左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

6年前の呼びかけ:検定外理科教科書づくり(『RikaTan(理科の探検)』誌2009.3月号編集前記)

 6年前の呼びかけ
 ───教育を変えていく活動の一つとしての検定外理科教科書づくり
                 ○
 本号は、日本の理科教育が今後どう変わっていくかを特集する。
 ぼくにとって、学習指導要領の理科の大きな改訂は感慨深いものがある。そ
れは次のような活動を行ってきたからだ。
 2003年1月にいくつかのML(メーリングリスト)に、次のような呼び
かけを行った。
 「みなさん、ご存じのように今年4月から新しい学習指導要領が実施されま
すが、そこではそれまでの学習指導要領と比べて教育内容が3割削減されてい
ます。しかも、検定教科書は、学習指導要領に縛られた記述しか許されていま
せん。ここ20年来〈ゆとり教育〉が進行して先進諸国の中では本当に薄っぺ
らの教育内容になりました。
 量的な削減だけが問題でなく、理科教育の内容が質的に大きな欠点を抱えて
いることが問題だと警鐘を鳴らしてきました。その学習指導要領の実施が目前
に迫っています。
 そこで、私たちは、検定教科書の代わりに使える、本質的な内容をわかりや
すく正確に教えていく教科書をつくることを決意しました。出版社は、文一総
合出版が意気に感じてくれて発行元になってくれます。
 執筆MLを組んで使いやすい(教えやすい、学びやすい)教科書をつくって
いきたいと思います。
 教科書づくりは大変な仕事です。
 そこで、教科書の作成過程に参加してくれる方を求めていこうと思います。
 月並みな言い方かもしれませんが、一人一人の力は小さいですが、それがう
まくまとまれば大きな力になります。みなさんの積極的な参加をお願いいたし
ます。」(一部省略)
 呼びかけの反響は大きかった。
 中学校教諭を中心に、高等学校や大学の教員も呼びかけに応えてきた。理科
教材会社の方やマスコミの方や会社の技術関係の方もいた。参加者は200人余
り。うち、中学校で教えている人が約6割である。教育現場ではこの活動を待っ
ていたのである。
 編集・執筆・原稿検討のためのいくつものMLを設置して進めた。
 ぼくのほうから内容構成のたたき台を提案する。もうそこからML上で激しい
議論が繰り広げられた。
 内容構成や執筆分担が決定されると、次の段階は原稿を執筆していく作業と
それらを検討していく作業が進んだ。
 ぼくは、多いときには1日に約300通のメールを受け取り、数十通のメー
ルを出した。
 こうして1年間かけて『新しい科学の教科書』学年別3巻(文一総合出版)が
できあがった。今では学年別に加え、分野別版、物理・化学・生物・地学の4巻
本もつくった。さらに別の出版社から中高一貫校向けの『系統的に学ぶ物理』
(文理)など4巻も。
 学習指導要領の理科に対して、単なる評論家的批判ではなく、具体的な対案を
世に問うという活動になったのだ。
                   ○
 この活動は、新聞・テレビなどでも報じられ、発行するや万の単位で増刷を
くり返すことになった。
 今回、日本の理科の教育課程が大きく変わることになった。そこに、ぼくな
どが進めた、この検定外理科教科書づくりの活動が小さいながら影響を与えた
に違いない。
 RikaTan誌も、検定外教科書が目指したように、教育の変革だけでなく、大人
も含めて科学的リテラシーの向上に大きく貢献できればと願っている。