左巻健男&理科の探検’s blog

左巻健男(さまきたけお)&理科の探検(RikaTan)誌

左巻健男「話し方には人間性が表れる」(20年前の文章)

◎内なる倣慢さを自覚しているか

 話し方が上手、下手という問題以前に、教師の人間性の問題がある。
 私たち教師は、知らず知らずのうちに倣慢さを身につけやすい。
 大学を出たばかりでも、一国の主である。指導力量がなくとも、授業を行い、クラスを受けもつ。しかも相手は小学生や中学生など自分よりずっと年下で未熟者だ。それに加えて、余程のことがない限り、誰にも叱られるということがない。これでは倣慢にならないほうが不思議である。
 それだけではない。小・中学校ではまあまあ 〝優秀〝、高校で 〝少し落ちこぼれ〝 て、教育学部などへ進み、教師になるというパターンが多い。〝ソコソコ〝 の子ども時代を送り、〝ソコソコ〝 の職業についた。他人から 〝先生、先生〝と言われる。やっぱり、倣慢になりやすい。
 ついついえらぶってしまうのが教師なのだ。そこのところを自覚して、倣慢さを最小限におさえたい。
 生徒は言う。
「はなから人をみくだして 〝バカどもにわざわざおせーてやってんだぞ。おれは〝という話し方は嫌いだ」
「本を読まされたときとか読めない漢字とかがあると 〝こんなのもよめないのう〝 とか言う。すごくむかつく」
 私は、新任のころ、「おれは、教師だ。えらいんだぞ」 と鼻にかける心をもっていたかもしれない。しかし、同僚の女性教師に 「私は、教師なんて男がやる仕事だなんて思わないわ」と言われた。私の倣慢さを感じての言葉だった。思い上がった心に冷や水がかけられたのである。世の中の職業のなかで 〝ソコソコ〝 のものだ、教師は。教師という職業だけでいばってはならない。どんな仕事であろうと、仕事で充実感がもてるかどうかが大切なのだ。
 年下の子どもたちにいばってみたところで何になろう。
 第一、教師はサービス業的な仕事である。人気商売である。お客さんに好かれて成り立つ仕事である。生徒たちの前にプロの芸能人になったつもりで立つってことが必要じゃないだろうか。

◎上手な話し方の条件

 上手な話し方には、次のような四条件がある。
一、言いたいことがはっきりしている
二、具体的でわかりやすい
三、発音がはっきりしている
四、「そのー」 「あのー」などの無意味な感動詞がない
 これらの条件は、最低限クリアすべきことだ。クリアしてはじめて入門者から初級者のレベルになるだろう。私自身は、ちょっとその上の中級者くらいだろうか。
 話をするとき、私は、次のようなことに気をつけている。
一、導入でひきこむ
 こんなことが言いたいということをはっきりさせたら、最初の一まとまりの話をどうするかを考える。そこで、「ちゃんと聞いてみよう」という態度にさせなくてはならぬ。授業と同じで、話も導入が肝心だ。
二、いきいきとした顔つきで、手ぶりも加えながら話をする
三、聞き手の頭の中にイメージがわきやすいように具体例を入れる
四、興味・関心をひきおこす〝驚き〝 のある具体例を入れる
五、聞き手の何人か、とくにうなずいて聞いてくれる人を見ながら話をする(授業のなかでの話では、全員を見ながら)
 私と聞き手の問に共感性があるように話を運んでいきたいと思っている。
ホッとさせたり、ヘェーッと驚かせたりすることを織り込みながら話をしていくのである。
 ここまでくると、問題のある話し方は見えてきたはずだ。

◎こんな話し方は嫌い!

一言で 「中身のないことをだらだらとしゃべる」、これである。
 生徒は言う。
「ひとりごとのようにぶつぶつ意味のないことをしゃべるな!」
「話の中身がまとまっていないのにだらだらと話をするな。教科書とまったく同じことを話さないでほしい」
「とにかくだらだらと話をしないでまとめて簡潔に話してほしい」
 言いたいことがはっきりしていないのである。あたりまえのことを長々としゃべる、話があっちにいったり、こっちにきたり脱線しながら、という話し方って、職員会議でもよく経験する。
自分が相手に伝えたいことを考えて、話す中身を削ぎ落としていってみよう。
本当に言いたいことは、文章で書けば数行ですむことなのだ。それを具体的でわかりやすくするために肉づけするのである。
「伝えたい!」という心を感じられない話し方も問題だ。
 生徒は言う。
「ポケットに手を入れたまま話す先生がいる。とても嫌だ」
「子守歌のようで聞いていると眠くなるような話し方は問題だ」
「ひとに語りかけない授業やなげやりな話し方が嫌だ」
「ある先生は、いつももう授業をやりたくないみたいな感じで話をするから、こちらまでやる気がなくなってしまう」
 何のために話をするのだろうか。お互いのコミュニケーションのため、ということははっきりしているはずだ。
伝えたいことがあるから話をする。相手からも伝えてもらいたいことがあるから相手の話もよく聞く。そこにコミュニケーションが成り立つ。
 私は、クラスに教育実習生がつくと、「道徳の時間、一時間、クラスの生徒たちに、これを伝えたいっていうことを話しなさい。内容は何でもいいよ」
と命じている。彼らには、つらい課題なのだ。
 まず、教育実習生は、「何を話したらいいのか」 で困ってしまうのである。
「あれもこれも」で悩むのではなく、伝えたいことが見つからないで悩むのである。それは、未来に向かって前向きに、いろんなことに興味・関心をもって生きていないからだ、と私は思う。
 世の中には、おもしろいことがたくさんあるのに!
 それに輪をかけて、話す技術がなっていない!
 これを読んでいるみなさんは、一時間、中学生を自分の話に引きこませるようなネタをいくつもっていますか。
 「伝えたい!」という心があると、自分のアンテナの感度が上がる。新しい情報に敏感だし、新知識の吸収にも意欲的になれる。テレビを見たって、プロの芸能人の話しぶりや手ぶりなど体の動きに注意し、自分の話し方に参考にならないかと考えて見ている。話し上手な同僚の話し方にも注目する。
 逆に話し下手な同僚の話し方は反面教師にするのである。何だって勉強になる!

左巻健男 当時 東京大学教育学部附属中・高等学校教諭)
(『中学校学級経営』明治図書No.59 91年2月号 pp.5-7)