左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

備長炭電池づくり

 北から南まで、どこでも科学実験教室が開かれたとき10個のネタが
あったとすればそこに必ずふくまれるのが備長炭電池づくりです。
 備長炭電池づくりは、中学校理科の教科書にも取り上げられています。
 もう本当にポピュラーな存在です。


 備長炭(高温で焼いた炭)は、火持ちがよく燃え方がおだやかで発熱量
が大きく、三〇〇℃で放射熱の割合がガス火より大きいので、ウナギの
蒲焼きや魚焼きによく使われます。最近は、備長炭を入れてご飯を炊くと
おいしいとかということで、スーパーなどで備長炭が入手しやすくなった
のも人気になった原因でしょう。また普通の炭でも、さらにバーナーで
加熱してやれば備長炭の代わりに使えます。


 備長炭、食塩水、キッチンペーパー、アルミホイルという「台所にある
ものでつくれる電池」ということと豆電球やモーターを回せる強力さが
相まって科学実験教室の人気メニューになっていったのです。


 ですから、「うまくいかないのはどうして?」「どういう原理なのか?」
などの質問もインターネットの科学系のメーリングリストにくり返しくり
返し出てきます。これは今も続いています。


 備長炭電池は、私の知る限り、拙編著『理科おもしろ実験・ものづくり
完全マニュアル』(東京書籍)に、米村傳治郎さんが執筆してくれたのが
源流のようです。
 備長炭に食塩水(濃いほうが良い) をしみ込ませた紙を巻いて、その上
にアルミホイルを巻いてぎゅっとにぎって密着させるとアルミが負極、
炭が正極の電池になります。
 つくったのに豆電球が光らないという原因は、ショートしていたり、
密着が悪くかったりの他に、備長炭の質の問題があります。備長炭は、
窯のどこで焼いたかなどで電気抵抗が大きく違います。電池に使えるのは
電気抵抗が小さいものです。テスターがない状態で選ぶとしたら叩いて
澄んだ金属音がするものを選びます。


 この電池で、負極で本当に反応している物質(負極活物質)はもちろん
アルミで、アルミが陽イオンになるとき電子を放出します。備長炭電池で
放電させるとアルミがボロボロになっていきます。では、正極では、本当
に反応している物質(正極活物質)は何でしょうか。備長炭そのもの、
つまり炭素が反応しているようには見えません。実は、備長炭は、酸素
吸着剤としてのはたらきと集電剤のはたらきをしています。吸着している
酸素が正極活物質です。酸素と水が電子を受け取り、水酸化物イオン
なります。
 すると、この電池は空気電池ということになります。


 負極活物質と正極活物質を単位体積あたりできるだけぎっしり詰め込
めれば長持ちする電池になります。一九一七年にフェリーによって開発
された空気電池は、空気中の酸素を正極活物質に利用するもので、酸素
は空気中からどんどん補給できるという優れものです。後は負極活物質
のアルミや亜鉛さえ詰め込んでおけばいいのです。


 空気電池は、その特性を生かして一九七〇年代以降は補聴器用小型
ボタン型電池などに利用されています。
 こうして備長炭電池は、台所にあるものでつくることができて、なお
かつ今では水銀電池に取って代わったハイテクの長寿命電池のしくみに
つながっているのです。おもしろ実験・ものづくりは、その科学と、
社会との関連もふくめて指導されなければ、「おもしろい“だけ”」で
終わってしまうでしょう。(左巻健男

※なくなってしまったdoblog「さまき隊」にあったものを入れておきます。