私が若い頃、もう40年余り前の話ですが、1、2年ほどカルメ焼きに凝ったことがあります。
中学生に「分解」を教えるのに、試験管で炭酸水素ナトリウム(重曹)の熱分解を扱うのですが、それだけではなくその応用としてカルメ焼きに注目しました。簡単にできると思ってやってみると失敗の連続。ふくらまないのです。何袋の砂糖を消費したことでしょう。科研費ももらって研究(?)を続けました。
やっと、砂糖液に重曹を入れるタイミングがポイントだといううことがわかって、ほとんど失敗無くできるようになりました。
次はその授業の一コマです。
“『今日は、カルメ焼きの実験をします。前に集まって』
『カルメ焼きは、この前やった炭酸水素ナトリウムの分解を利用しています。炭酸水素ナトリウムを熱すると、分解して二酸化炭素ができましたね。その二酸化炭素で砂糖液がふくらみます。カルメ焼きを食べると少し苦みがありますが、それはそのときできた炭酸ナトリウムのためです。
これが炭酸水素ナトリウム、別名重曹です。これを使ったふくらまし剤を作ります』
卵を割って、その中身の白身少量を湯飲み茶碗に入れ、そこに炭酸水素ナトリウムを入れ、さらに少量の砂糖を加え練ったものを作る。
『それでは、私が見本を見せましょう。カルメ焼きは、適当にやるとほとんど失敗します。ふくらまないんです。砂糖液がある状態のときにしか炭酸水素ナトリウムを入れてもふくらまないことがわかりました。その状態は、素人は温度でわかります。そのため、温度をはかりながらかき混ぜます。お玉に、砂糖を半分ぐらい入れて、水をその半分ぐらい入れます。水をたくさん入れると時間がかかってしまいます』
『はじめは、温度計に集中しなくてもかまいません。それよりも砂糖をよく溶かして下さい。沸騰してからしばらくすると105℃を越え、段々温度が上がるようになります。そうしたら、温度をはかりながらかき混ぜます』
『今、120℃です。そろそろです。125℃になりました。ここで火から下ろします』
火からおろしたら、机の上にお玉をおき、ゆっくり炭酸水素ナトリウムなどを練ったものを米粒程度加える。わりばしで、練ったものが全体に散るようにかき混ぜると、全体が白っぽくなり、粘っこくなってくる。そうしたら、わりばしを抜くと、ふくらんでくる。
固まったら, なべの底全体を遠火で熱して、カルメ焼きとなべのくっついている部分をとかす。傾けるとカルメ焼きが動くようになったら紙の上にあけてできあがり。
『では、これからはみんなで一人1個つくってみよう』”
私のカルメ焼きの教材研究の成果は雑誌や本を通して全国に広がっていきました。検定中学校理科教科書は、5社から発行されているのですが、今ではどれにもカルメ焼きが紹介されています。全国の学校で私が開発した方法でカルメ焼きが行われていて、そこで歓声をあげる子どもたちがいるわけです。
私は、カルメ焼きの実験絵本を出したりしました。カルメ焼きの鍋は、ナリカという理科教材会社で「左巻健男先生ご指導」の説明書付きで販売されています。
それが載っているカタログを見た子ども向け実験教室を開いている私の知人が言いました。
「カタログには教育現場を全く知らない私にしてみると、とても興味深いものが並んでいました。中には「こんなんまで『実験キット』として販売するのかぁ」みたいなものもありました。たとえば、「カルメ焼きを作ろう!」。そこに書かれていた一行を見て、笑ってしまいました。
「左巻健男先生ご指導」
左巻さん、こういうこともしているんですねぇ。私は左巻さんに対してもうちょっと「カタい」って印象を持っていたのですが、それにピシィ!と大きな音でヒビが入ってしまいました。崩れ落ちるのも時間の問題か?(笑)」
ぼくは、何度も失敗して、砂糖の甘ったるいにおいをイヤというほどかぎながらやっと成功させたのです。それで、もしかしたら、学校理科も案外おもしろいことと結びついているぞと感じてくれる子どもたちがいるかもしれません。
今ではお祭りの夜店でカルメ焼きを見かけることはめっきり少なくなりました。しかし、学校ではカルメ焼きは何時までも続いていくことでしょう。