左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

ニセ科学に騙されないための本

 まずは、拙著の紹介です。数年前から、科学者や科学教育者有志がニセ科学への批判活動を始めました。私も有志の一人です。そこで出版したのが、左巻健男著『水はなんにも知らないよ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)という新書版の本です。帯は「徹底検証 まん延するニセ科学にダマされるな!」


 とくに重大と思ったのは、ニセ科学を信じ込んで学校で子どもたちにも教えてしまう先生方が出てきていることです。容器に入った水に向けて「ありがとう」と「ばかやろう」の「言葉」を書いた紙を貼り付けておいてから、水を凍らすと、「ありがとう」を見せた水は、対称形の美しい六角形の結晶に成長し、「ばかやろう」を見せた水は、崩れたきたない結晶になるか結晶にならなかったという写真集を見せての授業です。水は「愛と感謝の言葉」を理解する、「水は答えを知っている」、ならば体にたくさん水をもつ人もいつも「愛と感謝の言葉」を使おう、「悪い言葉」を使うのは止めよう、という授業が広まりました。この写真集は、「波動測定器」を使った波動カウンセリングという治療まがいのことや、よい「波動」を転写した高価な「波動水」を広めるために出版されたものでした。つまり、「波動」商売の一環です。

 言いようのない不安感の広がる時代、「何かにすがりたい」という依存の心にニセ科学がしのびこみます。「科学的に物事を見よう」と思っている人にも、ときに、ニセ科学は入り込みます。ニセ科学とは、科学とは全然違うのに、科学の言葉を使いながら科学の雰囲気を出して人びとをだまそうというまがいものです。マイナスイオントルマリンゲルマニウムなど「波動」系、「超能力」、血液型性格判断、EM、デトックス…と程度の差はありますがニセ科学が世にあふれています。

 わが国は、科学はよくわからない、興味もあまりない、でも科学は大切だと思っている人がたくさんいます。科学と無関係でも、論理などは無茶苦茶でも、科学っぽい雰囲気をつくれれば、ニセ科学をほいほいと信じてくれる人たちがいます。すぐにオカルト的と見抜かれる説明よりも、科学的な用語を使ったりして、科学っぽい装いをしているが、実は科学的な根拠はないニセ科学の説明がはびこっているのは、科学への信頼感を利用しているのです。

 「『水はなんにも知らないよ』を絶対に出そう!」と私が決意したのは、教育界にまでニセ科学汚染がまん延している状況があるからです。本書の前半は、「水は答えを知っている」という本の検証です。後半は「メッタ斬り!怪しい水ビジネス総まくり」と水と健康についての基本的な解説です。
 ニセ科学は、とくに健康をめぐる分野でまん延しています。水に限っても波動水をはじめとして、トルマリン水、マイナスイオン水、ナノクラスター・ゲルマニウム水など万能性をアピールし、ニセ科学で消費者を釣って高価なものを買わせようとするものがあります。アトピーが治る、ガンにならない、ガンが治る、など病気の不安心理につけ込み、ニセ科学の衣で科学っぽい雰囲気を出し、体験談で治った事実があるかのようにして、怪しい健康情報がテレビや新聞・雑誌などのメディアを通して迫ってきています。

 山ほどある怪しい健康情報の真贋ををどう見抜くかは、メディアの報道では、センセーショナルな話題に引っ張られたり、記者が思いこんでいたり、捏造したりする構造がひそんでいることを知っておく必要があります。その構造をメディア・バイアスと呼んで、いくつもの具体例を元に展開しているのが松永和紀著『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)です。

 とくにテレビは「FBI超能力捜査官」なる人を登場させたりして、ニセ科学の「超能力番組」を垂れ流しています。「と学会」(「トンデモ本」を収集・批評して楽しむサークル)の会長である山本弘著『超能力番組を10倍楽しむ本』(楽工社)は、大人はもちろん子どもにも読める、テレビのインチキを見破る楽しみを教えてくれる本です。テレビの超能力や霊やUFOの番組のインチキを観察力と推理力で(「科学の目」で)見破ることができる喜びを感じたいものです。

 「9.11テロ自作自演説」という陰謀論を信じ込んでいる人もいるが、少なくても奥菜秀次著『陰謀論の罠 「9.11テロ自作自演」説はこうして捏造された』(光文社)を読んでから判断されることをおすすめします。