、
すぐに多量の水で30分くらい洗う。その後、3%酢酸で中和する。
・燃焼時の煙霧を吸入したときは、できるだけ多量の水を飲むようにする。
・目に入ったときは、できるだけ早く水洗を約15分間続けた後、専門医の
診察を受けるようにする。
【解説】
・ナトリウム、カリウムの保存
 ナトリウム、カリウムは水および酸素と激しく反応するので、びんに灯油を
入れ、その中に沈めて販売されている。びんが割れると火災を発生する危険が
大きいので(地震を予想)、びんを緩衝材で包んで、ふたのある金属製容器に
納めて保管する。
 ナトリウムの使用や灯油の蒸発によって液面が低下し、ナトリウムの上部が
液面から露出したら灯油を補充する。補充する灯油は塩化カルシウムで脱水
して用いる。
・ナトリウムの処理 
 実験で不用になったナトリウムはエタノールと反応させてしまうようにする。
エタノールにナトリウム片を加えると、下に沈んで水素を発生させながらナト
リウムエトキシドになって溶けていく。残った廃液は強塩基(アルコシドは
水酸化ナトリウムより強い塩基)なので、皮膚に触れないようにして多量の水
に流し去ること。
【参考文献】
・中西啓二・加藤俊二『化学実験の事故をなくすために』(化学同人 1984.6.25)