左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

EM菌の三大危険性 by『学校に入り込むニセ科学』左巻健男(著)/平凡社新書

*「EMの三大危険性」は、本書の一部である。(EMはいわゆるEM菌)
Amazon→ 学校に入り込むニセ科学 (平凡社新書) 左巻 健男  2019年11月初版https://www.amazon.co.jp/dp/4582859259/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_mxMGFbF7J6GKA @amazonJPより

EMの三大危険性

 私は、EMをニセ科学の中でもっとも危険と感じている。その理由を3つ述べよう。

①学校や環境活動に入り込み、善意の人たちEMの普及を担ってしまっていること
 一部の学校では、先生方が子どもたちにEMボカシやEM団子を作らせて、プールや川や海に投げ込んでいる。環境活動を行っているボランティア団体でも同様なことをしている。
 また、特定の会社の商品であるEMを使った活動に、自治体が助成金を出して支援してしまっている場合が多いのも問題だ。

②EM界隈が政界に影響力を及ぼしていること
 かつて安倍内閣の文科大臣だった下村博文衆院議員は、比嘉氏の講演を聴いて「EM技術による放射能被曝対策もできるそうだ。(中略)同様の提案が私のところにも他からも来ている。私も勉強してみたい。」とブログで述べていた。
 政界では、2013年12月3日に国会議員の超党派による「有用微生物利活用議員連盟」が発足している。この議員連盟は「EM菌議運」と言われ,会長は野田毅衆院議員(自民)、幹事長は平井卓也衆院議員(自民)、事務局長は高橋比奈子衆院議員(自民)である。
 比嘉氏によると、この議運は、「スタートは50人内外でしたが、その後も新規に加入いただいていますので、近々100人を超える規模になりそうです。」と述べている(EM情報室 WEBマガジン エコピュア 連載 新・夢に生きる [79])。
 安倍内閣は、市議・県議時代からEMの広告塔的立場だった高橋比奈子衆院議員を環境政務官につけたこともあった。これについては、「週刊文春」2014年10月30日秋の特大号に「元女子アナ環境政務官は“トンデモ科学”の広告塔 まだある女性抜擢失敗!」という記事が掲載された。この記事のトンデモ科学とはEM菌のことである。この記事によると、高橋議員の父親(共産党県議6期を努めて引退)は06年にEM関連の会社を設立、高橋議員本人はEM菌効果について「わからなーい!そういうことは!私に聞かないで!現場に行ってないから…」と話しているという。
 また、2018年10月3日付けの「毎日新聞」は、「安倍内閣初入閣・平井科技担当相は『EM菌議連幹事長』と報じた。平井議員は「『EM菌を使っている方がたくさんいるので幹事長を引き受けた。中身はよく知らない』と釈明した。」という。
 さらに、同年10月10日の毎日新聞は、「平井卓也・科学技術担当相は10日、科学的根拠がないと指摘されている有用微生物群(EM菌)を推進する議員連盟の幹事長を務めていることについて、議連の解散を含めて検討する考えを示した。閣議後の記者会見で『議連は活動停止状態と聞いている。まだ解散していないので、今後どうするかを考える』と述べた」と続報した。
 実は、平井議員の後援会会長の会社「(株)アムロン」はEMセラミック「Eセラ」(EMX清涼飲料水を粘土に混入させ焼いたセラミックスの商品)の製造会社だ。また、平井議員の母・温子氏が社主の『四国新聞』ではよくEM菌の活動が掲載されている。平井議員が「中身はよく知らない」というのはあまりにも無恥というしかない。
 比嘉氏は、さまざまなEM商品を全部使うEM生活をすることを国民の義務にすることを狙っている。国民全体がEM・X GOLDという清涼飲料水を飲み、さまざまなEM菌商品を使う「EM生活」をするようになれば、生活習慣病などはなくなるので、もし病気になったら自己責任なので社会保険制度は不要という主張までしている。

③EM批判者の批判封じの働きかけをしていること
 EM研究機構の顧問と社員が、ときにはEM研究機構の顧問であることを隠し、EM菌の非科学性について批判している人らの自宅や所属機関に押しかけたりして、「名誉毀損」「営業妨害」だとして批判封じの働きかけをしている。
 本来なら、EM批判をしている研究者とは公明正大に議論をすればよい。本当に商品の性能に自信があるなら第三者に自由に検証してもらい、もし問題が見つかれば商品の改良を重ねていき、批判をもとにより良い商品開発を目指していくのが企業としてのあり方ではないか。

 

ZAITEN2020年1月号

『学校に入り込むニセ科学左巻健男(著)/平凡社新書/¥840+税 の担当編集者による紹介

 水が人間の言葉を理解するという『水からの伝言』、微生物が水や環境などを浄化するという「EM菌」、ゲームが脳に悪影響を与えるという「ゲーム脳」、ほかにも、人には右脳型と左脳型がいる、発達障害は親の教育の失敗、白砂糖は有害だ、肉食は危険だ、食品添加物はよくない、などなど……一度はどこかで目にしたことがある言葉ではないでしょうか。でも、学校教育にも入り込んでいるというこれらの言説、一見科学的な装いをしながらみんな科学的根拠がない「ニセ科学」なのです。
 教員や生徒の「善意」や「感動」を利用して、いま学校教育の中でニセ科学が勢力拡大を目論んでいます。そのオカルトまがいの言説は、学校教育の土台を揺るがすところまで来ているのをご存知でしょうか。ニセ科学の危険性に警鐘を鳴らし続けてきた理科教育の第一人者が、教育現場に侵入する怪しげなニセ科学の数々を一刀両断。どういうタイプの人がニセ科学にだまされやすいのか、そしてニセ科学にだまされないようにするためにはどうすればよいのかも指南します。(編集部 岸本洋和)