1.理科の授業の3タイプ
大きく分けて理科の授業には、3つのタイプがあるようです。
(1)講義中心
(2)問答中心
(3)実験中心
ここで、(1)は、「知識」注入の側面からみると、非常に効率的な方法です。時間もかからないし、だいたい話と黒板とチョークだけですすんでいくからです。ただし、私たちが講演などを聞いても、話を聞いている最中はわかった気分になっても、いざその内容を他人に話そうとすると、あやふやになってしまうなどの経験からわかるように、一方的な話というのは、認識の深まり、定着が弱い面があります。
(2)は、発問をもとに意見を発表させたり、「課題」(中心的な発問)をもとに討論し、実験や資料で決着をつけるという方法です。後に述べる「仮説実験授業」や「課題方式」などがそれにあたります。
この方法は、(1)と比べて効率は悪いが、「課題」に対して各自の多様な考えを交流し、それぞれの考えを吟味して実験などにすすむので、認識の深まり、定着の面では(1)より良いことが多いです。
(3)は、理科の授業の要が実験であることから、自然(物質)に親しみ、自然に問いかけるなかで学ぶという面で理科の授業では、よく用いられる方法です。
さらに、(1)〜(3)には、さまざまなバリエーションがあります。
どの方法を用いるかは、教える内容との関係で考えなければなりません。
私たちは、どうも「自分が教わってきた方法で教える」という傾向があります。授業の形態にも内容の展開の仕方にもいろいろなバリエーションがあることをふまえて、教師同士の学びあいも大切です。
2.授業の前提
どのタイプの授業をやるにしても、共通して知っておいたほうが良い事柄について述べることにしましょう。
〔教科書の扱い〕
「教科書を教えるのではなく、教科書で教える」と言われます。教科書を読ませ、その内容を説明する、という授業への戒めです。とくに理科の授業では、学んでいく自然科学の基礎的な概念・法則のバックには、自然(物質)があります。教室にモノを持ち込み、実物と相対させたり、実験したり、観察したり、を欠いて教科書にたよってはなりません。教科書は、あくまでも教材の一つです。
教科書の内容を並列的に扱っていくのではなく、大胆に重点化して扱い、教科書を参考書、資料集として考えたいものです。
〔教える内容をぎりぎりしぼる〕
理科の授業を受けた生徒たちが、授業後どんな認識をもてるようになれば良いのでしょうか。やはり、自然(物質)の姿(自然像)がとらえられるようになっていることがベストです。1時間1時間の授業は、そこに至る道程であることを意識しましょう。
そこで、教える内容を自然像をとらえるという観点で精選していくことが必要です。
あれもこれもの内容を教えるよりは、内容をしぼり、その内容をゆたかに扱ったほうが、授業後、頭に残りやすいのです。
自然科学の基礎的で本質的な内容(より適用範囲が広く一般性があり、具体的な事実や現象にぶつかったとき生きてはたらく知識になる内容)を、1時間1時間の授業で扱いたいものです。
〔教えることと考えさせること〕
教師が教えてしまったほうが良いときと考えさせたほうが良い場合があります。
教師が教えてしまったほうが良いときは、
①教えなくては生徒がわからないとき
②教えないと危険があるとき
③複雑な操作が含まれているなど、教えないと非常に効率が悪いとき
④考えさせるための前提的知識を与えることが必要なとき
です
とくに高度で複雑な事柄は、あっさりと教えてしまったほうが良い場合が多いようです。
考えさせると良いときは、
○生徒が考えるもとになる基礎的知識をもち、考える方法を知っているときです。
その場合にも教えてしまうと、考える機会を奪うことになります。
考えさせるときには、「発問」が行われます。前提は、「発問」の意味が全員のものになることです。「発問」は、「電波とは何か」といった漠然としたものよりも、「電波はどこにあるか」「電波がきていることをどうやって知ることができるか」など具体的なものが良いです。漠然としたものになりやすいときには、選択肢を3つ、4つつけると考えやすくなります。
1時間の授業を「導入−展開−まとめ」に分けると、授業を構成するのが容易です。この3つの節目は、きっちりしたものではありません。1時間の授業全体が「展開」部分であるという考えだってあり得ます。形式的に「導入−展開−まとめ」に3分節化するよりも、「展開」の重要な部分として導入を考えると良いでしょう。
〔導入で引き込む〕
授業の導入は良く考えたいものです。「この時間はこの課題を全員で考えよう」とその授業の要になる課題を出してもいいし、はっとするような事実を見せてもいい。
長々と前時の復習をやっていたり、つまらない話をしていることは止めたいのです。形式的に「導入」を考えている人には、前時の復習から始める人が多いのですが、本当に前時の復習が一番良いのかどうかは考えものです。
導入で引き込んだら、できるだけ早くその時間の「中心」に迫っていきます。生徒が「この時間は、こんなことを学習するんだ」とか「これを考えるんだ」ということが鮮明にわかるようにもっていくことです。
〔発問したら考えるゆとりを与える〕
教師は、一般に発問すると、瞬間的に答えを要求しがちです。知識の確認をするレベルの発問には、それでもかまいません。そういう場合も多いのです。
しかし、その発問が、その1時間の核となるようなものだったら、考えるゆとりを与えたいものです。全員が、それぞれに精一杯考えて、それらの考えの交流から授業を進めたいのです。
主発問をするときには、ノートに「自分の考え」を書かせると、そのゆとりを取りやすくなります。
〔机間巡視〕
ノートに自分の考えを書かせたり、作業をさせたり、問題を解かせたりしているとき、机間巡視を行います。すると教壇にいただけでは目の届かないことが観察できます。取り組みの弱い生徒には援助・激励したりすることができます。
机間巡視には教師の癖があるようです。とくに気をつけるべきなのは、いつも同じ場所を行ったり来たりすることです。全体を見ることを忘れないようにしましょう。
〔意見の発表〕
予想や考えが分かれたときには、少数意見から発表させると良いようです。常に注意すべきは、教師からみて間違っていても、その生徒なりに精一杯考えたことだということです。「経験」「常識」などからくる間違いは、実験などで正すことです。科学的認識へ至るためにはくぐりぬける必要がある間違いも多いものです。一言で否定しないで、その間違いの根拠(教師の側ではしばしば科学史の知識が参考になる)をみることにしましょう。
3.理科授業と実験
実験の基本は、「自分の考え(仮説)が正しいかどうかを自然に問いかける」ということです。問いかけてみて自然が答えてくれることから、自分の考えの正否を知ることになります。
したがって、実験の結果、その実験事実の根拠になる考え(仮説)の正否が確かめられる必要があります。
もう1つ、理科教育における実験には、教えた事実や法則を検証するという場合もよくあります。
どちらにせよ最も避けなければならないのは「何のために実験しているか」が生徒にとらえられていまま実験を行うことです。そのため実験のまえに「実験で何を調べようとしているのか」、つまり、
(1)実験の目的
(2)それぞれの操作の意味
(3)何のデータをとろうとしているのか
をハッキリ意識させておく必要があります。
また、予備実験を十分にやり、実験の失敗がないようにしたいものです。失敗して「本当は○○になるんだ」と言っているようでは、実験をやった意味がありません。
〔実験をするときの注意〕
まず理科室でのマナー(騒がない、走らない、関係のないものに手を触れない、話を良く聞く)を教えます。やり方や注意点などは実験の前に周知させておきます。実験が始まってからでは全員のものになりにくいのです。
実験の説明には、黒板、プリントなどをうまく利用し、実際に使う器具などを示しながら説明します。
準備と後片付けにはかなり時間がかかることを考慮して時間配分しておきます。
実験の後のまとめは結果を発表させたりするなどきちんとしておきましょう。
生徒は説明通り、教科書通りの結果を出すことに気をとられがちなので、事実を記録することを最初に言っておきます。おかしな結果が出たときは、何が原因だったのかを考えさせます。
〔実験の条件〕
実験は、
(1)直観的に本質をズバリと示すもの
(2)簡単にできるもの
(3)安全なものが望ましい。
〔教師実験と生徒実験〕
絶対、教師実験にしなければならないのは、
(1)安全上問題があるもの
(2)操作に高度の知識・技能を必要とするもの
(3)生徒にやらせるとまちまちの結果が出てしまうもの
です。
生徒実験にしなければならないのは、
(1)操作になれることが意味ある場合(例えば、顕微鏡観察やろ過の実験)
(2)実験をしながらいろいろなことがわかる場合(五感を通して事実を認識していくような実験の場合)
どちらにしても、「何のためにやるのか」「どの点に注目しなければならないか」をハッキリさせることが大切です。
〔教師実験の見せ方〕
全員が見えるように工夫します。見えない者がいないかどうか確認してから、始めることです。数回にわけて小人数ずつに見せるときには、席にもどってからやることを指示しておきます。
観察させるときには、同じ標本を多く用意して、グループごとに、なるべく同時に見せます。関連のあるものは、同時に見せ、比較させます。