「正義の仮面」をかぶってデマゴギー
2011年4月末から5月1日にかけて名取市閖上→気仙沼まで被災地を回った。仙台や福島の友人らと。
その視察記は、次に書いた。
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【コラム】消えた海辺の町、沈黙の山村by拙編著『怖くて眠れなくなる地学』PHPの41~45p(最初は新潮社のムックに)
3.11以後、福島について「食べて応援」した(かなりある人らから攻撃されたが)、
福島駅近くの小学校でRikaTanの仲間と実験祭りをやった、
学校ごと避難している中学校で授業をした、
鉄の旅で福島を回った…。こんな程度しかできなかった。
きっと「正義」だと思ってだろうが、放射性物質・放射線による被害を殊更望んで、デマゴギーを広めてきた鬼畜らがいる。
それを知るために時々覗くのは次。信夫山ネコさん同様、ぼくも憂鬱になる。反体制のためならどんな鬼畜な事でも(表面はきれいそうな飾りをつけながら)やる人らがいるから…。
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福島 信夫山ネコの憂うつ
「反原発」による「放射能で福島壊滅、逃げてください!」デマを除染するにゃ 「デマ死ね」 福島は「フクシマ(差別語)」ではない
http://shinobuyamaneko.blog81.fc2.com
日経に広告(その画像)→『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』左巻 健男 ダイヤモンド社
絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている 左巻 健男 ダイヤモンド社
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火の発見とエネルギー革命、歴史を変えたビール・ワイン・蒸留酒、金・銀への欲望が世界をグローバル化した、石油に浮かぶ文明、ドラッグの魔力、化学兵器と核兵器・・・。
化学は人類を大きく動かしているーー。
人類の歴史は化学とともに発展してきた。「化学」は、地球や宇宙に存在する物質の性質を知るための学問であり、物質(モノ)同士の反応を研究する学問である。始まりは、人類史上最大の発明とも呼ばれる「火」(燃焼という化学反応)の利用である。人類は火を利用することで、土器やガラスを作り、鉱石から金属を取り出すようになり、生のままでは食べるのが困難だった動物や植物も捕食の対象に加えて、生存範囲を飛躍的に広げていった。
現代では、金属やセラミックス、ナイロンのような合成繊維から、ポリエチレンのようなプラスチック類、高性能な電池、創薬などの新しい物質や製品を生み出しているが、いずれも化学の成果に下支えされている。つまり、化学は、火、金属、アルコール、染料、薬、麻薬、石油、そして核物質と、ありとあらゆるものを私たちに与えた学問と言える。
本書は、化学が人類の歴史にどのように影響を与えてきたかを紹介する、白熱のサイエンスエンターテインメント!化学という学問の知的探求の営みを伝えると同時に、人間の夢や欲望を形にしてきた「化学」の実学として面白さを、著者の親切な文章と、図解、イラストも用いながら、やわらかく読者に届ける。
【目次】
すべての物質は何からできているのか?
デモクリトスもアインシュタインも原子を見つめた
万物をつくる元素と周期表
火の発見とエネルギー革命
世界でもっともおそろしい化学物質
カレーライスから見る食物の歴史
歴史を変えたビール、ワイン、蒸留酒
土器から「セラミックス」へ
都市の風景はガラスで一変する
金属が生み出した鉄器文明
金・銀への欲望が世界をグローバル化した
美しく染めよ
医学の革命と合成染料
麻薬・覚醒剤・タバコ
石油に浮かぶ文明
夢の物質の暗転
人類は火の薬を求める
化学兵器と核兵器
「ホームステイを楽しむ丸ごと実験ものづくり特集号」(仮題)を『RikaTan(理科の探検)』誌7月号で出したい
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第1回:人類はいつ頃から火を利用してきたのか | 世界史は化学でできている | ダイヤモンド・オンライン https://diamond.jp/articles/-/262332
第2回:都市ガスにわざと「におい」がついているワケ。本来は無臭です | 世界史は化学でできている | ダイヤモンド・オンライン https://diamond.jp/articles/-/262570
第3回:マリー・アントワネットも悩まされた、ベルサイユ宮殿の残念な真実 | 世界史は化学でできている | ダイヤモンド・オンライン https://diamond.jp/articles/-/262603
第4回:16世紀、ヨーロッパの銀価格が大暴落した納得の理由 | 世界史は化学でできている | ダイヤモンド・オンライン https://diamond.jp/articles/-/262782
2021.2.17
*まだまだ続きます。以下で確認を。
https://diamond.jp/category/s-chemistry
左巻健男『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』ダイヤモンド社2/17発行
EM生活販売のEM1号中に光合成細菌は検出されずという「液体肥料中の細菌叢解析」報告書
EM菌比嘉照夫氏は薬機法(薬事法)違反をわかっていてEM清涼飲料水EM-Xゴールドの効能を述べているのでは?
EM菌開発者・(株)EM研究機構株主の比嘉照夫氏。
『新・地球を救う大変革』サンマーク出版に、比嘉氏としては踏み込んで書いていた放射能とかウイルスに対する健康効果が、出版社に全部カットされた経緯を語っている。
→EM菌開発者・比嘉照夫先生のお人柄 - Togetter https://togetter.com/li/511735 @togetter_jpより(講演の動画が公開されていたものの文字起こし。現在は非公開だが動画は保存されている)
それは薬事法の関係だったことをこの講演で明らかにしている。
つまりEM菌開発者・(株)EM研究機構株主の比嘉照夫氏が「清涼飲料水 EM-X ゴールド」の効能を述べることは薬事法(現薬機法)違反になることをサンマーク出版はわかっているし、比嘉氏もそれを了解して本からカットした。
しかし、このような信者向けの講演やDND出口俊一氏(EM菌批判の学者のいる大学に「EM研究機構顧問」や「ヒノキヤグループ社外取締役」の名刺を出して抗議活動していた)サイトの比嘉氏連載などで「清涼飲料水 EM-X ゴールド」の効能を述べている。
EM研究機構サイトの商品紹介は薬機法・景表法違反にならないようにしているようだが、比嘉照夫氏が本などで効能を述べることは薬機法違反になることを知っての上で、講演やWEB連載などでやっているのは悪質だと思うがいかがだろうか。
薬機法上は清涼飲料水に抗酸化力などの効能を述べることはできない。
しかし、比嘉氏はオーリングテストや波動測定の結果から清涼飲料水EM-XゴールドはEMX(現在の「万寿のしずく」)の5倍の抗酸化力があると述べる。
オーリングテストや波動測定の結果は何の根拠にもならない。逆に自らのオカルト性・ニセ科学性を露呈させているという代物だ。
また、片瀬久美子氏によるEM菌の構成菌の分析では光合成細菌は含まれていず、日和見感染症の原因となる菌が含まれていたりする。前々から専門家から光合成細菌が見られないと指摘されていた。
EM-X(現在の「万寿のしずく」)は、故田中茂氏が「難病を救う」と述べていたが、EM-Xゴールドと原料や製法が大きく違う。(EM-Xも清涼飲料水であり効能を述べることができない。)
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【EM菌開発者・比嘉照夫先生のお人柄】(文字起こしから):
で ちゃんとやって行こうと で だから これで あの~ どんな環境問題も含めて え~また 健 健康問題もそうですね 放射能ってのは一番恐ろしい訳ですが(うん)それで対応出来る と
それからもう一つは この本には書かなかったんです って言うのは
あの~ 薬事法の関係もあって ですね え~ どうしても サンマーク社から EMを守りたいから これだけは省こうと 言われて 放射能とかですね ウイルスに対する あ~ 健康効果については 踏み込んで書いていたんです
でもこれは が 全部 カットされたんですね それで あ~ しょうがないんで 会の報告とか色々入れて あの本に仕上げたんですけれども 実際の この~ 地球を救う大変革 宣伝するもう一つは 人類はまだウイルス 微生物に勝った事が無いんです
25:57
あ~ まぁ エイズはじめですね C型B型肝炎をはじめ ま あらゆる難病は全て ウイルスと絡んでいます で このウイルスを 押さえ込む 実際にはウイルスだけを取ってですね 弱らせてるのに EM-X ゴールド やると このウイルス 元気になるんですよね
で だから あの~ウイルスだけ やっつけて 他の正常細胞 元気にするか っていうと そうじゃ無いんですよね 生命あるもの全てにエネルギーを 与えてるっていう事は わかった これは 例外は無い訳ですよ 建築物は強くなるし
で 昨日も話したように マッサージをしたり 色々していくと 人間の体も ちゃんと あは(笑)新品とは言わないけど 正常な状態に戻って行く という これは 同じ原理なんですが
で~ そういう事から考えると ウイルスにもエネルギーを与える そうすっと ウイルスも強くなってしまうんではないか と 確かに そうかも知れないんです 実験室上では
ですけど現実にはウイルスは抑えられているんですね ウイルスは抑えられてるってのは 基本的には 免疫力 なんですね…
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↑
A:【ウイルスだけにEM-X ゴールドやると元気になる・強くなる】
・実際にはウイルスだけを取ってですね 弱らせてるのに EM-X ゴールド やると このウイルス 元気になるんですよね
で だから あの~ウイルスだけ やっつけて 他の正常細胞 元気にするか っていうと そうじゃ無いんですよね 生命あるもの全てにエネルギーを 与えてるっていう事は わかった これは 例外は無い訳ですよ 建築物は強くなるし
・ウイルスにもエネルギーを与える そうすっと ウイルスも強くなってしまうんではないか と 確かに そうかも知れないんです 実験室上では
B:これと、DND出口俊一氏サイトの連載 http://dndi.jp/19-higa/higa_77.php で述べていた、
・今回の実験結果のように、pHを基準とすれば、有機酸の類いであれば効果があり、EMによる独創的なものではないという声もある。確かに、pH4.5以下ではウイルスの失活効果も高いということも充分に承知の上でEMにpHのみの効果でない事例が無数にあることを補足したい。
その第1は、EM1号の入った容器の上でウイルスを培養すると、EM1号が添加されたのと同様にウイルスが失活するということである。
は、大きく矛盾すると思う。Aが正しいならばBでもウイルスは元気になるだろう(しかし、Bは離れているウイルスを失活させるというバカバカしい主張だが)。無数にあるというその事例を2,3でいいから扱った論文をみたいものだ。
最初にDND出口俊一氏サイトの連載を見たときに感じた荒唐無稽さ。このことはDND出口俊一氏との裁判でも問題になった。
↓
「EM菌入り容器の上に置かれたウイルスがそのEMにより失活する」という荒唐無稽さ - 左巻健男&理科の探検’s blog https://samakita.hatenablog.com/entry/20170623/p2
ニセ科学と教員-ニセ科学にだまされる教員たち-
【ニセ科学と教員】by左巻健男『学校に入り込むニセ科学』平凡社新書
●ニセ科学にひっかかりやすいタイプの人
ニセ科学を信じ込み、ニセ科学を学校で教えてしまう教員がいるのはなぜなのか? と問われることがある。そんなときぼくは、「教員も一般の大人に過ぎない。一般の大人にも、ある割合でニセ科学を信じ込んでしまう人たちがいるのと一緒だ」と答えている。そのときによく例として取り上げるのが、経営コンサルタント・故船井幸雄氏のマーケティング論における人のタイプ分けだ。
船井氏は、ニセ科学を「すごい! 驚きの技術だ、考え方だ」と褒めそやし、ニセ科学の普及に一役も二役も買ってきた人物である。氏は人を4つのタイプに分け、その第一のタイプ「先覚者」(2%くらい)に注目している。その男女比は男:女=2:8で、女性がメインである。少し例は古いが、インドにサイババという超能力者がいると知れば、インドに会いに行ってしまうようなタイプだ。
第二のタイプは「素直な人」(20%)。「先覚者」の言うことに、素直に耳を傾けるタイプ。
第三のタイプは「普通の人」(70%弱)。
第四のタイプは「抵抗者」(10%弱)。50歳以上の男性に多いという(この本の筆者もここに分類されるだろう)。職業的には学者、マスコミ人がメイン。船井氏は「抵抗者」は無視するという。
船井氏が注目する第一のタイプ「先覚者」の3、4割が動き出すと、「素直な人」の半分くらいが同調する。さらにそれに「普通の人」が追随してブームが起こるという。
ぼくのようなニセ科学批判の側からこの分類を見ると、とくに「先覚者」や「素直な人」がニセ科学に引っかかりやすい人たちに当たる。いまや、その中に教員もかなりいるのが大問題なのだ。
●ニセ科学にだまされる教員たち
教員は被教育者のころはほどほどの優等生で、教科書の内容を覚え、試験でそれを吐き出して今日があるという人が大半である。善意や感動というものをあまり疑わずに素直に育ってきた人が多い。ニセ科学側は、それを利用する。後述する「水からの伝言」というニセ科学では、「教室の子どもたちの言葉遣いをよくしたい」「子どもたちに環境によい活動をさせたい」という善意の動機のもと、写真や説明を見て科学的なものだと思ってしまったり、教育団体の指導者が推薦していることだからと、ニセ科学に絡め取られてしまう。
ニセ科学でだます側は、教育こそが自分たちの主張の拡大の手段になることを知っている。教員を通して多くの子どもたちへの浸透を図るのである。そこでニセ科学は、“善意”と“感動”とに弱い教員を主なターゲットにする。
人間生活において“善意と感動”は大切なことである。しかし、学校において善意や感動の衣をまとったニセ科学は、子どもたちから批判的・合理的・科学的精神を奪い、教育の土台を崩していく。
学校で子どもたちが批判的・合理的・科学的精神を養うには、まず教員がそれを持っていることが前提だろう。
EM菌の三大危険性 by『学校に入り込むニセ科学』左巻健男(著)/平凡社新書
*「EMの三大危険性」は、本書の一部である。(EMはいわゆるEM菌)
Amazon→ 学校に入り込むニセ科学 (平凡社新書) 左巻 健男 2019年11月初版https://www.amazon.co.jp/dp/4582859259/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_mxMGFbF7J6GKA @amazonJPより
EMの三大危険性
私は、EMをニセ科学の中でもっとも危険と感じている。その理由を3つ述べよう。
①学校や環境活動に入り込み、善意の人たちEMの普及を担ってしまっていること
一部の学校では、先生方が子どもたちにEMボカシやEM団子を作らせて、プールや川や海に投げ込んでいる。環境活動を行っているボランティア団体でも同様なことをしている。
また、特定の会社の商品であるEMを使った活動に、自治体が助成金を出して支援してしまっている場合が多いのも問題だ。
②EM界隈が政界に影響力を及ぼしていること
かつて安倍内閣の文科大臣だった下村博文衆院議員は、比嘉氏の講演を聴いて「EM技術による放射能被曝対策もできるそうだ。(中略)同様の提案が私のところにも他からも来ている。私も勉強してみたい。」とブログで述べていた。
政界では、2013年12月3日に国会議員の超党派による「有用微生物利活用議員連盟」が発足している。この議員連盟は「EM菌議運」と言われ,会長は野田毅衆院議員(自民)、幹事長は平井卓也衆院議員(自民)、事務局長は高橋比奈子衆院議員(自民)である。
比嘉氏によると、この議運は、「スタートは50人内外でしたが、その後も新規に加入いただいていますので、近々100人を超える規模になりそうです。」と述べている(EM情報室 WEBマガジン エコピュア 連載 新・夢に生きる [79])。
安倍内閣は、市議・県議時代からEMの広告塔的立場だった高橋比奈子衆院議員を環境政務官につけたこともあった。これについては、「週刊文春」2014年10月30日秋の特大号に「元女子アナ環境政務官は“トンデモ科学”の広告塔 まだある女性抜擢失敗!」という記事が掲載された。この記事のトンデモ科学とはEM菌のことである。この記事によると、高橋議員の父親(共産党県議6期を努めて引退)は06年にEM関連の会社を設立、高橋議員本人はEM菌効果について「わからなーい!そういうことは!私に聞かないで!現場に行ってないから…」と話しているという。
また、2018年10月3日付けの「毎日新聞」は、「安倍内閣初入閣・平井科技担当相は『EM菌議連幹事長』と報じた。平井議員は「『EM菌を使っている方がたくさんいるので幹事長を引き受けた。中身はよく知らない』と釈明した。」という。
さらに、同年10月10日の毎日新聞は、「平井卓也・科学技術担当相は10日、科学的根拠がないと指摘されている有用微生物群(EM菌)を推進する議員連盟の幹事長を務めていることについて、議連の解散を含めて検討する考えを示した。閣議後の記者会見で『議連は活動停止状態と聞いている。まだ解散していないので、今後どうするかを考える』と述べた」と続報した。
実は、平井議員の後援会会長の会社「(株)アムロン」はEMセラミック「Eセラ」(EMX清涼飲料水を粘土に混入させ焼いたセラミックスの商品)の製造会社だ。また、平井議員の母・温子氏が社主の『四国新聞』ではよくEM菌の活動が掲載されている。平井議員が「中身はよく知らない」というのはあまりにも無恥というしかない。
比嘉氏は、さまざまなEM商品を全部使うEM生活をすることを国民の義務にすることを狙っている。国民全体がEM・X GOLDという清涼飲料水を飲み、さまざまなEM菌商品を使う「EM生活」をするようになれば、生活習慣病などはなくなるので、もし病気になったら自己責任なので社会保険制度は不要という主張までしている。
③EM批判者の批判封じの働きかけをしていること
EM研究機構の顧問と社員が、ときにはEM研究機構の顧問であることを隠し、EM菌の非科学性について批判している人らの自宅や所属機関に押しかけたりして、「名誉毀損」「営業妨害」だとして批判封じの働きかけをしている。
本来なら、EM批判をしている研究者とは公明正大に議論をすればよい。本当に商品の性能に自信があるなら第三者に自由に検証してもらい、もし問題が見つかれば商品の改良を重ねていき、批判をもとにより良い商品開発を目指していくのが企業としてのあり方ではないか。
ZAITEN2020年1月号
『学校に入り込むニセ科学』左巻健男(著)/平凡社新書/¥840+税 の担当編集者による紹介
水が人間の言葉を理解するという『水からの伝言』、微生物が水や環境などを浄化するという「EM菌」、ゲームが脳に悪影響を与えるという「ゲーム脳」、ほかにも、人には右脳型と左脳型がいる、発達障害は親の教育の失敗、白砂糖は有害だ、肉食は危険だ、食品添加物はよくない、などなど……一度はどこかで目にしたことがある言葉ではないでしょうか。でも、学校教育にも入り込んでいるというこれらの言説、一見科学的な装いをしながらみんな科学的根拠がない「ニセ科学」なのです。
教員や生徒の「善意」や「感動」を利用して、いま学校教育の中でニセ科学が勢力拡大を目論んでいます。そのオカルトまがいの言説は、学校教育の土台を揺るがすところまで来ているのをご存知でしょうか。ニセ科学の危険性に警鐘を鳴らし続けてきた理科教育の第一人者が、教育現場に侵入する怪しげなニセ科学の数々を一刀両断。どういうタイプの人がニセ科学にだまされやすいのか、そしてニセ科学にだまされないようにするためにはどうすればよいのかも指南します。(編集部 岸本洋和)
左巻健男『怖くて眠れなくなる化学』PHP 9月26日(土)から書店に。是非ご覧ください
【怖くて眠れなくなる化学 9月26日(土)から書店に。是非ご覧ください】
【“怖い!”ときたら化学と地学だよね!】
怖くて眠れなくなる化学 左巻 健男 https://www.amazon.co.jp/dp/4569847501/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_oYPBFbCCWTTWK
怖くて眠れなくなる地学 左巻 健男 https://www.amazon.co.jp/dp/4569846963/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_4YPBFbPHGDW8H
左巻健男編著『世界を変えた微生物と感染症』祥伝社のメディアでの紹介
「虫食い野菜・果物は健康にいいか? - 農薬と有機農法」by左巻健男
●虫食い野菜・果物は健康にいいか? - 農薬と有機農法
○完全無農薬栽培の「奇跡のリンゴ」という物語
有機農法(有機農業、有機栽培)とかオーガニックと聞くと、「安全・安心」「健康によい」「環境にやさしい」「おいしい」というイメージを持つ人が多いようです。
私は、学力的に劣等生の子どもでしたが、小学国語の教科書に、虫食いのリンゴの話があったのを覚えています。虫が食べるほどだから低農薬で安心だし、おいしいという内容でした。
この教科書に載っていた話は、「奇跡のリンゴ」の話と重なりました。
「奇跡のリンゴ」とは、青森県のリンゴ農家・木村秋則が絶対不可能といわれていた完全無農薬リンゴ栽培に成功したという話です。
石川拓治『奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録』(幻冬舎 二〇〇八)がベストセラーになり、さらに二〇一三年には、映画にもなりました。
木村秋則は、妻美栄子が年に十数回もリンゴの樹に散布する農薬に蝕まれたことを機会に、無農薬によるリンゴ栽培を決意しました。
一〇年の歳月がたってもリンゴが実ることはなく、窮地に追い込まれた秋則はついに自殺を決意、一人で岩木山に向かいます。すると、彼はそこで自生した一本のクルミの樹を発見。害虫にやられていない樹木を見て、この土壌と同じようにすればリンゴでも同じことが考えられるのではないかと思いました。
その年の秋、小さな実が成り、リンゴが収穫されました。美栄子たちはそのリンゴを食べ、おいしいと喜びました。一一年目になると、秋則は無農薬リンゴを発売できるようになりました。
「ワサビの抗菌成分を利用した樹木用の塗布剤」なるものを利用しています。これは農薬登録されていませんが、このようなものを使って無農薬といっていいのか疑問です。
木村秋則は、その後に出した著書『百姓が地球を救う』(東邦出版 二〇一二)で、「自然栽培で育った自然治癒力を持ったリンゴや野菜、おコメが、人間の治癒力に好影響を与える」「食べ物が大きな原因のひとつといわれる糖尿病やアレルギー、ガンなどの病気になる恐れが少なくなるでしょう」「日本ではガンによる死者が年々増えています。これだけ医学が進歩しているにもかかわらず、です。一方、アフリカなど発展途上国にガン患者が少ないという話はよく聞きます。つくづく考えてしまいます。農薬・肥料を使わない、自然界に自生しているものを食べている国の人たちのほうが、本当は豊かな食を得ているのではないか」などと述べています。
その木村秋則は二〇一五年末頃から体調が悪化し、二〇一六年一〇月胃がんを診断され、胃を切除する手術と化学療法を受けています。この胃がん手術後の木村秋則の体重はなんと二九キログラムだったとのことでした。標準治療が功を奏したか現在は講演活動もしているようです。
彼は、「無農薬にこだわり自然米だけを三〇年以上食べてきたのでがんがこの程度で済んだ」と述べています。
私の家は、農家でしたから、農作物の病気や害虫による食害、雑草などの対策が大変なのを知っています。その後長じて大学・大学院で化学を専攻し、中高で理科・化学を教えるようになりました。そんな私は、漠然と「虫食い野菜・果物は、虫が食べるほどだから安心」と思っていました。
ある事実を知るまでは。
○エイムズ・テストの考案者エイムズ博士の論文の衝撃
「ある事実」とは、虫の食害に対抗するために、野菜自身が多種類の防虫成分(天然農薬)をつくり出すということです。
天然農薬は、毒性学の第一人者であるカリフォルニア大学バークレー校のブルース・エイムズ教授が一九九〇年に米国科学アカデミー紀要に発表した論文で有名になりました。エイムズ教授は、サルモネラ菌を使って、わずか三日程度で化学物質の変異原性を調べられる「エイムズ・テスト」の考案者で、発がん性物質の研究者として世界でもっともよく知られているうちの一人です。
エイムズ教授らは、一九八七年、『サイエンス』誌に、「考えられる発がん危険性のランキング」と題した論文を出しました。
この論文で「三九二種類の化学物質について動物実験を行った結果、合成化学物質の六〇 %、天然化学物質の四五 %に、少なくとも一種類以上のげっ歯動物に発がん性が確認された」として、それらについての「発がん危険性」ランキングを示したのです。
それによると水道水のリスクを一として、DDE(DDTの代謝物)やEDB(二臭化エチレン。米国で農業用殺虫剤として使用されていたが、発がん性があるとされ、使用が規制された)は〇・三と〇・四、ピーナッツバターが三〇で、生のマッシュルーム(キノコの仲間)が一〇〇となっています。つまり、使用禁止にされた合成化学物質よりも、一日一個のマッシュルームを食べる方が、はるかに発がんの危険が大きいとされたのです。
この報告は論争をよびましたが、エイムズ教授は、論争の中で、「人間が摂取する植物中の発がん性物質のうち、天然化学物質の割合が極めて高い」と指摘しています。それらを、昆虫や菌類などの病害虫・病害菌から身を守るための「天然農薬」と表現しています。マッシュルームには、発がん性物質として、天然の殺虫成分ヒドラジンを含んでいます。論争は、エイムズ教授らのデータ処理で合成化学物質のリスクを過小評価しているなどで、天然農薬の存在は否定されていません。
エイムズ教授は、私たちのまわりにある危険な物質として、合成化学物質に目が行きがちですが、それ以上に危険なものが、自然界にちゃんと調べられないままに放置され、安全だと信じられていることに警鐘を鳴らしたのでした。たとえば、キャベツでは、天然農薬あるいはその代謝産物として、インドール化合物群、シアナイド群、テルペン類など六群四九種類も発見され、その一部には、発がん性が認められました。
虫の食害を受けると、天然農薬の分泌量は爆発的に増えるといいます。エイムズ教授らが天然農薬のうち五二種類を調べたところ、二七種類は発がん性物質でした。その中にはパセリなどのメトキサレン、キャベツなどのアリルイソチオシアネート、ゴマのセサモールなどがあります。
どんな野菜も、農薬を使って育てた野菜の残留農薬よりも、はるかに多量の天然農薬を含んでいるといいます。無農薬で育てた野菜のほうが虫の食害などで天然農薬が多くなっているとも考えられます。とくに現代の農薬は適正に使用すれば残留はないですから、農薬のリスクは、多量の天然農薬のリスクからすると心配するほどのものではないでしょう。
そのほか、虫の食害を受けた野菜の傷口にカビがはえて、そうとは知らずに口にしてしまうと、カビ毒の影響を受ける可能性もあります。「虫食いこそが無農薬の証拠」というセールストークをいう有機農法関係者がいますが、虫食い野菜・果物は健康上のリスクが高まります。虫食いがあるのは畑の管理が悪く虫が多い環境をつくっている、窒素肥料が多すぎて作物の体内の硝酸濃度が高くなり、虫が好むにおいを発して虫が集まってきてしまっている可能性もあります。
○有機農産物は栄養はすぐれているか? 健康によいか、?
二〇〇九年七月、英国食品基準庁(FSA)が、有機食品と一般の食品とで栄養成分や健康の影響に大きな差がないという研究結果を発表しました。有機食品と一般の食品と栄養成分にわずかな差はあるけれども公衆衛生上は意味があるレベルではないというのです。
これはFSAがロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院に委託した研究で、過去五〇年間の関連する論文を極めて包括的で綿密にシステマチック・レビューした結果です。
この発表は欧米のメディアが大きく取り上げ、すぐに大騒ぎになりました。欧米の有機食品市場は巨大ビジネスになっていますから、非常にインパクトが大きかったのです。メディア上や各地で大激論が起き、有機農業関連団体はFSAと研究者を批判し、論文執筆者のメールアドレスには異論・反論・読むに堪えない嫌がらせのメールが殺到したということです。
どう作っても同じ種子から育てたとき、有機農法でも普通の農法でもちゃんと作れば味も栄養も変わらないのは当然です。
○そもそも有機農法とは?
日本で有機農法による米(有機米)が公認される制度ができたのは一九八七年。米以外は、表示の規制がありませんでしたから、「有機」などと何にでもうたった農産物が数多く流通したことがありました。齋藤訓之『有機野菜はウソをつく』(SB新書 二〇一五)の表現を借りれば、いわば一九九〇年代は、有機バブルの世界でした。極端に言えばだれかが「これは有機です」と言えば、「その人が認めた有機農産物」で通ってしまったのです。
そこで国内の有機農産物の無法地帯化を是正し、何かルールを作るという流れになりました。一九九九年に、日本農林規格などに関する法律(JAS法)ができた後、有機JAS認証により有機農産物や有機加工食品に適合していると有機JASマークを付して表示できる制度になりました。有機JASの制定によって、有機農産物の流通量は増えました。
有機JASでは、化学合成農薬は使えませんが、天然物由来の殺菌剤や殺虫剤などは使用が許可されています。このため、有機農産物に無農薬の表示をすることは禁止されています。
もちろん、科学的に考えれば、天然物由来の農薬だから安全、逆に化学合成農薬は化学合成だから危険とは一概にいえません。
実は、有機農法については単純明快な定義がありません。日本では「有機農業の推進に関する法律」(二〇〇六年法律第一一二号)の第二条において、次のように定義されてはいます。
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化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業。
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しかし、この定義があいまいなことは、「基本として」や「できる限り低減」という表現が使われていることからも明らかです。
齋藤訓之『有機野菜はウソをつく』では、“今一人でも多くの消費者が「有機農産物であること」にこだわることをやめたなら、まずその人が、おいしく、健康によく、安全で、環境によい農作物をもっと自由に選べるようになりますし、多くの生産者、食品メーカー、流通業、小売業、外食業が気付いている今日の農業が抱いているもっと大きな可能性を屈託なく花開かせることにエネルギーを与えることができるはずです。
そのような新しい食と農業の世界が一日でも早く訪れることを祈ります」としています。
私たちは、有機農法、慣行農法にこだわらずに健康な野菜を見分けることができる判断力を持ちたいものです。
「二つのノーベル賞を受賞したポーリング博士のメガビタミン療法」by左巻健男
●二つのノーベル賞を受賞したポーリング博士のメガビタミン療法
○サプリ・健康食品問題の旗手の一人小内亨さんの回顧
私は、『RikaTan(理科の探検)』誌という大人の科学好きに向けた雑誌の編集長をしています。
二〇一〇年のことですが、サプリ・健康食品問題で活躍する一人小内亨医師に、新しく「健康情報を科学的に読み解く」という連載を引き受けて貰いました。
その連載第一回目は、次の文章から始まりました。
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今でこそ私はサプリメントに対して批判的な立場にいますが、三〇年前にはサプリメントにはまっていたことがありました。三〇年前といえばサプリメントのサの字もないときでしたから、私はさしずめサプリメント利用者のはしりであったともいえるでしょう。
医学生の頃、ライナス・ポーリング博士の著書『ビタミンCとかぜ、インフルエンザ』(共立出版 一九七七)に触発され、私はせっせと毎日ビタミンCをとっていたのでした。博士は、その本の中でメガビタミン療法を提唱し、人はより多くのビタミンを摂取すべきだと主張していました。
ポーリング博士はノーベル化学賞と平和賞の二つのノーベル賞を取った研究者としてきわめて有名な学者です。当時一介の医学生だった私が、彼の仮説を信奉したとしても不思議ではなかったでしょう。博士の主張をきっかけに米国でのサプリメントブームが始まったともいわれています。その後、米国のサプリメントブームは日本に飛び火し、今や日本でもサプリメントは一般的なものとなりました。
しかし、現在私はサプリメントどころかビタミンCさえも摂取していません。サプリメントのことを知れば知る程、摂取する気が失せてしまったのです。
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ポーリング(一九〇一~九四)は、アメリカの物理化学者です。一九三一年カリフォルニア工業大学教授、以後カリフォルニア大学を経て、スタンフォード大学教授となりました。
ポーリングの業績の最大のものは、量子力学を大胆に化学に導入し化学結合論の体系的構成です。炭素原子価の正四面体方向性に関する混成軌道の概念、ベンゼンなどの芳香族化合物の特性を共鳴概念で説明するのに成功、これらの成果が名著『化学結合論』(一九三九)にまとめられました。
一九五四年に構造化学への貢献でノーベル化学賞を受賞。さらに戦後、原爆禁止、核実験反対署名運動などで平和運動に積極的に取り組み、一九六二年ノーベル平和賞を受賞しました。
私も彼の『一般化学』や『化学結合論』を学びました。
小内さんは、その彼が提唱するメガビタミン療法に医学生のころにはまっていたというのです。
○ポーリング博士はメガビタミン療法にはまった!
以下はポールオフィット著 ナカイサヤカ訳『代替医療の光と闇 魔法を信じるかい?』(地人書館 二〇一五)をもとにしています。
彼が六五歳の一九六六年三月、ニューヨーク州での講演のとき、「私は『科学者たちが自然の本質について探究し成し遂げた様々な分野の発見について読むのはいかほどかの喜びか』と言い、そして『あと二五年は生きてこの喜びを持ち続けたいと願っている』と述べました。
カリフォルニアに戻ると、その講演を聞いていた生化学者ストーンからの手紙を受け取りました。手紙にあったのは、「もし毎日三〇〇〇ミリグラムのビタミンCを摂ることをすれば二五年どころもっと長く生きられる」という内容でした。彼はその助言に従うことにしたのです。
「私は、より元気で健康に感じるようになってきた。中でもそれまでずっと毎年何回か悩まされてきたひどい風邪をひかなくなった」と彼はいいました。
摂取量を増量してついには毎日一八〇〇〇ミリグラム摂取することにしました。その日以来、人びとはポーリングとえいばビタミンCとなったのです。
一九七〇年には『さらば風邪薬! ビタミンCで風邪を追放』(講談社 一九七一)を出版。人びとに毎日三〇〇〇ミリグラムのビタミンCを摂ることを強く勧めました。この本は瞬時にベストセラーになりました。ビタミンCの売上げはどんどん上がりました。一九七〇年代の中頃までには五〇〇〇万人のアメリカ人が彼のアドバイスに従いました。
○科学界医学界の反応を拒絶し、メガビタミン療法啓蒙にひた走った
ところがポーリング博士のメガビタミン療法への科学界医学界の反応はクールでした。
風邪の予防のためのビタミンの研究からは、風邪の予防や治療に有効という結果は得られませんでした。研究に次ぐ研究が彼が間違っている事を明らかにしたのです。
にも関わらず彼は研究結果を拒絶し、講演や一般向けの記事や本でビタミンCを推薦し続けました。
明らかに風邪の症状があるままメディアの前に現れることがあったが、「アレルギーがひどくて」と言っていました。
さらに彼は「ビタミンCは風邪を予防するだけではなく、がんを治す」と言い出しました。
一九七一年、彼はビタミンCでがん死を一〇 %減らせると宣言。
一九七七年には、「私の現在の推測ではビタミンCだけで七五 %の減少を達成できる」としました。「そして他の栄養サプリを合わせて使えばさらに減らせる」とし「寿命は一〇〇から一一〇年になる。やがては最高一五〇年になるかもしれない」と予言しました。
彼のメガビタミン療法は強い影響をもたらしました。
がん患者は主治医にビタミンC大量投与を要望しました。
当時の医師は言う。「あれには苦労した。意見を言うと、先生はノーベル賞を持っているのか?というんですよ」
もちろんがん研究者たちは検証実験することにしました。研究はビタミンCはがんを治癒しないという結果でした。
彼は諦めませんでした。
次に「ビタミンCは大量のビタミンAとビタミンE、さらにセレンとベータカロテンと一緒に摂れば、風邪を予防し、がんだけではなく事実上ほとんどすべての病気を治せる」と主張したのです。
一九九二年四月六日の『タイム』誌は、メガビタミンの驚異についての記事が出ました。内容は、根拠の無い・反証済みの彼の主張を肯定的に記事にしたものでした。この記事はビタミン製造業者の政治圧力団体である全米栄養食品協会(NNFA)にとって幸運なものでした。
○ポーリング博士にメガビタミン療法を信じさせた「抗酸化仮説」
彼は自分の主張に研究の裏付けがなくてもビタミンとサプリメントが万能薬となる一つの特性があると信じていました。それは「抗酸化」です。
研究では果物や野菜をより多く食べる人はがんや心臓病になりにくく、寿命が長いことが判明していました。その理屈がそれらが体内で生じる活性酸素をつぶす抗酸化物質をふくんでいるというものでした。それなら抗酸化物質サプリを摂る人も同じように健康になるはずだというのが彼の考えでした。
抗酸化物質サプリとは、ビタミンA、C、E、ベータカロテンなどです。これらの成分は野菜や果物に含まれています。
野菜や果物をよく摂る人と摂らない人では摂る人が健康状態がよかったのですが、「抗酸化サプリで健康」という仮説は大規模な試験研究で否定されました。対照群として抗酸化物質サプリを摂ったグループ、摂らないグループを比較すると、摂ったグループのほうがよりがん死したりして死亡率が高かったのです。複数の研究でそうなりました。
マルチビタミンを摂ったグループ、摂らないグループの比較でも摂ったグループの方が二倍、末期の前立腺がんで死亡していました。ビタミンサプリはがんと心臓病のリスクを高めたという研究結果も出ました。
実は活性酸素にはいろいろな種類があって、DNAを傷つけてがんや老化の原因になると共に免疫の武器として新しくできたがん細胞を消滅させる働きもしています。これも仮説ですが、大量の抗酸化物質を摂ると、いろいろな活性酸素のバランスを崩し、免疫システムが働くパワーを弱めてしまうと考えられます。
このような研究の結果が出てもビタミンの売上げは落ちないどころか上がったのです。
一九八〇年一二月、彼の妻は七七歳で胃がんで亡くなりました。
一九九四年、彼は前立腺がんで亡くなりました。九三歳でした。
六五歳のとき、「あと二五年は生きて…」という願いは達成されました。「寿命は一〇〇~一一〇年になる」には及びませんでした。
こうして、ポーリング博士は、素晴らしく正しかったために二つのノーベル賞を受賞しましたが、素晴らしく間違っていたために世界一のインチキ療法士と言ってもよいかもしれない人になったのです。
科学的な証拠では、メガビタミンは安全ではありません。それなのにアメリカ食品医薬品局(FDA)はなぜ警鐘を発しないのでしょうか。
『代替医療の光と闇 魔法を信じるかい?』のオフィットは言います。
「答えは、そう金と政治である」